Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日本橋公会堂『第四回 趣向の華 昼/夜の部』 S席1階

2012年08月11日 | 歌舞伎
日本橋公会堂『第四回 趣向の華 昼/夜の部』 S席1階

日本橋公会堂に実質5回目の『第四回 趣向の華』を昼夜通して観ました。この会は毎回思うのですが参加している皆さんの一生懸命に頑張る「熱」がダイレクトに伝わってきて観ているほうもとても刺激になりますし何より本当に楽しい。

また昨年あたりから単なる発表会ではない先を見据えた公演になってきているなという実感が。染五郎さんが「歌舞伎座が開場したらここにいる出演者全員揃えてこれ(趣向の華)を歌舞伎座に持っていきたい。袴歌舞伎をきちんと拵えして舞台を作って上演したい」とおっしゃていましたがこの言葉は本気だと思います。それだけのものが出来上がりつつある。『趣向の華』ならではの袴歌舞伎はたった1公演だけで終らせるにはもったいない戯曲と芝居になってきています。若者たちのこの一年の伸びっぷりには驚きましたし感動しました。袴歌舞伎は年々レベルアップ。本公演で観たい!と本気で思いました。

【昼の部】
『長唄 雨の五郎』
玉太郎くんがなんと立三味線。小柄な玉太郎くんなので三味線が手に余るかと思っておりましたがしっかり弾いていて頑張ったな~と。太鼓の鷹之資くんも崩れることなくきちんと叩いていました。大人チームはバランスよく演奏していたように思う。皆さん舞台が多くてなかなか稽古はできないだろうけど年々それなりに余裕が出てきてるような気がする。

『長唄 連獅子』
短縮ヴァージョンの演奏ですが『連獅子』は聴いていてワクワクします。かなり聴きなれた曲なので「がんばれ!」と思う場面もありましたけど思っていたよりしっかり演奏してきたなという印象。三味線の男寅くんが暗譜での演奏。音もよくかなり精進してきたと見受けられました。歌は隼人くんが上手いとまでは言えないけどきちんと長唄の節回しができてた。成長してる。龍之助くんは声は良い声してるけど節回しがまだできてないかも。頑張れ~~。

染五郎さんは立ち三味線で昨年同様に自信なさげな掛け声。自信なくとも声は出しましょうよ(笑)。演奏のほうは1年間稽古しなかったわりには昨年よりは音が良かったような気がしました。大薩摩になるところで「高麗屋!」の大向こう。自信なさげな染五郎さんが思わず苦笑い。それをみた客からも思わず笑いが(笑)。

『常盤津 夕涼み三人生酔』
勘十郎さんの三味線に浄瑠璃は菊之丞さんの二人は相変わらず玄人はだしの演奏を聴かせる。今回は三味線と浄瑠璃に一人づつ助っ人がいるのでより演奏に厚みが加わり単に技術的に上手いだけでなく演奏に情感がありしっかり情景が浮かんでくる。この二人の芸達者ぶりにはいつも舌を巻きます。

『袴歌舞伎 白虎隊』
過去二回(明治41年、大正5年)しか上演されていない岡本綺堂の作品。勘十郎さんが演出。袴歌舞伎としてはお初の新歌舞伎ですね。新歌舞伎らしい台詞の多い作品ですが題材が白虎隊ということもあり若者の逸る気持ちやある意味短絡的な絶望感は今でも通じるものとしてあり見応えがありました。個人的に白虎隊には多少思い入れがあったりする(福島県に住んでいたことがあるので)ので途中から涙腺決壊でした。

若い役者たちが必死に一生懸命に演じる様がそのまま勝ち目の薄い戦に臨む若者たちの姿と重なりストレートに哀れさが伝わってきました。また高麗蔵さん、亀三郎さん、亀寿さん、梅之さんのベテランが要所要所で芝居を締めていきます。ベテラン、中堅の力って凄いんだなと痛感させました。素なのに高麗蔵さん母が凛として美しい。

千太郎@壱太郎くんと万太郎@米吉くん兄弟は女形を手掛けることが多い二人ということもあるのか全体的に雰囲気が柔らかで優しげ。それゆえにこの兄弟の健気さがなおいっそう伝わってきます。

会津藩に恩義のある相撲取りに萬太郎くん、小柄な萬太郎くんですが低めにとった声がよく響き押し出しもよくて相撲取り風情がしっかり出てたのには感心しました。立ち回りもとても良かったです。

七之丞@歌昇くん、白虎隊の頭領格としての存在感があります。気持ちを耐える姿に色気があり華が出てきたな~と。

いつもは女形専門の源之助@梅枝くんは骨ぽさのある男らしく演じていて意外な姿。地声がとても太いので立役も出来ますねえ。梅枝くんは何を演じても外すことがないのが凄い。

幕が閉まった後、染五郎さんがご挨拶で「彼らがトウが立たないうちに今回の面子で本公演で再演してほしい」とおっしゃていましたが『白虎隊』は確かに若者たちの今の年齢だからこそな演目なので今回上演したメンバーを揃えて近いうちに上演してほしい。来年の大河ドラマ、舞台が会津藩だしタイムリーだと思うのよね。

『グランドフィナーレ』
『白虎隊』が悲しいお話なので最後はパアッとした出し物をということで。三味線を勘十郎さん、小鼓を染五郎さん、小鼓&太鼓を菊之丞さんで。

まずは梅丸くん、男寅くん、種之助くん、米吉くん、隼人くん、廣太郎くんで「会津磐梯山」の曲で手ぬぐいを使っての踊り。これはチャリティ公演で出した踊りの一部かな?個人的には種之助くんのとても素直な踊りが好み。

それから一気にテンポの速い曲調に。壱太郎くんと廣松くんがテンポ速く激しく踊っていく。観ていてとても楽しい舞踊!!!二人とも楽しそうにリズムを刻む。壱太郎くんはさすがの踊り上手さを見せるけど廣松くんも負けずについていく。『深川マンボ』という踊りだそうで壱太郎くんのおじいさま(坂田藤十郎さん)が得意な踊りだとか。やあ、ほんとこれ楽しいわ。にしても廣松くんには茶目っ気のある愛嬌がある、役者として貴重。


【夜の部】
『袴歌舞伎 大和神話武勇功』

『大和神話武勇功』で個人的に一言、すみれちゃんにだまされた~~(笑)。

神話ヤマトタケルを元に勘十郎さんが書き下ろした新作を染五郎さんが演出。様々な古典歌舞伎を散りばめた作品で演出も多少のくすぐりはあるものの古典に拘っておりいかにもTHE 歌舞伎な演目です。袴歌舞伎ですが全体的にとても華やかで観ていてわくわくする芝居でした。この演目、突っ込みどころ満載なとこも含めて初心者にもいいんじゃないかな。というか『白虎隊』と『大和神話武勇功』はまた観たい~~。本公演で再演して~!!

基本、お家騒動でそのなかにヤマトタケル神話を入れ込んで、幕ごとに時代物、世話物、舞踊、立ち回りと色んなものを見せていく。テンポよく物語が進みそれぞれに見せ場あって飽きさせない。そして若手がしっかりと芝居をしていく。そのなかで亀三郎さんが善人、亀寿さん悪人といつもの役割と反対の役をしつつ要所で押さえていく形。昨年まではベテランや中堅が物語を進め、そのなかで若手が一生懸命に演じるという形が多かったと思いますが今回は若手にそこはすべてを任せ完全に物語の中心に立たせていました。若手がそれだけ芝居をみせられるようになってきたんだなと思いました。舞台に立つ機会が増えて皆さん急成長中なんだなあと感動しました。ほんとに全員が全員とも魅力的で素敵でした。

また絶妙なテンポや華やかな演出も若手を引き立てていたと思います。染五郎さんの演出の作品を観ていつも思うのですが物語をしっかり見せるというだけでなく役者さんの個性を活かし非常に魅力的にみせることに長けてるなあと思うのです。どんな役の役者でも、脇役でも「あ、いいな」ってかならず思わせてくれるんですよね。今回もやはりそうでした。演出家として役者さんたちの良い部分を引き出すのが上手いんじゃないかなと思います。

今回、くすぐりの部分で美味しい役をもらったのが男寅くんと隼人くん。二人とも不器用なタイプの役者さんです。でも美味しい役をしっかり美味しい役にしていました。

女中役の男寅くん、所作も台詞もかなりしっかりしていたので相当頑張ったんじゃないかなあ。いわゆる繰り返しで笑わせる役なんだけどこういう役は間が大切。不器用さで笑わせのではなくそれが出来ていた。

隼人くん、ちょっと頼りない二枚目のお役、すぐに殺されてしまうけど幽霊になって出没。その幽霊役が面白かった。客席で客いじりをするんだけど、ボソリとしれっとしたことを言う。また髪をかき上げたりするしぐさも笑える。彼は黒衣操る人魂とともにふらふらと歩くんだけど、人魂がこれまた妙にいたずらする。隼人くんにぶつけてみたり振り回してしたり。黒衣は実は染五郎さんんだった(笑)。隼人くん、楽しそうに開き直ってやってた感。