Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『さよなら公演 九月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階中央花道寄り

2009年09月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 九月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央花道寄り

『竜馬がゆく 最後の一日』
とても切なかったです。新作歌舞伎『竜馬がゆく』を一部、二部と見続けてきた人間なので、思い入れたっぷりなこともあり…泣けてきてしまいました。き乃はちさん『宙へ』の尺八の音色が聴こえてきた瞬間、涙がぼたぁ、でした。このテーマ曲、ある意味反則。まさか3年前にこの芝居で聴いた時にはここまで思い入れできる曲になろうとは思ってもみませんでした。音色、尺八の響きが胸に沁みる。

今回の完結編、一部、二部に比べるとやはり地味です、演出も地味だし、脚本も劇的なドラマの部分が一切ないし、幕末に興味なければ「?」な感じじゃないかな。説明台詞も多いし平坦な感じは否めない。また演出も暗転の切り替えばかりでもっと工夫して欲しいと思う。それでも私はこの芝居、脚本はとても良いと思う。あえて竜馬の最後の一日だけを切り取り、そのなかにきちんと「時代」を取り込み、また今も続く「人の営み」を描き、そしてそのなかに竜馬の人となりを見事に立ち上げて見せた。その部分で見事だったと思う。

竜馬@染五郎さん、ごくごく自然体にとても魅力的な竜馬を演じていました。出てきた瞬間「あっ、染五郎さんが出てきた」じゃなく「あっ、竜馬だ」って感覚になるんです。それほどにハマっていた。ちょっと落ち着きの無いでもキュートな佇まいに、そして台詞の一言一言が竜馬として説得力があった。やっていること、言っていることの発想の突拍子のなさや、目線の広さ、深さ、そんなものが竜馬の言葉として違和感なく伝わってくる。竜馬なら言いそう、やりそう、そんな風に思える。だから暗殺されることもしらずにキラキラと夢を希望を語る竜馬に泣けた。

中岡慎太郎@松緑さん、直情的で闊達な中岡くんです、竜馬と「信頼しあう仲」という距離感がとても良かった。喧嘩しながらも、お互いを認め合っている幼い頃からの友人、そういう暖かい絆を感じた。実際の中岡像からするとちょっと幼いし、知略家の側面というよりは腕っ節のほうが強い、という感じではあるのだけど、柔軟な染五郎竜馬に対しての剛の松緑中岡というバランスがいい感じだ。友情っていいな、そう思わせたラストの「竜馬~~~!」はもう少し、哀切さが欲しいなと贅沢なお願いをしたいけど、それはさすがに観客側のただの希望ってところ。

おとめ@芝のぶさんの朴訥な可愛い存在感がとっても良かった。この芝居のなかでかなりのポイントになるキャラクターをしっかりと演じていた。芝居の地力があるなあと感じました。

桃助@男女蔵さん、初日に比べだいぶ頑張っていた。無知ゆえに根の素直さにつけこまれてしまった青年。一生懸命に生きているから、おとめちゃんに好かれているのだ、という部分が今回きちんと見えていました。

近江屋新助@猿弥さんがさりげなく芯のある近江屋の主人を好演。

この芝居、脇の方々もしっかり個性的で魅力的なのも良いです。

そにしても歌舞伎版『竜馬がゆく』は練り直してエピソードを足して通しで上演して欲しいです。このまま終わりではもったいない。激動の時代を切り取ったこの芝居、いまだ「今」に通じる部分があるし、キャラクターがそれぞれ魅力的だし一気に通して観たほうがより面白いと思う。


『時今也桔梗旗揚』
さすがに後半日程だったので締まった出来になっていました。

春永@富十郎さん、プロンプが外れていたのが大きい。若干、間が空いた?と思うところもありましたけど気になるほどではなかったです。この芝居、やはり春永がどれだけ光秀を苛め抜くかで決まる芝居だなあと思う。春永がとことんやってくれればくれるほど光秀の立場、心情が際立つ。富十郎さんは口跡の良い朗々とした台詞術で光秀@吉右衛門さんを追い込む。明るい声なので陰湿な感じではなく、短気な暴君といった雰囲気を出されていた。とはいえ以前だとこういうお役で出されていたやんちゃな荒ぽい大きさが出てないのが少々残念かな。でも十分な春永だったと思う。

光秀@吉右衛門さん、春永@富十郎さんがきちんと光秀を追い込んでくれていたので、しっかりと役のなかに入り込めていたと思う。初日の時もかなり良いとは思ったのだけど、より心情が伝わる芝居になっていました。佇まいが物静かで感情をあまり露にせず、ことさらおもねることしないタイプがために、嫌われてしまった、という感じがした。恥辱に静かに静かに耐え、少しづつ怒りを溜めている様子をほんの少しの表情や台詞のトーンで積み重ねていく。そして一機に怒りから憎しみに転化させ、「愛宕山連歌の場」で爆発させる。この段階を踏んでいく芝居が本当に上手い。

桔梗@芝雀さんの品があって楚々として健気な娘らしい可愛らしさがとても良い。ただ可愛らしいというだけでなく光秀の妹としての芯の強さもきちんと持ち合わせていた。衣装がまたとっても似合ってて素敵でした!

四王天但馬守@幸四郎さん、やはり華がある。光秀@吉右衛門さんと二人で並ぶだけで見応えがある。舞台面が大きく華やかになり楽しいです。


『名残惜木挽の賑 お祭り』
風邪で途中休演されていた芝翫さんがお元気に復活されていました。芝翫さんの存在感や愛嬌は格別。

踊りのほうは個人的にやはり染五郎さんの踊りが好き。上半身の芯の通ったしなやかさに足捌きの確かさが見事。松緑くんは踊りは荒っぽいけど、イナセな感じがしっかりあるのがとても良い。歌昇さんはほんと上手いです、もっと押し出しが強ければ上手さがもっと引き立つと思うのですが。


『天衣紛上野初花 河内山』
役者が揃っていることもありとても楽しく面白く観ました。

河内山@幸四郎さん、楽しげに演じていらっしゃいます。高僧の品格がありつつ、やんわりといけしゃあしゃあと松江候をやり込めていく様が面白い。権力に楯突くような 人をくったような雰囲気のなかに愛嬌があるのが幸四郎さんの河内山。いつもより抑え気味な台詞回しで河内山がやらんとすることがストレートに伝わってきて、かえって表情豊かだったように思う。前半抑えたことで玄関先での開き直りと啖呵が際立ちメリハリの利いた河内山でした。

松江候@梅玉さん、我侭で尊大な殿様が似合う。こういうお殿様役は梅玉さんが一番だなあ。品が決して落ちないところがとっても良い。

高木小左衛門@段四郎さんはやっぱり上手い。存在感がまず良いのと、思慮深いところがしっかりあるのがいい。

北村大膳@錦吾さん、いい味だしていました。幸四郎さんとの息もピッタリ。人の良さそうな部分は今回はなく、短絡的な可笑し味のある敵役を上手く演じていました。


2 コメント

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脚本がすごくいいです。 (yokobotti)
2009-09-27 21:59:33
お久しぶりです。
『竜馬がゆく』の脚本、すごくいいと、私も思いました。時代の切り取り方が、上手いです。
これをもう一度見たさに、今月は二回歌舞伎座に行ってしまったんですが、一回めに見た時より、さらに良く、感想を書き直さなくては…と、思ってしまいました。再見が、初見よりもいいって、この脚本は本物ですね。

ほんとに! (雪樹)
2009-09-28 11:08:09
yokobotti様、こんにちは(^^)
『竜馬がゆく』の脚本、良いですよね。どうしても説明台詞が多くなってしまっているのがもう少し練ってほしいかな、と思わなくもないですが、言いたいこと、観て欲しいもの、がストレートに伝わってくるし、個人的にはなにより「時代」と「生活」がきちんと描かれているのがいいなあと思います。
この脚本、一部、二部の脚本から通して考えると、なおのこと上手いし良いと思います。
私、実は千穐楽も幕見で観にいってしまい計3回観たんですが、やはり観るたびに良いなあと思いました。しみじみと訴えかけてくるものがあったと思います。