Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 3等A席真ん中上手寄り

2005年08月17日 | 歌舞伎
『伊勢音頭恋寝刃』
夏狂言として知られる廓を舞台にしているこの演目。団扇、浴衣姿といった風俗描写が涼を呼びまた残酷な殺しの様式美の陰惨さで心も冷やす。

貢に初役の三津五郎さん、白地の絣の着物に黒の羽織姿がよく似合う。和事の柔らかさのなかに一本筋が通った二枚目「ぴんとこな」と言われる役。三津五郎さんはかなりすっきりと芯の強さが表に出ている。伊勢の御師(下級神官)ながら武士という面を強調しているのでお家騒動に絡む話というのが非常にわかりやすい。三津五郎さんは役を理詰めで表現するような部分があり、それが話の本筋を際立たせるのだと思う。その丁寧な演じように小ささを感じることがあったのだが、最近はそこに大きさが加わって見ごたえのあるものを見せてくれるようになったと思う。ただ、今回の貢に関しては理知が勝ちすぎて、短絡的にカッと頭に血がのぼるタイプに見えないのが残念。この人ならば冷静に対処できるんじゃ?と思ってしまう。それに妖刀に魅入られる部分の凄みがまだちょっと足りない。すっきりしすぎているんだよな。もう少し柔らかみと人としての甘さがあるほうが説得力ができると思うんだけどな。

貢をいたぶる仲居万野にやはり初役の勘三郎さん。意地の悪さのなかにも勘三郎さん持ち味の愛嬌がそこはかとなく感じられ妙な色気があるのが良い。人をいたぶり人間の醜さをあらわにすることに喜びを見出し、相手を自分の心の醜さと同じところにまで引き下げることで自分を支えてるかのような、そんな哀れな女にも見えた。なんとなく寂しい雰囲気を漂わせているように見えたのは気のせいか。貢を追い込む部分ではもっと女のねちねちした嫌らしさがあるほうがいいかなあ。いやーな女、にまではまだ至ってなかった。こういう部分は女形がやるほうが嫌らしさが出るのかな。

お紺役の福助さん、風情があって姿も美しかったのだがどことなく精彩に欠いた感じがした。丁寧に演じているとは思うのだけど貢に対する想いがあまり出ておらず、愛想尽かしに緊迫感がなかった。何か遊女としての暮らしに疲れ果てて投げやりになってるようなお紺にみえました。福助さん、こういう役は得意だと思うのだけど…。今年いまひとつ乗り切れてない感じがしますね。

お鹿役の弥十郎さんは思ったより可愛らしいお鹿を造詣してました。大柄でごつい方なのでかなり滑稽味が出すぎてしまうのでは?と心配していたけど、お顔を作りすぎなかったのがよかったのかもしれません。きちんと女になっていたのは見事。ただ、やはりまだ女の哀しさや意地といったものがまだ薄いですね。でも、立役ばかりの弥十郎さんにしてみたらかなりの出来だと思います。

喜助の橋之助さんはこういう役が本当にハマる。粋で愛嬌もあって、芯の通った正義感がみえる。私的に今年になって橋之助をかなり見直した。これであともう一段大きな役で良いものを見せてくれるといいなあ。

お岸の七之助は可愛らしかったです。心配げな台詞も廻しもなかなか。立ち振る舞いはまだ硬いですが、女形としての資質が非常にあると思う。

全体としては亀蔵さん、錦吾さんなどの脇が揃っていたせいもありなかなかまとまった良い芝居でした。脇がきちんと仕事をしてくれていると見ごたえがでます。


『蝶の道行』
ええっと、あのキッチュな舞台美術と衣装はなんですか?思わずのけぞりそうになりました。悪趣味すぎてインパクトはありますがっ。美術と衣装が殺しあってるし、どうにもこうにも…。曲と踊りはなかなか良いものだと思うので美術と衣装をどうか再考してシンプルにしていただきたく…。

踊りのほうは染五郎と孝太郎さんがしっかり世界観を作り上げており、二人とも非常に美しくみえました。染五郎は助国というキャラクターに哀しさを纏わせて憂いを見せ、ラスト哀しさのなか息絶えていったような感じであった。わりと最後のほうはケレンもある踊りだけどヘンに過剰にしなくてすっきり踊っていたのがよかった。この日は回転で軸のバランスを崩しちゃったとこもあったけど、次のとこで見せ場をたっぷりやりそうなとこを我慢して押さえて踊っていたのが非常に好感。美術と衣装がくどいので、あのくらい表情を押さえて端正に踊ってくれたほうがいい。孝太郎さんの小槙は可愛らしく、華やぎがあった。染ちゃんが表情を押さえている分、恋する娘の表情を出していたように思う。これ以上、この二人が表情たっぷりに恋人同士の情感を出したらくどすぎるだろう。このまま端正さを失わないでいってくれるといいな。それにしても染ちゃん、痩せたかな?またまた美人さんになってる。

しかし考えてみたら蝶の精になった悲恋の恋人同士が地獄の火責めというコセンプトもすげーな。それにしても、この踊りは素踊りで見せてくれたほうがよほどこちらに訴えかけてくるんじゃないかと思ったよ。


『京人形』
こちらの踊りは舞台がすっきりとしてて内容も楽しいものなので気分転換によかった。人形の名匠、左甚五郎の橋之助さんがきびきびとキレのいい踊りを見せて気持ちがいい。扇雀さんは踊りが上手いという感じはしなかったけど人形ぶりは本当の木彫りの人形という感じで楽しかった。左甚五郎の奥さん(高麗蔵さん)は物分りがいい奥さんだねー。なんというかオタクな旦那を暖かく見守る奥さんって感じ(笑)