Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

世田谷パブリックシアター『カラス/Les Corbeaux』 1階前方センター

2012年02月17日 | 演劇
世田谷パブリックシアター『カラス/Les Corbeaux』 1階前方センター

今まで私が観てきたコンテンポラリーダンスのなかで一番抽象的でテーマを受け取るのが難しかったけど、そこを含めて色々と面白かった。私は異形を感じるものが大好きだ。

コンテンポラリーダンスというよりパフォーマンスアートといったほうが近い印象。生演奏の音楽とのセッション、即興の絵、砂と金属の筒を使った音と筒の構築、そして身体表現。なんとも緊迫感に満ちた不思議な空間がありました。おじさん同士が遊んでるようにも見えるんだけどね。実はちょっとシュールで笑いがこみ上げてくる部分もあったんだけど笑える雰囲気ではまったくなく。観客のあの静けさもまた舞台の空間のひとつ。

アコシュ・セレヴェニ氏の音楽が色々と楽しかった。不協和音一歩手前なんだけど耳障りではない。サックスを声を出しながら吹いたり、リードを使わないで吹いたり(すか~っという音を出すw)、急の大音量で鳴らしたり。弦や打楽器は東洋的な音使い。アコシュ・セレヴェニ氏の唸り声は途中、お経のようにも聴こえた。絶えず音を鳴らすのではなく静寂と音と。ポストトークでその「間」を大事にしたとのことでした。そこに真実があると。フリー演奏なのか決まった演奏なのかわからなかったのだけど、どうやらフリー演奏だった模様。

ジョセフ・ナジ氏は最初は白いスクリーンの裏で音に合わせて絵を描いていく。四角い箱をかぶっていて人影が抽象的になる。絵は適当そうにみえて意外と緻密なバランス。絵が上手いんだろうなと思う。最初は落書きしたりアコシュ・セレヴェニ氏と一緒に砂で遊んだり(笑)しているので普通のおじさんに見えた。でも踊り始めたら凄かった。腰を落としてちょっと独特の姿で数秒静止したのだけど、それがとんでもない質量感。人の身体があれほどの質量を感じさせるのかと驚いた。ずしっとした重さがそこに現れた。そして動き始めるのだけど、人を連想させない。異形がそこに蠢いてる、私にはそんな風にみえた。カラスというより異形。ジョセフ・ナジ氏が描くカラスは羽ばたかない。どちらかというと甲殻類系ぽかった。特に最初のほう。ザムザを連想。後半大きなインク壺に身を沈め真っ黒になる。てらてらと光ったその姿が彫像のようにもみえる。ゆっくりと動きながら白い床に黒々と痕跡を残す(描く?)。白と黒、光と闇、その境界に立ち現れた異形。

この舞台にテーマがあったとしたならば正直、私にはそれが何かわからなかった。でも驚きや感覚的な面白さは感じた。とはいえ黒意外はカラスへの連想が出来なかった私…。黒々とした異形が変態し殻を脱ぎ捨てたみたいなイメージ連想しながら観てました。どう考えても全然違いますね…。壺はカラスの行水かしらん?で、濡れそぼったカラスがバタバタと水と飛ばしまくると(笑)。とか、そんな短絡的なものではないと思います(^^;)、と自己ツッコミ。神話的な物語を重ねているということなので東ヨーロッパの伝説・神話を知らないときちんと理解はできないのでしょうね。

終演後ポストトークがありました。

出演:ジョセフ・ナジ/アコシュ・セレヴェニ
ゲスト:野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)/田村一行(大駱駝艦、ナジ振付『遊*ASOBU』出演)

通訳を挟むし若干噛み合わないところもありましたけど楽しいトークでした。萬斎さんは相変わらずフリーダム(笑)。

○カラスのイメージについて。
萬斎さん「日本ではゴミを散らかしたり嫌われものという印象があるが。
ナジさん(旧ユーゴ出身のフランス人)「故郷では知恵、長生きの象徴でポジティブなイメージ」
萬斎さん「日本でいう八咫烏のほうですね。神話的な。」
ナジさん、「そう、神話的なほうのカラス。日常のカラスではないほうのイメージで。」

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世田谷パブリックシアター『カラス/Les Corbeaux』
[振付・出演] ジョセフ・ナジ
[音楽・演奏] アコシュ・セレヴェニ

《プロフィール》
◎ジョセフ・ナジ[振付・出演]
旧ユーゴスラヴィア(現セルビア)のカニジャ生まれ。大学で美術史と音楽を学ぶ傍ら武道や演劇にいそしむ。舞台を志し渡仏後、パントマイムをマルセル・マルソーに師事。87年、『カナール・ペキノワ』でデビュー。95年、フランス国立オルレアン振付センター設立に伴い、芸術監督に就任。演劇的で詩的なユーモアに溢れる独創的なスタイルのステージで世界中に熱狂的なファンを集める。第60回アビニョン演劇祭のアソシエイト・アーティストを務め、オープニングプログラム『遊*ASOBU』(世田谷パブリックシアターとの共同制作)で、黒田育世(BATIK)、斉藤美音子(イデビアン・クルー)、田村一行、捩子ぴじん、塩谷智司、奥山ばらば(以上、大駱駝艦)らを起用、世界5ヶ国15都市をツアーし一大センセーションを巻き起こした。振付家としてはもとより、立体作品や絵画、デッサンなど、美術家、写真家としても活躍している。

◎アコシュ・セレヴェニ[音楽・演奏]
ハンガリー出身。幼少よりクラシックや民族音楽を学び、17歳でジャズ・ミュージシャンとしてデビュー。フリージャズ、即興ジャズの分野で活躍する一方、数々の舞台・映画への楽曲提供、伝説的ロックバンド ノワール・デジールのサポートメンバーを務めるなど、多方面で活動。同郷のジョセフ・ナジとは『遊*ASOBU』をはじめ近年の代表作で共演。ナジが最も信頼を寄せるミュージシャンの一人。

http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/02/les_corbeaux.html