Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

シアターコクーン『天日坊』 2等席中2階脇席

2012年06月29日 | 歌舞伎
シアターコクーン『天日坊』 2等席中2階脇席

2等席ですが視界良好の席で1等椅子席後方と視界はそれほど変わらない感じでした。

全体の印象としては黙阿弥にクドカンテイスト加えて相変わらずの串田演出ってところでした。全体的に勘三郎さん主演の時のコクーン歌舞伎の時は間を早くしても芝居方法としては「歌舞伎コード」から外れていなかったのだけど、今回は台詞の間やテンポを現代劇により近くしつつ黙阿弥の七五調でうたわせるとこはうたわせて見せていく手法。音楽は西洋楽器で表現。ドラムとトランペットを印象的に使っていました。現代劇の役者さんも使っていますし歌舞伎mix現代劇というところ。それが違和感なく提示されしっかりと見せてきた。若い役者さんたちの個性が活かされた芝居でもありました。

個人的には面白かったし楽しんだけどクドカンで串田さんなので叙情に流れピカレスクロマンに成りきれてないのが若干不満。ただ串田さんの演出のぶれなさ加減には感心した。歌舞伎mix現代劇な芝居としてしっくりいったのはクドカンと串田さんの方向性や箱庭的志向のスケール感が似ていることと今回出演の歌舞伎役者が現代演劇手法を会得してる世代というのも大きいと思う。そして観客もどちらかというと現代演劇方法での芝居のほうに反応がよかった。

ラストの立ち回りが思い切りアクションクラブだった。そこだけ劇団☆新感線(笑)。ここの立ち回りは勘九郎くんも上手いけど七くんがちょっとお見事で惚れた。七くん、お願いだから歌舞伎版『阿修羅城の瞳』でつばきをやって~~。お願い~~。頼む、誰か染五郎・七之助で『阿修羅城の瞳』をやらせろ!な勢い。

役者さんたちは歌舞伎役者さんも現代劇の役者も皆とても良かったです。

法策のちに天日坊@勘九郎くん、ただの熱演てだけじゃなくきちんと芯として良い芝居をしていて成長したなあとしみじみ思いました。今までの勘九郎くんの熱演は熱演なんだけど一本調子でどんな場面でもトーンが同じでキャラクターに深みが出てないことが多かった。でも今回、芝居に緩急をうまくつけてくるようになり人物像にメリハリがついていたと思う。人の良い法策がふとした瞬間に魔が差して一気に転げ落ち、寄る辺の無さの埋め草を探し結局は自分を探せないまま闇に飲み込まれる。そんな法策@勘九郎くんは魔に陥っても魔にはならず弱い人が肩肘張りながらその場しのぎで必死に生きていくそんな法策でした。天日坊として祭り上げられた時、「自分」がそこにある錯覚を起こしたであろう瞬間の表情が良かったです。自信に満ちた「これが俺」という表情。そしてそれが崩れた時の情けない切ない表情がそれによって活きた。また台詞廻しが良かったですね。現代劇と歌舞伎の台詞術をうまく語り分けしっかり聞かせてきた。テクニックだけでなく自分がセンターにいることの意識をしっかり持ってそこにいたのが良かった。勘九郎くんにうまく当てたキャラクターだなと思いましたし、いかにもクドカンが書く台詞を自然に口にする。

お六@七之助くん、ジュサブローの人形のように美しかった。凄みのある美貌ぶり。前半はどちらかというと「生きていく」ために「女」を武器に悪さをするどこか倦んでいるお六であった。ところが後半になって義がその生きていくに含まれ生きていく心の糧を得たとき、お六には活き活きした芯のある強さが出てくる。お六はそこに自分をみつけたのであろう。その対比がとても面白かったしそこを表現してきた七之助くんに感心した。それにしても佇まいが非常に美しく身体の使い方が今までと別人のよう。このところの急成長ぶりに舌を巻く。台詞廻しにも張りがあって魅力的。後半のアクションクラブの立ち回りに一番馴染んでたのが七之助くんだった。鋼のようなしなやかさと鋭さ。ちょっとあれは凄い。

地雷太郎@獅童くん、地雷太郎は手段選ばず目的のためにだけ生きていくキャラクター。まず風貌のよさに独特の存在感が今回の芝居によく合っていました。存在感で押して押しての芝居。大きくみせることが出来ているのとのびのびと演じているところでよさが出てたかなと。正直、台詞廻しに緩急がないし悪党の凄みもしっかり出てるとは言えないし芝居の引き出しは相変わらず少ないし…な感じですが浮くことなく芝居に対峙できていて十二分の出来だと思いました。

久助@白井晃さん、この方はコクーン歌舞伎のなかで現代劇手法の芝居を体現しているような格好になりましたがそこに凄みが出ていてこの芝居に辛口のスパイスを効かせてきました。芝居の空気に馴染み自然にそこにいることで二重性を帯びた久助の異質感と怖さが帯びる。尋問の場で勘九郎くん、七之助くん、獅童くんの三人に対峙するには弱いと聞いていたのですが三人を圧する存在感はないものの知に勝った鋭さがあり私が拝見した日は負けている感じはありませんでした。またいったん引き下がった後、天日坊@勘九郎くんと対峙する場面はお見事でした。ここの場面は現代劇手法だからこその追い詰めぶり。表面の朴訥さとそのなかにある怖いくらいの己を信ずる信念(ある意味狂い)の二重性が凄まじかった。現代劇はより「自分」を曝け出す芝居方法なんだなと思った。

現代劇の役者として越前の平蔵@近藤公園さん、観音院/鳴澤隼人@真那胡敬二さんも台詞廻しをたぶんいつもより張る感じで歌舞伎に対峙しつつも自分の個性を違和感なく馴染ませて上手い役者さんだなと思いました。

お三婆/赤星大八@亀蔵さん、お三婆はいつもの身体能力の高さをみせつつ婆さんになりきる。物語が動く発端の語りをしっかりと聞かせてきたのがさすが。ここの語りが上手くないと法策の行動が鮮明になりませんから。しかしあの動きかなり大変そうですねえ。中二階からだと顔がまったく見えないんですけど(笑)。赤星大八のほうは直情的で乱暴ものだけどどこか懐が深い感じがありました。亀蔵さんはどんな役でもどこかキュートですね。

猫間光義@萬次郎さん、どんなお役でくるかと思いましたら個人的に予想外なお役。もっと個性的なお役かと思いましたがどちらかというと没個性的な公家さんのお役。自分というものがあまりなくふらふらと流されるように生きている猫間光義。そういうキャラクターを絶妙な加減で演じていらっしゃいました。ただふらふらと揺れているがためにそこに正義に悪意も生まれない。不思議な人物でした。

北條時貞@巳之助くん、傾城高窓太夫@新悟くんのバカップルぶりが可愛かったです。巳之助くんは新作や新歌舞伎だと俄然活き活きして個性を発揮するような。軽いけどあるい意味まっすぐな北條時貞を飄々と。観客にかなり受けていました。新悟くんは高窓太夫のなかのいじらく一途な女の子を丁寧に丁寧に拾う。薄幸の女の子が似合う。恨んで死んでいくのですが「恨みはらさでおくべきか」の恨みそうな凄みはまだまだかな。どうせなら後半幽霊になって出てきてほしかったなあ。原作では出てくるのかしらん。

そういえば脚本に関して少し破綻をきたしていたような気がするのだけどプログラムを買ってないので人物関係を把握できなかったのかな。お家騒動の部分、源氏の内紛だと思うのだけどそこに平家が絡んでるのが「?」状態で。何か説明ありましたかしら?

それにしてもクドカンのリライトの上手さはこの作品でも十分に発揮されたと思います。クドカンは作品に沿うのではなく突っ込みを入れてそこを膨らませる。いわゆる二次創作の手法。そこが今の観客に受け入れられてるのだろう。クドカンのリライトの上手さはわかっていたので予想の範疇。次はもう一回オリジナルで勝負してほしい。また『天日坊』を観て歌舞伎と現代劇mixは今後加速してくかしらね~と思った。現代劇でのノリの台詞や間、芝居方法のほうが若い観客に受けること考えたらその方向だろう。そして二月松竹座『伏見の富くじ』で染五郎さんが今回とほぼ同じことをすでにやらかしていたので相変わらず染五郎さんは花形のなかでは魁なやつだなと思ったのでした。