Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方センター

2007年06月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 夜の部』2回目 1等1階前方センター

『御浜御殿綱豊卿』
前回同様、まずは錦二郎くんチェック~。あら、目の前にいた(笑)一生懸命綱引きをやってました。顔の拵えはまあまあってとこかな?女形の顔に成りきってない感じ?

今回、仁左衛門さんの綱豊卿と助右衛門@染五郎さんがかなり前のめりな芝居。仁左衛門さんと染五郎さん、なんでそんなに熱いわけ?ってくらい熱かったです。なんというか思い入れがすごいことになっていました。役にのめりすぎてません?大丈夫?と心配したくなるくらい。でも観ているうちにこの二人の熱気に巻き込まれてしまいました。お互いの立場の違い、思惑のすれ違いによるいらだちがヒートアップ。男泣きの世界になってました。

仁左衛門さん@綱豊卿は感情豊かで情に厚くそして繊細。知性の鋭さと無邪気さが同居している。台詞廻しの緩急が前回以上に細かく、たっぷりと聴かせる。また今回は、綱豊卿の心持ががかなりストレートに出てて、助右衛門との丁々発止が熱い、熱い。助右衛門とのやりとりは、自らの孤独を図らずも意識させられてしまった瞬間であったかもしれない。その哀しみが伝わってきた。

助右衛門@染五郎さんもかなり白熱。全身全霊で綱豊卿に向かっていく。頑固一徹に若者らしい情熱と仲間への思いを身に纏い、綱豊卿の駆け引きに負けじと応戦。そしてまた、自分の気持ちをぶつけるだけではない、綱豊卿の気持ちをどうにかして汲み取ろうとする素直さがあって真っ直ぐな思い込みの短慮さすら清々しいほど。命懸け、だからこその熱い思いが伝わってくる。綱豊卿に突き放された、その瞬間の声にならない慟哭。

お喜世@芝雀さんも二人につられてか熱かった。控え目にじっとしてはいるものの二人のやりとりをしっかり聞いている。 助右衛門の憎まれ口を聞く度に、ハラハラドキドキ、まあなんてこと、という気持ちが伝わってくる。待っている時の風情に存在感が出てきたなあと思う。また少しほっそりしたか、とっても可愛らしかったです。

『盲長屋梅加賀鳶』
9日に観た時よりかなりこなれてました。やっぱり世話物の感じはしないかなあ。幸四郎さん、道玄のような単純な小悪党はニンじゃないかなと思ったり。でも飄々と楽しそうに演じられていて、観ているうちになんだか面白いには面白いなあっては思ってしまう。幸四郎さん@道玄と吉右衛門さん@松蔵の兄弟対決のやりとりがやっぱり一番面白い。やりとりの間とかが絶妙なんですよね。そこだけ会話が凝縮される感じがあります。それと赤門前の捕り物のとこが楽しい。

お兼の秀太郎さんが可愛い悪女。したたかでどうしようもない女なんだけど、どこか憎めないお兼でした。

『船弁慶』
贔屓目が入ってるとは思うけど、染五郎さんの静御前が相当な進歩。柔らか味がかなり出てきたし静の哀しみを湛えた情感が前に出てきたと思う。それと静の押さえた踊りのなかに白拍子らしい華やかさが出てきたなあと。知盛のほうは恨めしさを体に溜め込んでる感じ。心の奥底の澱に突き動かされて、って感じでしょうか。亡霊の凄みや異様さはまだまだですね。大きさはやはりあります。ひとつひとつの踏み出しが大きい。今回は花道での引っ込みにかなり迫力が出てました。鳥屋の前ですんごい回りっぷりでした。まさしく渦のなかに消えていく感じ。 迫力満点。観ているこちら側のボルテージが一気に上がってしまいました~。

幸四郎さんの弁慶はかっちりと演じていて品格、大きさともに文句なし。

芝雀さんの義経に公達らしい品格が増してきた。台詞廻しにきっぱりとした芯を感じさせるようになってきたと思う。またこの方の持ち味である優しさが終始感じられるのもいい。

芝雀さんの後見をしていた京珠くんがかなり体の使い方が上手くなってきたなあ。前はバタバタしてて悪目立ちしてたけど、もうそんなことはない。にしても幸太郎さん、錦弥さん、錦一さんの素早い動きと姿勢の美しさにはいつも惚れ惚れ。