Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

大阪松竹座『七月大歌舞伎 昼の部』 1等席1階前方花道寄り

2010年07月19日 | 歌舞伎
大阪松竹座『七月大歌舞伎 昼の部』1等席1階前方花道寄り

7/19(日)

『妹背山婦女庭訓』 「三笠山御殿」
花形の皆さんが頑張っていらして思ったいた以上になかなか見応えがありました。

お三輪@孝太郎さんがとにかく非常に良かったです。孝太郎さんはお三輪は似合うに違いないとは思っておりましたが、持ち味の良さという部分だけでなくしっかり見せてきたと思います。見事に純で一途な田舎娘のお三輪だった。世間知らずで幼さがあるために、その娘が嫉妬に狂う女になる場での切り替えが鮮やかに活きたと思う。それだけに求女の役に立てることを喜ぶお三輪が哀れ。一目会わせてあげたいとほんとに思った。個人的に今月四役のうちではこの役が一番です。

橘姫@春猿さん、華やかで可愛らしい姫。橘姫のおっとりとしたなかの一途さをしっかり演じようという意識があって良かったと思います。

求女@段治郎さん、 実は藤原淡海の心持ちがしっかりあって、そこが非常に良かったです。台詞もなかなかしっかりと伝えていました。すっきりとした容姿も求女らしいですが、痩せられたせいもあるのでしょうが全体的なシルエットがかなりペタンとしてしまっているのが少し気になりました。着物の着付けをもう工夫されるといいかなと。

鱶七@愛之助さん、声を太くし、しっかりとした台詞廻しが良かったです。全体的にひとつひとつ丁寧に演じている感じでした。大きく見せようとしてかえって衣装に着られてしまっている感があったのがちょっと残念。


『大原女・国入奴』
すいません、前日寝不足だったので少しばかりゆるりと観てしまいました。翫雀さん、全体的に丸みのある踊りで丁寧にしっかり踊られていたと思います。また翫雀さんの愛嬌が踊り全体にあり、この舞踊に合っていました。特に勢いがあった国入奴が良かったです。今後も踊り込んでいってほしいですね。


『御浜御殿綱豊卿』
綱豊卿@仁左衛門さんと助右衛門@染五郎さんの組み合わせでの上演3回目です。しかもあまり間を置かずにやっているんですよね。そのためか細かい部分、非常に練り込まれています。今回は役者同士の熱い丁々発止の面白さのなかに『元禄忠臣蔵』という戯曲のなんたるかという部分での解釈もいつも以上に明快に伝わってきたような気がしました。

それにしても仁左衛門さんと染五郎さんのお互いの台詞の応酬のなかでの細かい反応が細かいこと細かいこと。どっぷり役にハマってるんじゃないか、役者と役が一体になっているんじゃなかと思わせるくらいでした。それだからこそ観客のほうも感情移入できるんでしょうね。今回はいつも以上に『元禄忠臣蔵』の男泣きの世界がここにあった。元禄忠臣蔵の全体の世界観があの一場のなかにありました。

実は私、『最後の大評定』での内蔵助と井関の関係性が『御浜御殿』で繰り返されてるかも?と感じたんですよね。「もののふ」としてどう生きるべきかの指針、そして理想。血気に逸る井関を内蔵助は諌めます。そして、井関が早まったことをしてしまったことで、どの道へ行くのか内蔵助は決意します。ところが前段の『伏見撞木町』を観てるとわかると思いますがここで内蔵助はお家再興を願ったことで迷いが生じているように描かれます。その揺れを「実は」と正すための場なのかなあ、なんて気がしたのですよね。綱豊卿が内蔵助と同質の感覚をもっている、というのは前回の歌舞伎座の仁左衛門さんの綱豊卿にも感じたんですが、今回は前回以上に綱豊卿と内蔵助を完全にオーバラップさせてきたって感じがしました。そしてそれだけでなく染五郎さんの助右衛門が拗ね者の雰囲気をも押し出してきたという部分で、助右衛門が井関にも重なりました。 もう一度、どの「覚悟」がそこに必要なのか、というやりとりをすることで次の幕の大石の決断を納得させていくという形になっているのかなと。戯曲の作りが基本「大石内蔵助」を描いていったものなんだな、という感じを受ました。

綱豊卿@仁左衛門さん、緩急自在でもう完成品という気がしてしまうほど。その完成されたなかでも助右衛門@染五郎さんという相手が少しづつ成長していることもあるのかどんどん芝居が鋭く深くなっている気がします。華やかな鷹揚さのなかに熱く鋭い情熱を秘めた綱豊卿です。圧倒させられますね。

助右衛門@染五郎さん、綱豊卿@仁左衛門さんの手加減まるで無しどころか容赦ない突っ込みにそこにしっかと喰らいついていっています。今回はひたすら真っ直ぐに向かっていくだけでなくかなり緩急を効かせてきました。綱豊卿の言葉をじっと聴いているところなど押さえたところでの表情がかなり豊かになって、今回は受けの部分の言葉のない泣きの部分がすごく良くなったいました。助右衛門の切実さがしっかり伝わってきた。それと無骨さより拗ね者の雰囲気のほうを強く出していて、生き様の不器用さがそこにあって面白かったです。

お喜世@孝太郎さん、控えめに可愛らしく演じていらっしゃいました。個人的好みからするともう少し「お喜世」という人物を押し出していいかなと思いますが控えている時の佇まいは綺麗でした。

江島@笑三郎さん、知的ですっきりとした美貌の江島でした。今後、持ち役にできそう。台詞廻しが玉三郎さんにかなり似ててちょっとビックリしました。