Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』 3等B席右袖

2011年08月19日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』 3等B席右袖

『東雲鳥恋真似琴』
G2さんの新作歌舞伎です。新作としてはかなりまとまっていると思いましたし全体的に舞台として安定感がありました。しかし個人的にはもうひとつ何か足りなかったです。もう少し物語にグルーブ感というか熱が欲しかったかな。舞台装置、演出はなかなか良かったと思います。特に人形棚がせり出してくるところは見ごたえがありました。回り舞台もうるさくない使い方。物語も普遍的な人の心持ちを扱っているところに好感。しかしながらその普遍的な心の部分の表面をなでている感じで物語として薄かったかなあ。もう人物造詣を突っ込んで描いてもらいたかった。

藤川新左衛門@橋之助さん、アテガキだと思うのですがキャラに説得力がありました。堅物で友人思いでまっすぐ。そんな純粋な人間が初めての恋に溺れてしまう。ひたすら一途に愛する人を見つめ周囲がみえなくなってしまう。周りからみると可哀想な人だけ本人は幸せ、そんな新左衛門をひたすら陽で演じていく。だから悲壮感がなく、ああ、この人は幸せなんだなと納得させてしまう。

関口多膳@扇雀さん、立役はあまりなさらないけど今回、非常に良かったです。出世に対して貪欲で自分中心ではあるけど、単なる悪役ではない心の弱さやある程度の道理もわきまえてる人としてふくらみのある多膳で好演。立ち姿もキリリとされていて扇雀さんは今後、立役ももう少し手掛けていってもいいかも。

高橋秋之丞@勘太郎さん、新作だと勘三郎さんに似ないんです。勘太郎さんそのものが前に出る。熱血感でちょっとおっちょこちょいで家族思い。そんなまっすぐな秋之丞をそのまま真っ直ぐに演じておりました。

お若@七之助さん、健気で必死に尽くすお若をとても可愛らしく演じていて、この子には幸せになってほしいと思わせるだけの器量を見せてきました。

お弓@萬次郎さん、いい味わいです。藤川家を守るために必死に立ち回る風情に母としての顔と家を守らなければいけない武家の女の両方を感じさせ、またそこにどこか滑稽味を感じさせる。武家の女としての風情をしっかり保っているからこその存在感のあるお弓。

小夜@福助さん、花魁の小夜はとても良かったです。女としての矜持がしっかりあって凛としている。しかし人形の小夜のほうはちょっと微妙。人形振りで演じますが表情を崩しすぎ。あそこまで表情を作らないほうが人形の怨念が感じられると思うのですが…。好みでしょうかねえ。

左宝月@獅童さん、一人だけどうにも浮いていました…。台詞廻しも佇まいも軽すぎるんですよね。一人歌舞伎ではありませんでした。何を演じたいのかみえませんでした。左宝月という天才的な人形師としての業をなぜ表現しないんでしょう。新作や新作に近い復活狂言となると獅童さんはどうもきちんと人物を造詣できない。ニンでないお役だとなおさら。映像ではきちんと芝居ができると思うんですが舞台だとなぜこうなるんでしょうか?

『夏 魂まつり』
芝翫さんのお元気な姿を拝見で満足しました。 橋之助さんの女形が綺麗ですね。全体の姿はやはり福助さんが段違いに綺麗ですが。