Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階席前方センター上手寄り

2008年05月17日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階席前方センター上手寄り

2週間ぶり2回目の観劇ですが同じ芝居を観てるんだろうか? と思うほど進化していてビックリ。芝居の出来、そして観客のノリも含めてすごく良かったです~。

『彦山権現誓助剱 毛谷村』
全体的に義太夫狂言らしい、おおらかがある楽しい一幕でした。染五郎さん、亀治郎さんが前回以上に義太夫にしっかりハマり、糸にのった芝居。

染五郎さんの六助がとてもいい。4日(日)に拝見した時も良いと思ったのですがますますノビノビと演じてらして観ていて気持ちのいい六助でした。大きさもかなり出せるようになっていました。染五郎さんの六助はとても心根が優しく懐が大きい芯のあるまっすぐな若者。その優しさにほのぼのとしながら彼の気持ちに寄り添える人物像を造形していた。見ているうちに思わず観ている側が「にっこり」してしまう感じ。ふんわり暖かい。だからこそ正義感からの怒りもすんなり受け止められる。

また人物造形だけではなく染五郎さんの台詞廻しの緩急、強弱、気持ちの入り方が非常に良かった。親を思う気持ち、子供に対する優しさ、そしてお幸・お園に対する戸惑いとそのなかの鋭さや、真相を知った後での敬い、卑怯な微塵弾正に対する怒り、その時々の感情がしっかり伝わってくる。そして、また姿形が絶えず綺麗に形作られ、全体的に大きく見える。

本当に清々しい六助でした。今後も演じていってほしいお役です。もう少ししたら斎くんとの共演で観られるかもしれないですね。

亀治郎さんのお園、前回拝見した時は女武道としての「女性」の柔らかい部分での緩急が足りなくて苦戦してるかな?と思ったんですが、今回はしっかり演じてきていました。六助が許嫁と知れた後に急に女らしくなってしまうところに柔らかさと可愛らしさが出ていました。また一人語りの部分にメリハリがつき、見栄えがしていました。手先の使い方が上手です。本当にひとつひとつ丁寧に京屋型を演じていて、あっ、京屋だと思う雰囲気も醸し出しています。ただ、もう少し可愛気が色気とか恥じらいの部分が出るといいなあ。お園という役は難しいんだなと思いました。

また声が安定しないのが気になりました。虚無僧のところでは男ぽい声じゃなく完全に男声だし、女と知れた後も時々、男声になってしまう部分が。低くても女形さんの声ってあると思うんですが、そうではなくストンと男声になってしまう。なので語りの調子も安定していない部分が。今までがいかにも女性らしい声を作っていた亀治郎さんなのでちょっと心配。早く調子が戻るといいなあ。

お幸の吉之丞さん。この方がいるだけで芝居が締まります。得体の知れなさのなかに武家の女としての凛とした品を見せられるところが本当に素晴らしいです。かといって強いだけでなく女性らしいたおやかさとかお茶目さを醸し出していて絶品。

微塵弾正の錦之助さん、花道での引っ込みで大きさが出てきていました。渋いです。もう少し卑怯者な雰囲気があるとなおよし、ですが。そこはニンじゃないので、この段だけなら十分な出来かと思う。

『藤娘』
福助さんの愛嬌が活かされていて本当にラブリーな可愛い藤娘でした。キュートさのなかに色気があって女の私でもちょっと悩殺されました(笑)仕草がいちいち可愛い。今回、笑顔が前回よりも表情を押さえ気味で、それがまた可愛さを生んだ感じ。また踊り自体がすごく良い出来だったと思います。腰がしっかり入っていて体の柔らかさが十分に活かされていた感じ。かなり細かい振り付けなんですがそれを流れるようにかつ印象的にみせていました。

『三社祭』
ちょうど三社祭が行われている日にこの踊りを観るというのも一興。染五郎さんと亀治郎さんの息が合い、お互い競るよう踊りで非常に観ていて面白く楽しい踊りになっていました。染五郎さんと亀治郎さんの舞踊手としてのタイプがまったく正反対なのも面白く、この舞踊の競り合いとアンサンブルが活きました。楽しそうに踊っているのも良いです。

染五郎さんは勢いとキレのよさ、そして手足の長さを活かしたノビノビとした形のよさで見せてきます。力強い、剛の踊り。染五郎さんはこのところ舞踊にも自分の良さを見せられるようになってきた気がします。腰の入り方も良くなっていますし、安定感が出てきていますね。

亀治郎さんはバネと体の柔らかさを活かし軽やかに華やかに踊ります。飛び跳ねるような柔の踊り。前回、まだエンジンがかかってないかな?という感じでしたが今回はエンジン全開で良い踊りをされていました。

『勢獅子』
全体にまとまりが出て華やかで楽しい一幕でした。前回、祭→祭をモチーフにした舞踊が並び、損かな?と思ったのですが今回はこの舞踊の個性がきっちり出ていました。獅子舞で一気に盛り上ったのも良かった。こういう踊りはアンサンブルの良さで見せるものなんだなと思いました。

ただ出演者が多くそれぞれに見せ場があので歌昇さん、錦之助さんコンビがちょっと目立たなかったかなあ。それだけ脇の存在感があったということでもあるのでしょう。皆さん頑張っていらっしゃいましたものね。

『一本刀土俵入』
前回、いまひとつと思ったこの演目、凄く良くなっていて見応えがありました。個々の役者さんの芝居がこなれてきてアンサンブルが良くなるだけで印象がまったく違ってきますねえ。今回は最初から芝居に引き込まれました。

今回は何と言っても芝雀さんのお蔦が非常に良くなったいたことで前半の芝居に面白さが出たんじゃないかと思う。前回拝見した時のお蔦さんはどことなくしっくりこなくてニンじゃないなあと思ったのだけど、今回はしっかりお蔦さんとしての存在感がありました。酌女の崩れた色気というのは薄いのだけど、今の自分の状況にどこか倦んでいて何かを求めてるそんな風情あって、だからこそ茂兵衛を助けるんだなと。お蔦さんの芯の部分にある優しさや情熱がみえた。崩れきれない部分での情がどこか説得力があった。このお蔦さんだから茂兵衛も素直に施し物を受け取ったんじゃないかなあと。茂兵衛がお蔦を「あばずれ」と信じられないのも、淡い初恋のようにずっと慕っていたのも「芯が綺麗」だから。そんな風に思わせてくれた。そしてだからこそ、子供と一緒に旦那を待つお蔦さんがすんなり納得がいく。情の濃い優しい女なんだなあと。こういう素敵なお蔦さんを造詣してきた芝雀さんに脱帽。本当にこの方はどんどん良くなっていきてる役者さんだ。あ~、でも歌はもう少しお稽古してください(笑)

吉右衛門さんの茂兵衛もかなり良くなっていました。メリハリが付いてきたというか気持ちが入っていました。亡羊とした風貌の前半。もう少し若者らしい青臭さがあってもいいかなと思う部分はあれど、純粋でちょっと単純で健気な感じがいい。そして後半の渡世人、生きていくために純真さを捨てふてぶてしさを身にまとってきた10年だったんだろう、という部分が今回見えた。だからこそ、お蔦さんに会いたくて探しいるという事に、そしてなんとか助けようと踏ん張る姿にどこか共感できる。お蔦さんが思い出してくれて良かったねえ、とじんわり来ました。

歌昇さんの弥八が思いっきりがでて面白くなっていた。小汚いセコイ悪党につい笑ってしまう。

歌六さんの波一里儀十はやっぱり渋くてカッコイイ。正々堂々と?お相撲で決着付けるのもよし。声がほんとにカッコイイんですよねえ~。

染五郎さんの根吉はやはり無駄に(笑)カッコイイ。インテリヤクザ風で他の下っ端とは雰囲気が違う。佇まいだけで目を惹く。


4 コメント

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激しく同感! (ぽよぽよ)
2008-05-21 19:02:16
はじめまして。
いつも密かに愛読させていただいております

が、今日はあまりに同感、ツボに入って
一言コメントせずにはいられませんでした!

「染五郎さんの根吉はやはり無駄に(笑)カッコイイ」

カッコよすぎますよね。
私なんぞは、あまりのことに見惚れてしまい
話の筋も吹っ飛びました

これからも、楽しみに読ませていただきます。
どぞ、よろしくお願いいたします。
ですよね~ (雪樹)
2008-05-22 09:56:22
ぽよぽよ様

はじめまして!書き込みありがとうございます。
いつも読んでくださっているとのこと嬉しいです。

ふふっ、やっぱりそう思いますよね。
>無駄にカッコイイ
脇役なにっ、脇役なのにあんなにカッコよくていいんですか(笑)

ぽよぽよ様も染五郎さんファンなんですね。
一緒に応援していきましょう。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
鑑賞記録は参考になりますが (通りすがりの一歌舞伎ファン)
2008-05-22 21:45:54
はじめまして。時々拝見していますが、詳細な観劇記録には感心しています。

ただし、高麗屋さんがご贔屓であれば、点が甘くなることはよく分かりますが、少し褒め過ぎかと感じることが多いですね。

ところで、二度ほど「造詣」という言葉を使われていますが、動詞で使う場合は「造形」または「造型」とすべきではないでしょうか?
ご指摘ありがとうございます (雪樹)
2008-05-23 10:01:33
通りすがりの一歌舞伎ファン様

はじめまして!書き込みありがとうございます。
ここを読んでくださっているとのこと、嬉しいです。
勝手な感想の垂れ流しなので参考していただいてると
おっしゃっていただけると恐縮してしまいます。

> 少し褒め過ぎかと
あはは、自分でもそう思います。
高麗屋贔屓の歌舞伎系ブログは少ないので、まあご容赦を。
高麗屋に対してわりと厳しいブログが多いので、
そこら辺と合わせて読んでいただけると
バランスがちょうどいいかもしれません(^^)

ところで文章に対してのご指摘、本当にありがとうございます。
私、かなり文章の間違いが多いです…。
なんせ「誤謬女王」というあだ名がついているくらいで(^^;)
なのでご指摘はとってもありがたいです。
すぐに訂正させていただきますね。

もし次回また書き込んでくださる事がありましたらぜひ固定HNで(^^)
これからもどうぞよろしくお願い致します。