Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八月納涼大歌舞伎 第三部』 1等花道寄りセンター後方

2007年08月17日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼大歌舞伎「裏表先代萩」 第三部』1等花道寄りセンター後方

『先代萩』を観るなら花道は欠かせないし、ということで一等席。『先代萩』を観るにはBestな席、花道寄センター後ろめの席をGet。観劇してみて我ながら良い選択。このくらいの席だと役者さんのお顔のアラ(皺とかたるみとか(笑))も見えないのね、とつくづく。皆さんとっても綺麗に見えました。さて、芝居のほうですが楽しみにしていた表裏の趣向があまり活きてなくて、裏と表がそれぞれほとんどLinkしてないのが残念。また芝居全体が「大歌舞伎」というより「花形歌舞伎」な雰囲気。一生懸命さは伝わってきたけど全体的に薄め。時代ものに濃密さを求める私には物足りなさが残りました。

「序幕 花水橋の場」
まずは「表」の場、文楽にはない歌舞伎独自の場です。立ち回りが主。

足利頼兼@七之助、線は細いが美しい。きちんとこなしている姿に好感は持つ。しかしながら鷹揚な殿様風情、ほろ酔い加減の色気は残念ながら足りない。また立ち回りの芯としてもいかにも弱い。どうみても刺客に何度も切られているようにしか見えない。

その点、頼兼を助ける絹川@亀蔵さんの大きさのある力強い動きは観ていて気持ちが良い。また太い声が相撲取りにピッタリでバランスの良い出来。

「二幕目 大場道益宅の場」
裏の世話物の場。医者の大場兄弟が仁木に頼まれ毒薬の調合をしてお金を受け取る、という部分で表との繋がりがある。それ以外に繋がったところは無く、基本ストーリーは大場道益のお竹への横恋慕、下男、小助の裏切りによる殺人事件の場。

お竹@福助さんが非常に愛らしく孝行娘の健気さが全面に出ていてとても良い。七月の「野崎村」のお光で表情がありすぎと思ったのだけど今回の後方の席だとそれが気にならないどころか、可憐で素敵という感想になった。最近前方の席ばかりで観ていたがたまに後方の席で観るべきかも。

大場道益@彌十郎さん、こういう役にしっくりハマるようになってきた。

下男小助@勘三郎さん、今回の「裏表先代萩」三役のうちの本役だと思う。活き活きとして勘三郎さんらしい上手さと観客を惹き付ける華を見せる。愛嬌と小ずるさが同居する、こういう世話物の役は絶品。ひとつひとつの仕草にイキな感じがある。

「三幕目 足利家御殿の場」
表の場、まま炊きは無し。展開がスピーディになるけど鶴千代君、千松の健気さが引き立つまま炊きがあるほうが好き。

前半、鶴千代君、千松の二人の子役の上手さで泣かせる。子役のしどころが多いので上手い子役じゃないと持たせられないのよね。

政岡@勘三郎さん、実はかなり期待していたが、政岡って本当に難しいのね、と思わせたものになった。勘三郎さんの政岡は母性溢れる政岡と聞いていたが、確かにかなり世話に落とした演じようで母の部分を際立せた造詣。勘三郎さん、工夫してきたなと思った。が、しかし初役ということもあるのだろう、すべてがまだまだ段取りを追うので精一杯な雰囲気。一生懸命、演じているのは伝わってくる。がしかし、政岡というキャラクターを浮かびあがらせ、切々としたものを聴かせるには到っていない。全体的に大きさがないというか…等身大といえば聞こえはいいが、見せ場のひとつひとつで際立つ部分があまりなかった。クドキでは義太夫にのろうとするあまり、かえってブツブツと途切れる部分も。

改めて、藤十郎さん、菊五郎さんの切々とした流れるようなクドキの場の上手さを思い知り、玉三郎さんの計算された切り口もやはりかなり上手かったと思った次第。

八汐@扇雀さん、女形ならではの女のいやらしさ、非情さがある八汐。前回演じた八汐の時(2004年 大阪松竹座)より押し出しが強くなっていた。普段は加役がやる八汐だが、女形ならではのねちっこい八汐も面白いと思う。

栄御前@秀太郎さん、存在感は抜群。上手さもあり、役者のなかではしっかり重量級というところを見せる。が、この役はニンではないような気がする。

沖の井@孝太郎さん、地味ながらきちんと役割をこなしてかなり良い。体全体の姿形が非常に美しくなってきたと思う。

松島@高麗蔵さん、きちんと品格があって最近の女形の役のなかでは顔も美しく見えました。

「同  床下の場」
荒獅子男之助@勘太郎さん、張り切って頑張ってます~な感じ。若さ溢れる勢いがある。でも若さゆえの拙さもみえる。荒事の難しさだろう。拵えはとても似合うので今後も荒事は演じていってもらいたい。

鼠の動きのキレが非常によかった。どなたが入っていたのでしょう?

仁木弾正@勘三郎さん、大きさ、不気味さどちらも足りない。引っ込みは悠然と、ではなくちょっとバタバタした感じが否めない。お顔は先代に似てきたせいかそのちょっと独特の風貌がなかなか存在感があっていいとは思うものの「床下」での仁木はニンではない。

「大詰 問注所小助対決の場」
道益殺しを裁く裏の場。大場弟が裁かれないので少々モヤモヤ感が残る。

この場はなんといっても倉橋弥十郎@三津五郎さんの上手さが光る。出てきただけで場が締まる。間の取り方が絶妙。

小助@勘三郎さん、表情のひとつひとつが良い。ちょっとサービス精神旺盛すぎるかな?と思う部分はあれど小悪党の小助というキャラクターとして造詣が見事。

お竹@福助さん、神妙に演じていてやはり良い。

「控所仁木刃傷の場」
表の場。こちらを最後に持ってくることで全体が締まる。

仁木弾正@勘三郎さん、こちらの仁木は合っている。立ち回りがさすがに決まっている。

勘三郎を受ける立場の渡辺外記左衛門@市蔵さんが大事な老け役を頑張っていて、なかなかの出来。

渡辺民部@松也くんが爽やかですがすがしい。

細川勝元@三津五郎さん、前幕の倉橋弥十郎と似た捌き役で拵えも似た感じになるので同一人物に見えてしまう。この配役はもう少し考えるべきだったんではないか。三津五郎さん自体はこちらも非常に良い出来。幕切れが締まったものになったのは三津五郎さんの台詞の上手さにあると思う。