Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

金丸座『第二十七回 こんぴら歌舞伎 第一部』 A席升席中央上手寄り

2011年04月24日 | 歌舞伎
金丸座『第二十七回 こんぴら歌舞伎 第一部』 上場席(A席)升席中央上手寄り

『熊谷陣屋』
集中度の高い芝居で引き込まれました。やはり花形が演じると「物語」がよく見えてくる。武家の世界の主従、夫婦、親子の関係性での悲劇。

熊谷直実@染五郎さん、1年ぶりの2回目の熊谷です。前回、予想以上に良い熊谷直実でしたので期待しておりましたが期待に反せずとても見応えのある芝居を見せてくれました。大きなお役は2度目が大変だと思いますがきちんと前回以上のものになっていました。熊谷にしては若すぎるきらいは確かにありましたがこれは今後きちんと持ち役にしていけると確信しました。

昨年の5月演舞場のときとはだいぶ印象が違いました。前回みえた幸四郎さん(この時は幸四郎さんだけではなく叔父の吉右衛門さんの雰囲気もありました)を一生懸命なぞって演じるという域からは少し脱しつつある感じです。自分の色を少しだけ見せられたかなと。前回は若いからこその「悩める熊谷直実」という染五郎さんらしさは勿論ありましたが、それでも演じる手順に精一杯だったり肩に力が入りすぎていたりと、ぎこちない部分が多々ありました。しかし今回は熊谷という人物の心情をストレートに表現していくという部分に集中できていたように思います。

演じ方でいえば特に前半、幸四郎さん独特のクセまでなぞっていた部分を削ぎ落としてその代わり丁寧に義太夫に乗ることを意識していたと思う。そして場ごとの心持ちをしっかり演じていた。声がよく出ていてかなり太くつくっていたように思う。完全に私感ですが、父、叔父を髣髴させる部分と共に初代吉右衛門(初代の熊谷を映画で見ています)に一瞬重なる部分がありました。

まずは出に愁いと大きさが出てきていて「哀しみ」を底に持つ武将という雰囲気をしっかり見せてきていました。そして相模や藤の方と相対する部分もきちんと武将という立場で相対していました。相模@芝雀さん、藤の方@高麗蔵さんがしっかり受けてくれたのも良かったのかもしれませんが「演じている」という意識が強かった前回に比べ熊谷直実という人物として相対せていたと思います。なので「熊谷陣屋」の「物語」が際立っていた。戦語りでの語り口はやはり上手いです。ストレートで情景がわかりやすい。前回同様ここでは「身代わり」の部分、まったく腹を割らない作り方でした。また相模と藤の方へ語り聞かせるという心持ちが今回のほうが明快でした。

そして後半、昨年演じた時はあまりに感情が前に出ていましたが今回は苦悩を腹に溜め込んで身体全体で表現。後悔というよりやらねばならなかったという苦しみがありました。首実検から制札で驚く女性陣を制する一連の流れに緩急がつき、しっかり見せ場になっていたのと共に直実の辛い気持ちを溜め込んでいるという表現にもなっていたと思う。相模に対しても申し訳なさとともに「判ってくれ」という切なる思いがそこにあったように思います。これは相模役者の持ち味が違うということもあったのかもしれません。今回は夫の想いを受け止めてくれる相模でしたので。ここがあって、出家する直実が一気に武将という鎧の殻を脱ぎ捨て一人の夫、父として戻っていくサマに説得力が出てきたような気がします。なので、1年前に比べ引っ込みが良くなっていました。引っ込みには直実の自身の想いに押しつぶされそうな悲痛さがみえました。やはり若すぎてまだ16年の実感とまではいかなかったかもしれませんが三人家族の幸せな想いに馳せ、やるせなくなってしまった熊谷直実という所まではいったかなと。

拵えがだいぶ馴染んでいたように思ったのですが鬘を少し変えてきたかな?と思いました。坊主姿になった時、素の綺麗な顔立ちが映え非常に綺麗でした。熊谷直実に美しさは必要ないと思いますが子を殺めざるおえなかった一人の男としての愁い、苦悩がそこにあり、この人は戻れないとこまできてしまったんだなという感慨を覚えました。

相模@芝雀さん、初役とは思えないほどとても素敵でした。武将の奥方らしい品と夫、子供を思う愛らしさのなかに芯の強さを垣間見せる。まずは相手を思いやる心根の優しい情の深い女。前半はついつい小次郎を案じ陣屋まで足を運んでしまうしなやかな強さと、直実にしかられ身を小さくしてしまう可愛らしさのバランスがなんとも絶妙。そして後半、母としての子への気持ちに母なる切実さがあって泣けました。相模@芝雀さんは非常に「愛情」が強く、それゆえに熊谷直実がしなければいけなかった所業を理解したうえで母として幸薄かった子を嘆く。ほんとに切なく哀しかった。お父さんの雀右衛門さんを彷彿させる部分も多かったのですが、かといって単になぞるという感じではなくしっかりと芝雀さんらしい相模として存在していたのがお見事でした。ここまで演じられるのになぜ今まで相模を演じなかったのかと思うほどの出来栄え。

藤の方@高麗蔵さん、すっきり品よく美しかったです。高麗蔵さんはストレートに母の部分を出してこないのですがそこがかえって上臈としての立場がみえて面白かった。またきりっとした風情が役に似合ってて予想以上の出来かと。

猿弥さん弥陀六、さすがにまだ色んな部分で若い感じでしたけど丁寧に演じててわかりやすかったです。また若い分、弥陀六の平家の武将であった手強さがしっかり見えました。彌十郎さんに稽古つけていただいたようですね。雰囲気として段四郎さんにも似ていました。とても大事なお役ですしモノにしていっていただきたいです。

『河内山』
松江宅内、玄関先のみの上演。幸四郎さんと梅玉さんが当たり役を伸び伸びと演じとても楽しい一幕でした。

河内山@幸四郎さん、楽しんで演じ自在。客を惹き付けるすべを知ってる。かといって崩しすぎないそのバランスがさすがです。華やかさのなかに品格のある河内山ながら終始茶目っ気があり「上州屋店先」の場がないにも関わらず、どこかしら企みをもつ造詣。なので観客を「この人物は何をしでかすんだろう」とワクワクさせてしまうんですよね。

松江侯@梅玉さん、松江候はこうでなくちゃと思わせます。大名としての品や格があるなかに、どこかしら鷹揚としたワガママさ、癇の強さを見せてくる。河内山が尋ねていて、面倒くさそうに対応する表情がいかにも殿様風情。河内山@幸四郎さんとの間もよく、表情豊かに楽しく見せて行きます。

北村大膳@錦吾さん、相変わらず人がよさそうで悪者ぽく見えませんが何度か演じているだけあって「らしい」押し出しが良くなってきています。河内山@幸四郎さんとの間もいい感じです。

高木小左衛門@東蔵さん、いかにもしっかりしていて思慮深さがみえ、良い家老なんだとという説得力があり。

個人的に気になったのが松江候の太刀持ち。とっても可愛い男の子。14~15才に見えて、あれ?梅玉さんたらまた可愛い部屋子でも入れた?とか思ったり。でもどっかで観たような気がすると思ったら京屋さんのところの京由くんでした。にしても若い、若すぎるっ。