Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

大阪松竹座『二月花形歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター/3等3階前方センター

2012年02月25日 | 歌舞伎
大阪松竹座『二月花形歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター/3等3階前方センター

24日(金) 1等1階前方センター
25日(土) 3等3階前方センター

『すし屋』
唯一の古典。古典は骨格がしっかりしてるのでまずその部分で楽しめるんだなと今回もつくづく思う。花形で観るのは久しぶり。最近ベテランのばっかりだったのでいかにも花形だなという印象ではあるけどそれぞれの役者がきちんとハマっていたと思う。完全に松嶋屋型。

権太@愛之助さん、骨太でいかにも「いがみ」ぽい雰囲気でニンに合った役だと思う。少々泥臭さがあるのがいい。仁左衛門さんとの個性の違いがこの役には出てる。今までは仁左衛門さんコピーがすぎて個性がみえない部分があったけど、今回の役はきちんと自分の個性が出てたのではないかしら。前半が非常に良かった。荒くれ者の粗暴さと家族への甘えがうまく出ていた。後半は松嶋屋型の早めにハラを割る芝居。妻子を差し出す辛さを真っ直ぐに。腹を刺された後のクドキはまだまだ。歌六さんに助けられてるけど残念ながら不鮮明。愛之助さんの権太を観て思ったけど松嶋屋型は『木の実』の段ありきの型だな~。次回はこの段含めて演じてほしいです。

維盛@染五郎さん、今回はおこつきがなかったし松嶋屋型に準じていました。前回演じてたときは播磨屋型の江戸前の型でした。二枚目風情が今回はしっかりとあり、また弥助と維盛の切り替えがだいぶ鮮やかにできるようになってました。また悲哀の部分が鮮明になり存在感があるので維盛一家の物語という側面が鮮明に。染ちゃん、初演時の維盛から比べて段違いに良くなっていた。

お里@壱太郎くん、娘らしい一途さとそこにある気の強さのバランスがいい。体の使い方も堂に入ってる。伸び盛りの役者らしい華やかさも。全体の緩急や声はまだコントロールが利かないところもあるけどこの年齢でこれだけやれたら大したもの。拵えはもう少し工夫したほうがいい。ちょっと色をきつく入れすぎじゃないかと思う。元が可愛いのだし若いんだからあそこまで作り込まないほうがいいと思う。もったいない。

弥左衛門@歌六さんの、初演した時は少し手探りなところがあったと思うが完全に手の内に入れてきた。歌六さんの弥左衛門は手強さがあり義の部分が鮮明。それだけに弥左衛門一家に降りかかった理不尽な悲哀がそこに浮かぶ。舞台をしっかり引き締めていました。

お米@吉弥さん。最初、老け役?とビックリしましたたけど思った以上にハマってて上手いです。しかもとても可愛らしい母。とっても良かったです。

若葉の内侍@米吉くんはそもそも無謀な配役。そういう意味で格の部分や体の使い方などはまだまだだけど品があるのと憂いがあって想像以上に似合うし受けの芝居もできてる。幼い妻ぽいので恨み言が切実だったりもした(笑)。維盛、罪な男だのう。

『研辰の討たれ』
若手らしい勢いとそれゆえの粗が大きくでた芝居でした。

野田版でない演出で原作通りのは初めてみました。原作通りだと辰次がほんとにお調子者で屈折したイヤ~な部分を持っているのがわかる。野田版は本筋は思っていた以上に同じではあるけど家老の死因などだ いぶ柔らかく辰次にも平井兄弟にも感情移入しやすく作り変えてあるのですね。それと野田版では群集心理の怖さを描いてるけど原作はそこまでではない。また今回の演出は場ごとに幕を閉め転換する昔ながらの演出で野田版を見てるだけに転換が間延びするのも場ごとは面白かったのでもったいないなという感じ。個人的には全体的に野田版の作りのほうが好きです。

それと今回、気になったのは最後の場面が笑いに走りすぎていて原作にあるであろう皮肉や悲哀がきちんと出てなかった部分。笑いに走るのはいいけれどそこからもっと空気をガラリと変えなくては意図が伝わらないと思う。最後の最後、あそこまで笑いに走るのであれば辰次が助かったとホッとしてから平井兄弟が出て来るところはもっと間を溜めるべきだった。 もっといえば平井兄弟は笑わせに走るべきではなかった。野田版では平井兄弟は終始真面目に辰次と相対していた。だからこそ滑稽なまでの辰次の足掻きが生への執着にみえただの笑いにはならなかった。今回は平井兄弟の二人も笑わせに走ったり笑ってしまうので笑いが前面に出てしまう。本来、最後のあがきの場では辰次も平井兄弟も悲哀を味わってるはずなのにそこが三人ともに出ない。残念ながら中途半端な出来になっていた。前の幕までは演出は少々間延びはしていたものの場とてはそれぞれしっかり見せていたと思うし。粟津の城内や宿屋内の場が良かっただけに最後の場だけがそこから浮いてしまって残念ながら中途半端な出来になっていたように思う。もったいない。

辰次@染五郎さん、基本勘三郎さん写しだだったかなと思います。ただ卑屈さのなかに終始愛嬌のあった勘三郎さんの辰次より染五郎さんの辰次のは町人出の劣等感ゆえの卑屈さいやらしい部分が強調されていましたた。拵えもかなり不細工に作っている。粟津の城内での劣等感での同僚への横柄さと奥方に対する調子のよい媚びやお追従を上手く表現し表面的な軽々しい屈折した辰次を造詣。また宿場での場でも軽々しいなかに横柄さがあり人のいやらしさを出すとともに逃げ惑う様は身体性でみせ、所詮小物の可笑し味もみせていく。ここまではとても良かったと思う。ただ最後の境内の場でこのせっかくの造詣を活かしきれていない。野田版の勘三郎さんの辰次のキャラ造詣に引きずられている。そういう 点で勘三郎さんの求心力まではまだいかないけどだいぶ人を巻き込むことはできていた。しかしながら前半の造詣と齟齬がでた。辰次ののらりくらりぐだぐだと あがいている様は笑いを誘う。そこはいいと思う。みっともないまでにあがく、そこが出ればいい。でも死にたくない生への執着心までは出てなかった。みっともなさのなかに悲哀が多少感じられたものの笑いに引きずられた感がある。

九市郎@愛之助さん、才次郎@獅童さん、宿屋内までは丁寧に演じててとてもよかったと思います。ところが最後の境内の場に入ってからはぐだぐだ。花道の出から笑いに走るのはどうなのか?特に九市郎@愛之助さんは何が可笑しいのか出てから笑いっぱなし。才次郎@獅童さんは真面目な顔でそんな愛之助さんに突っ込みを入れる。そういう意味では獅童さんは笑いと真面目の部分の緩急はできていましたがどちらかというと笑いを取るほうに気を取られていた感じ。なのでこの兄弟あだ討ちの旅に疲れた悲哀を出せてない。やはり笑いに引きずられどうにも最後締まりませんでした。

粟津の奥方@高麗蔵さん、奥方らしい品と天然な真面目さでとても良かったです。

平井市郎右衛門@友右衛門さん、真面目で融通が利かない家老を真面目に。もう少し町人出の辰次をばかにしている風情があってもいいかな。

粟津の家来衆は皆さんそれぞれ個性があって良かったです。