Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

2010年09月03日 | 歌舞伎
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

『月宴紅葉繍』
梅玉さん、魁春さんの雅な踊り。残暑が厳しいので秋という気がしない日々ですが、この舞台で秋の風情が楽しめます。品よくゆったりと踊る梅玉さんと、優雅に踊る魁春さんコンビが素敵。魁春さんがとっても可愛いかったです。

『伊賀越道中双六』「沼津」
まだ始まって2日目なので全体的にはまだこなれてない部分もありましたがしみじみとした味わいがあって良かったです。劇中に歌六さん、歌昇さんご兄弟の萬屋から播磨屋への屋号復帰(変更)の口上がありました。           

十兵衛@吉右衛門さん、商人らしい腰の低さやぼんぼん育ちの鷹揚さのなかに男気のある十兵衛。吉右衛門さんが演じると存在感がどっしりしすぎかなとは思いますが、平作が自分の親だと知った後の男気を見せていく後半が非常に良いです。

雲助平作@歌六さん、老け役もだいぶ板についてきた感じですねえ。歌六さんの老けには手強さがかならずあって、前回、平作を演じた時はその強さが勝ちすぎた部分があったのですが、今回は人物像のバランスが良かったです。朴訥で気骨のある平作です。前半もう少し軽妙さがあってもいいかなと思いますが、演じていくうちに平作という人物像の説得力がどんどん増していき、その一本気ゆえの行動の哀れさに泣けてきました。

お米@芝雀さん、艶のある可愛らしさ。お米という女性の夫ゆえの必死さに説得力がありました。想いの強さが前面にでている素敵なお米さんです。このお役は巡業で拝見していますが本興行でちょっと緊張してるのかな?という感じがあって少しばかり段取りぽく見えてしまった部分が。芝雀さんならもっともっと魅力的に見せてこれると思います。台詞廻しがますますお父様の雀右衛門さんに似てきましたねえ。

安兵衛@歌昇さん、使用人としての距離感、信頼されてる気安さのバランスがすごく良かったです。

池添孫八@染五郎さん、少しだけの出番でたいしたしどころが無い役ですが存在感があって華がありました。

茶屋のおかみさんが吉之丞さん、妊婦さんが歌江さんでしたー。

『荒川の佐吉』
物語はあまり好きではないんです。しかし個人的に演じている役者には萌える場面も多いという演目です(笑)。こういう任侠の男をやらせると歌舞伎役者は倍増しでカッコイイような気がする。

佐吉@仁左衛門さん、手の内に入った芝居。器量はあるけど上に立つことを考えたことがないという純粋さのある人物像の加減が上手い。その部分で、仁左衛門さんは佐吉をカッコよく造詣してるわけではないんですが、それでもカッコよく見えちゃう、見せてしまう。姿が相変わらず本当に綺麗です。子供好きの佐吉像は仁左衛門さんご本人に重なり、どことなく、じじの顔がのぞいちゃうのもご愛嬌(笑)目尻が下がった笑顔が可愛いんですよね。

辰五郎@染五郎さん、前回2006年6月に演じた時も素直で優しい辰五郎としていい存在感でしたが今回は前回以上に存在感がありました。一人真っ当な道を歩いてる男として立っていました。前回は佐吉@仁左衛門さんをひたすら慕うという雰囲気でしたが、今回はかなり気持ちのうえで「友情」が対等な感じというか辰五郎の包容力がみえた気がした。とっても情味があって優しい辰五郎だけど道理をわきまえて、卯之吉を守り、佐吉を助けてる。前は佐吉にちょっと精神的な部分で頼ってるようにみえたので前回は佐吉が卯之吉と辰五郎を置いて去ることが「ひどい」って思ってしまったのだけど、今回は佐吉の矜持を支えるための別れなんだなと納得できた。

政五郎@吉右衛門さん、存在感抜群でかっこいいです。有無を言わさぬまさに大親分といった風情。でも台詞が若干あぶなかったかな…。

成川郷右衛門@歌六さん、今月休演の左團次さんの代役ですが渋くてカッコイイのです。成川はかなりイヤな男なんですが、それも男の生き様というように感じさせます。

鍾馗の仁兵衛@段四郎さんが落ちぶれた親分の凄みがあって良かったです。

隅田の清五郎@錦之助さん、ちょと出ですけど、仁義に厚い任侠として説得力がありました。お八重さんが惚れて、ずっと忘れられないと言うのもわかります。

お新@福助さん、うまいですね。お新を説得力をもって演じるのはかなり難しいと思うんですが身も蓋もない女の切なさが良いです。泣かせます。

『寿梅鉢萬歳』
未見。次回しっかり拝見させていただきます。