Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第一部』 3等B席上手後方

2011年08月19日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第一部』 3等B席上手後方

『花魁草』
私は北條秀司の男子ドリーム的な女性観が苦手なので「ああ、またか、というかやっぱりね」というのが先に立ち今一つ盛り上がらず。結局は男の都合にいい女で、まあそれは良いとしても、過去の殺人が母の血ゆえとか、そもそもそういう設定必要?と思ってしまうんですよね。女の血は穢れていて男の血は純血とか、そういう意識まるだし。近代の作品なのでそれが鼻につく。それが芝居として立体的に現れるとなおさら…。字面だけだったら余韻ある小品かもしれないけど…って感じかなあ。

地震から逃げてきてという設定のこの作品を選んだのは3月の東日本大震災が念頭にあったのでしょうがちょっとタイミングが早すぎた気もします。まだ冷静に振り返る時期じゃないですから…。

役者さんたちはそれぞれ役に合ってて良かったと思います。

お蝶@福助さん、苦界に身を落としたやるせない女を演じるのが本当に上手いですね。明るく装ってはいてもどこか足が地についてない根無し草のような女。また、狂気ともいえる一途さゆえの危うさと純情を描き出して良かったと思います。
                
幸太郎@獅童さん、柄に合ったお役でしたね。獅童さんが演じるものをいくつか観てきて思うのは、純粋で心根が優しい青年というキャラが獅童さんには一番似合うなという印象。独特の風貌で色悪などを演じることが多いですが実際のニンはその反対なのだと思います。芝居特に歌舞伎に関してはかなり不器用で基礎の部分もまだまだと思うことが多々ありますが、時々それを気にさせないような役があります。今回の役はまさにそういう役だったかなと思います。純情でちょっと甘え上手で根が不器用で、という青年にピッタリでした。

米之助@勘太郎さん、いかにもな田舎の人のよさのなかに才覚を秘めた米之助。単なる人のいい人物でないキャラをよく造詣してきたと思います。台詞廻しがお父さんの勘三郎さんソックリでした。台詞の間合いなど勘三郎さんに稽古つけてもらったかもしれませんね。

米之助女房@芝のぶさん、田舎の生活に根を生やしている人の良さが前面に出て米之助@勘太郎さんといい一対。芝のぶさんはこういう地味な役で特に地力をみせますね。

勘左衛門@彌十郎さん、先見の明がある懐の広い座元を裏表無く演じて気持ちよい芝居。

お栄@扇雀さん、幸太郎にほれ込んでいる後家さんをいかにも扇雀さんらしい気の強さと思い入れの強さで演じて印象に残しました。

小料理屋女房@歌江さん、最初の幕だけのご出演でしたけどさすがの存在感ですね。佇まいが良いのですよねえ。

『伊達娘恋緋鹿子 櫓のお七』
舞踊仕立てにした「火の見櫓の段」のみの上演です。歌舞伎では『松竹梅湯島掛額』の最終幕につけることが多いですね。今回は客席に降りる趣向になっていました。こういうファンサービスはいいですね。

八百屋お七@七之助さん、まずは黄八丈の拵えがとても似合っていて非常に可愛いです。世間知らずののんびりほんわかしたお嬢様風情もよく出ていました。踊りのほうは拙い部分はあれども人形振りとしてのケレンは成功してました。細身の体も手伝って人形そのものに見えましたし、「本物の人形みたい!」との感嘆の声も聞こえました。ただ、人形の部分に魂が入っていたかというと残念ながらまだまだ。人形振りのなかに恋の情念をみせないといけないと思うのですが、吉三郎ラブな気持ちはなかなか見えてこなかったです。文楽でいえば若手が一生懸命操っています、までの段階かな。また人形から解けて人に戻った後もまだ人形ぽさが抜けずメリハリがまだまだ。

個人的に『櫓のお七』は菊之助さんと亀治郎さんのがかなり印象に残っています。この二人のお七には吉三郎が恋しいどんなことでもして恋人の元へ行きたいという気持ちが人形振りのなかに込められていました。そして人に戻った時の活き活きとした表情もとても良かったです。

人形振りってことでは玉三郎さんと勘三郎さんと福助さんの道行きが凄かったなと時折思い出します。