Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 特別席前方センター

2009年12月21日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 特別席前方センター

新歌舞伎3本です。地味な感じは否めませんねえ。

『頼朝の死』
この演目自体が好みでないので…なんとも。芝居に全然乗れなくて辛かったです。良かったのは主人思いの芯がある優しい侍女音羽を演じた吉之丞さんと腹の据わった大江を演じた歌六さん。そしてなんといっても政子の富十郎さん。最初はあまりに女形に作りこんでこないので違和感があったのだけど、それでもあの圧倒的な貫禄に次第に引き込まれる。それと押さえた台詞廻しがいい。『頼朝の死』という芝居はそれぞれの内なる苦悩の物語なのであまり詠いあげないほうが伝わる。

頼家@吉右衛門、重保@歌昇さん、小周防@芝雀さんは芝居方法がこの芝居に合ってないような…熱演が違う方向にいってる。なんだか皆が暑苦しく芝居しているのがこの演目に合わなくて空回りしてるように見えた。まずは台詞廻しが前に押し出しすぎ。押さえて押さえて苦悩を見せるべきだろうと思う。個々の悩みが、元が同じとこから出ているにも関わらず根本的なところで交差しない物語だ。特に頼家@吉右衛門さんも重保@歌昇さんは、深く自分自身に問うような台詞廻しにするべきじゃないかと…。

そもそも吉右衛門さんが頼家というキャラククターに合わないと思う。なんというか全然説得力が無いんですよね…。頼家って優れた歌人だったけど政治手腕はない人物(史実)で、なおかつこの演目では青二才特有の傲慢さと精神的な弱さが同居した浮ついた人物として描かれていると思うんだけど、歌人風情はないわ、芯が強そうだわ、政治手腕ありそうだわ、で全然ハマらない。しかも台詞を詠いすぎて生まれながらの貴人風情がみえてこず暑苦しい。やっぱりこの役は梅玉さんじゃなくきゃって感じがする。台詞回しも梅玉さんくらいのほうが伝わる。個人的のこの芝居の頼家は好きなキャラじゃないけど梅玉さんのは「知りたい」と言いながらもその怒りのなかどこか諦観した寂しさとか哀れさがちゃんと伝わってきて説得力は十分にあったと思う。

重保@歌昇さん、熱演すぎだと思う。苦悩はあまりに表に出しすぎると自分本位だけの悩みになりかねない。台詞自体が饒舌すぎるくらい苦悩しているので抑えて内に秘める風情があったほうが重保の立場の哀れさが出るんじゃないかと。

小周防@芝雀さんは可憐な感じは良かったと思うし、真相を話そうとするのも重保を助けたいがためってわかるのが上手いとは思うけど、吉右衛門さんと歌昇さんのテンションに引きずられている感が…。台詞廻しをもっと押さえつつ一途さを出したほうが哀れがでると思う。

京珠さんのお小姓が何気に可愛かった。

『一休禅師』
絵面の華やかさだけを愛でる。禅問答、わからないし(苦笑)。

一休禅師@富十郎さん、枯れた味わい。踊りのほうは手の動きはさすがなんですが、本当に動けなくなっているんだなあと寂しくも。

かむろ@愛子ちゃんはとっても愛らしく、幼いなりにきちんと役者の踊りをしてました。摺り足がきちんと出来てた。

地獄太夫@魁春さん、優しい大夫さんって感じですね。もう少し色気があってもいいかなあ。髑髏の打ち掛けが凄かった~。 化粧は最近ちょっと気になる…若い時の化粧のままなのかなあ。松江時代、とっても可愛らしかったんですよねえ。でも顔がやはり変わってきているのでもう少し工夫すれば魁春さんはかなり美形になると思うんですが…。

『修善寺物語』
三演目のなかでは面白く拝見できた演目。吉右衛門さんと段四郎さんが若干台詞が怪しかったけど…傷になるほどではなかったです。

夜叉王@吉右衛門さん、頼家こちらの役のほうが断然良いです。台詞廻しはもっとカンの強い芸術家風情があるほうが説得力ありそうだけど、ただの職人というだけでない存在感があるから、わりと納得はいく。

桂@芝雀さん、気位の高いいわゆるツンデレという芝雀さんには珍しいお役だけどこちらのほうが活き活きしてて良かった。着物も可愛い。

楓@高麗蔵さんも役がいつもと違い控えめな役だったけどこちらも意外とお似合い。

春彦@段四郎さんが若いっ。若い声を出すと亀ちゃんだ~~って思う。あ、反対なんですけど(笑)

頼家@錦之助さん、癇癪の強さのなかに寂しい風情があり、似合います。個人的に錦之助さん、芝雀さんカップルが並ぶとなぜかホッとする(笑)。バランスが良いんですよね。

景安@種太郎くん、立ち回りが良かったです。身軽さもあるし、形もなかなか頑張っていました。