Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 3等A席センター

2011年05月03日 | 歌舞伎
明治座『五月花形歌舞伎 昼の部』 3等A席センター

初日を拝見致しました。若手の勢いがありとても面白かったです。

『義経千本桜~川連法眼館の場』
忠信@亀治郎さん、昨年の亀会から大成長してました。亀会の時は柔らか味がありすぎて女狐にしかみえなかったんだけど、今回はしっかり立ち役としての狐忠信。かなりメリハリが効いていて、そのうえで狐らしいまるい柔らかさもあり、また情味の部分もしっかり表現していてとても良かったです。ケレンもかなり華やかにみせてる。猿之助さんが今回かなりしっかり指導されただけあります。亀治郎さんもよくここまで持ってきた。これぞ澤瀉屋の「四の切」。かといって、かならずしも叔父さん写しだけじゃない動きもあり、亀治郎さんらしい柔らか味も重視してるので亀治郎さんの忠信としてバランスが良いと思う。声の調子はだいぶ低めに取っていて叔父さんソックリ。でもあまり舌足らずになってないので叔父さんより聴きやすいかも。宙乗りでは亀ちゃんのドヤ顔炸裂です(笑)。ただ、本物の武将忠信ではまだ輪郭がしっかりしませんね。大きさが不足。カドカドの決まりがやはり柔らかすぎかな。形は綺麗なのですが。しかし、まだこれからですし、十分以上の出来だと思います。完全に持ち役にしてきました。

義経@染五郎さん、こういう格の高い受けでの役はまだまだだなと思っていましたけど、今回、サマになってきたと思います。だいぶ存在感がでてきてました。また義経の流転の哀しい想いを表現できてるのが非常に良い。台詞廻しが吉右衛門さんにかなり似てました。義太夫の勉強をしっかりしているるんでしょう。あとはもっと貴人としてのキラキラオーラを会得できればなと思います。初日だけか今後もなのか、なんと宙乗り亀治郎さん忠信を最後の最後まで見送っていました。今月ぶっ続けの五役なのでこれをやるとかなりキツイと思うのですが、こだわりがあるようですね。

静御前@門之助さん、少しばかり芝翫さん風味入ってて古風な味わいで、とても良かったです。忠信@亀治郎さんの芝居の間もよくあってましたし、さりげない情味もあり、上々出来。また3階からだからか、思った以上に可愛いんですよ(さりげなく失礼…すいません)。最近、女形をされていないせいか時々肩の線が男に戻る時はありましたがこなれてきたらそこも解消されるでしょう。

『蝶の道行』
相変わらずのキッチュな演出&衣装です。どうにかならないでしょうか…。とはいえ、私が見慣れてしまったのか前ほどはそんなに「ヘン」に思わなかったです。慣れって怖い…(笑)

さて染五郎さん、七之助さんコンビでの『蝶の道行』ですが初日はまだ熱烈恋人カップルではなかった。まだ幼い恋というか恋恋してる感じというか。以前拝見した染五郎さん、孝太郎さんコンビでのこの舞踊ではかなり熱烈でしたので…あれはやっぱり相当濃厚だったと思う。あと踊り手としてのバランスも良かったし。染・七となると七之助さんがまだちょっと染五郎さんと同等じゃないので…。とはいえ、染・七だと綺麗な悲恋カップルって雰囲気はしっかりあって、演出&衣装のクドさを中和してるような感じもありました。

助国@染五郎さん、まだ乗り切ってない部分はあったと思うけど踊り手としての表現力がかなり上達していて感心しました。情景描写のひとつひとつが活き活き活写されている。体の使い方がほんと良いです。しなやかさとキレのバランスもいいし、踊り自体に色気があるし。あんなド派手衣装がいらないって感じでした。

小槇@七之助さん、ちょっと細すぎる感はありつつお人形みたく可愛いかった。幼い感じさえ受けました。踊りのほうはまだ余裕がない感じ。何度かこの踊りは踊ってると思うのですが、今回のヴァージョンは初めてでしょうか?今回のはかなり手数の多い高度な振り付けなので。踊りとしては全体的にちょっと硬い感じです。まだ恋人同士の情景をしっかり描くところまでいってない。後半どこまで伸びるか。

『封印切』
世話物は江戸、上方問わずやっぱり難しいのよね~と。特に上方の世話物って独特ですし。今回、ほとんどが江戸の役者ばかりですし上方の空気感はかなり薄かったです。とりあえず芝居としても全体的に硬かった。初日で観た限りでは忠兵衛@勘太郎くんと梅川@七之助さんあまりニンに合ってない感じがした。それらしかったのは秀太郎さんの観てると物足りないけどおえん@吉弥さんといけずな敵役にはなっていなかったけど八右衛門@染五郎さんかなあ。まあ個人的に『封印切』に関してはかなり厳しいから…理想が文楽の玉男さんの忠兵衛ですから(笑)

忠兵衛@勘太郎さん、かなりの熱演でしたし、よくやっていたと思います。しかし骨太というか忠さんにしては強すぎる感じが。勘太郎さん、いまのとこ役どころにおいて基本的に揺らぎが無いというか、とりあえず今回、忠さんが必要な「はんなりした惑う弱さ」がないと思う。純粋なアホというか、あほだねえって言われそうな部分があまり無いですね。緩急の緩が効かないというか、押していく一方で。役によってはそれがすごく活きるけど、忠兵衛のような役はそうはいかない。藤十郎さんに習ったそうですがやっぱり台詞廻しなど勘三郎さんのほうを彷彿さます。八右衛門とのやりとりのあたりは藤十郎さん写しかなと感じさせましたが。耳が良い勘太郎くんにしては上方言葉に相当苦労してるなと。台詞が抜けるところが違うというか。あと「わし」って言わなければいけないのを「おれ」と言ってしまったり。こういう細かい部分は今後修正していってくれると思いますが。

梅川@七之助さん、可愛いです、でもそれだけでした。今月の役のなかで七くんが精彩欠いたのが梅川。役になってる?なってないよね?って感じ。柔らか味がないのは仕方ないにしても一途に忠さんのこと大好き、忠さんじゃなきゃいやって雰囲気にみえなかったです。「うるうる、ふわふわ」って雰囲気あまりなかったです。私の川さんのイメージって上目使いで目をうるうるで雰囲気がふわふわしてて一見弱そうだけど実は芯に一途さを持っているという感じ。七くんだと気の強さばかり目立つというか。

八右衛門@染五郎さん、敵役になりきれてないけど、大健闘といえば大健闘。仁左衛門さんに稽古していただいたのかと思います。仁左衛門さんのイキをよく写していました。そして思った以上に忠兵衛を追い込んでいる。それと井筒屋内でのやりとりの場をしっかり持たせてる。仁左衛門さんの八右衛門時に痛感したけど、あそこは八右衛門がコントロールしないといけない場なんですよね。それが出来ていました。ただし、突っ込みがまだ甘い。歌舞伎の八右衛門は友達がいのないかなり「いけず」な男。でも染五郎さんは「お友達」として忠兵衛と張り合って、からかっているようにみえる。本気で追い詰めようとしている感じではない。原作の八右衛門は確かに忠兵衛とちゃんとしたお友達ですし、本来、それでも悪くはない思うけど、今回、勘太郎くんが骨太なこともあり忠兵衛が単なる抑えの利かない、自爆しちゃった男にみえ哀れにみえない。だからもっとイヤミな男になってあげないとダメかもとか。バランスの問題なので染五郎さんだけが悪いわけではないのですが。あと、良い男すぎるというかかなり可愛い八右衛門ってところも。なんというか、舞台に二人忠兵衛がいるような錯覚に…。つくづく染五郎さんは忠兵衛役者だと思う。八右衛門が忠さんの真似をするとこなど、まさしく忠さんだった(笑)

おえん@吉弥さん、さすが上方役者、はんりしながらも言うことはしっかり言う、色気が漂う色町のおかみさんでした。イヤミがなく忠兵衛、梅川の心強い味方としての存在。

仲居の一人に小山三さん。お元気で若々しい。いつまでも頑張っていただきたいです。