思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

【読書メモ】2010年7月

2019-02-21 12:41:28 | 【読書メモ】2010年
<読書メモ 2010年7月>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。


『半落ち』横山秀夫
妻殺しの容疑を認めつつ、失踪した2日間に関して黙秘する男の話し。
てっきりSF的な話しかと。
この作者にしては珍しく、第一章の主人公がかっこいい大人だった。

(横山秀夫を手に取ってなぜSFと思ったのだろうか。
 当時の私を尋問したいところです。
 それはさておき、当時の話題作ですよね。
 映画やドラマは観てないですが、直木賞での選考委員の
 否定的な意見には、「余計なお世話だよっ!」と思いました。
 ちなみにですが2002年「このミス」第1位
 &週刊文春「ミステリーベスト10」第1位です。
 私は読んで大変おもしろいと思いました。
 直木賞選考委員は、ホント、大魚を取り逃すのが好きですね)


『光の帝国』恩田陸
メモなし。

(「常野物語(とこのものがたり)」「常野シリーズ」などと呼ばれている
 一連の作品の、第一作です。
 10篇の短編集。特殊な能力を持つ「常野」と呼ばれる人々の物語。
 シリーズ続編は『蒲公英草紙』『エンド・ゲーム』だそうです。
 ううむ、記憶に残ってない…)


『レディ・ジョーカー』高村薫
「マークスの山」(未読)の続編。
というわけで、加納検事の設定が唐突に見えて気が散った。
とはいえ、闇の部分が難しくて全部を見渡せなかったけど、
おもしろかったです。

(大手ビール会社社長を営利誘拐する自称「レディ・ジョーカー」一味の物語。
 高村薫による警部補・合田雄一郎のシリーズ第三作。
 毎度、読書の順番を間違える私ですが、この時点で未読の「マークスの山」
 「照柿」に続く作品です。
 加納検事は、元妻の双子の兄で、合田警部の同級生。
 脅迫されるのは大手企業の「ブランド」だったり、
 総会屋や組織の体面や個人の情など、複雑な力関係が入り組んでいて
 文庫3冊のボリュームですが、おもしろいです。
 1999年「このミス」第1位)


『残虐記』桐野夏生
先輩が「作家本人の、編集者とのダブル不倫をネタにした小説」
と言っていたので、冒頭を読んでこの本かと思った。違いました。
『IN』のことらしい。
これはこれで、おもしろかった。
結末が予想通りではあったけど、どんでん返しを期待する作品でもないし。
被害者の心象風景がリアルですごいと思った。

(失踪した女性作家が残した原稿には、少女時代に被害にあった
 監禁事件の内容が書かれていて…って、重すぎるあらすじである。
 桐野夏生だし、もちろん、読後感もめちゃくちゃ重い。
 ぞわっとする。なんか肌が痒い。べとっとする汗をかく。怖い。
 それでも読了してしまう感じが、この人の真の怖さだと思う)
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ネレ・ノイハウス『深い疵』

2019-02-19 12:28:18 | 日記
ドイツが舞台の警察小説「オリヴァー&ピア」シリーズです。
訳者の酒寄(さかより)進一さんは、
私的にはシーラッハでおなじみってことで安心して手に取りました。

まずね、お伝えしたいのは、おもしろいです。
警察小説としても、ドイツやポーランドの歴史を学ぶ上でも、
読んで損はない一冊です。

ですが。ですがね。
これはシリーズ第一作目ではないぞ!!!!気をつけろ!!!
とだけ、言っておきたい。

この小説の紹介で
「ドイツで累計200万部突破の人気シリーズが遂に日本に!」
的な煽りがありまして、
てっきりシリーズ第一作だと思うじゃないですか。
これは、邦訳第一作であり、シリーズとしては三作目です。
まぎらわしいな!!!

というわけで私のように勘違いして読み始めると、
導入部分で、妙に、人間関係の説明が飛んでいる箇所や、
過去の事件への言及があったりして、「?」となることしばし。
まあ、大筋には影響ないので、そういうもんかと思って
読み進めれば良いのかもしれません。

ちなみに現在では、シリーズ第一作『悪女は自殺しない』、
第二作『死体は笑みを招く』ともに創元推理文庫で邦訳済。
出版順通りにも読めます。

『深い疵』のあらすじとしては、
ホロコーストを生き残った経歴を持つ80代のユダヤ人男性が
殺人の被害者になることから始まり…
って、なんだか重そうな導入ですね。
私もどんよりしました。

が、読み進めてみると、ミステリとしてテンポ良く
謎と謎解きとさらなる謎が出てきて
読みやすいし、物語にぐいぐい引きこまれます。

文体がけっこうドライで、私はそれも好みでした。
シーラッハを読んでいる感覚に通じるものがあって、
訳者がそういうタイプなのかな?
(シーラッハの方が文章は上手いとは思うけど)

テンポが良すぎて、
たまにストーリーに追いつけないところもありましたが…
(リッターは、いつインタビューをしたんだ?)
貴族出身のオリヴァー警部と、猪突猛進型のピアを中心に
ぐいぐい物語が突き進む感じ、おもしろいです。

シリーズ第一作からちゃんと読もうかな。
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ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』

2019-02-07 16:58:35 | 日記
森嶋マリ 訳。

基本は、タイトル通りです。
貴重な「古書」の「来歴」の物語。
(いわゆるミステリではないですね)

色んな時代、色んな場所、色んな人が関わった、
一冊の「ハガター」の物語です。

ちなみに「ハガダー」というのは、
ユダヤ人家庭に一冊はある本で、
過越しの祭というイベントの晩餐時に
家族で広げて先祖のことを語り継ぐために使うらしい。

一家に一冊、ということで、廉価なものから高級なものまで
様々なようですが、この小説の中心となる本は
「サラエボ・ハガダー」と呼ばれる500年モノの稀覯本です。

この本を鑑定した主人公の古書鑑定家ハンナのストーリーと、
この本にまつわる各時代のエピソードが交互に語られています。
ハンナのパートは、母と子の物語であり、
自らの欠落(と恋)に向き合う物語としておもしろく読めます。

で、
章ごとに挿入される「古書の来歴」は、歴史的に暗く辛い話しが多く
その章の中心人物に救いが無さそうなものも多かったです。

読みながらつらつらと思ったのは、
たった一冊の本が様々なドラマに彩られているんだなあ、
というど平凡な感想を抱きつつ。
一方で、
ひとつのお話しとしてどうなのよ、との思いもありました。

そんでまた、読了すると感想がひっくり返るのですが。
それぞれの時代のユダヤ人やユダヤ文化にまつわる
苦難や状況を切り取ろうとこの作者が真摯に取り組んだ結果として、
こういう話しになるのが必然なのだな、と、納得するものがあります。

ちなみにこの作者ブルックス氏は元々ジャーナリストで
とことん取材を重んじている人のようなのです。

さらに、「サラエボ・ハガダー」という存在や、紛争からの焼失を逃れた経緯、
500年前のスペインで描かれたものらしい、等の
キーになるモチーフはノンフィクションとのこと。

ユダヤ人の歴史に思いを馳せずにはいられない一冊です。

第2回「翻訳ミステリー大賞」大賞
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多和田葉子『雪の練習生』不思議でステキな、クマの自伝

2019-02-06 12:34:22 | 日記
三世代に渡るホッキョクグマのお話しです。

『祖母の退化論』『死の接吻』『北極を想う日』の三部構成で、
それぞれが三世代に渡るホッキョクグマの視点で描かれています。

『祖母の退化論』は、
サーカスの花形から事務職に転身し、自伝を書き始めた「わたし」。

『死の接吻』は、
バレエや演劇の舞台からサーカスへ移籍した娘の「トスカ」。

『北極を想う日』は、
生後すぐから人間によって飼育され、
ベルリン動物園で人気者になった「クヌート」。

それぞれが、独特の文体や雰囲気で個性的に書かれていますが、
とにかく不思議。
ホッキョクグマが事務職になるし、会議に出るし、
雑誌の編集長はオットセイ氏だし。
でもまあ、不思議は不思議として、良し。となる。

ほわっとして、ほんのり切なくて、
ちょっとだけザリッとした感触のある物語です。
ものすごく良い。多和田葉子すごい。

初出は雑誌の連載だったそうですが、
それぞれを単独でいきなり読んだら驚きそうだな。

ちなみにクヌートは実在するそうです。
それもまた、不思議な感じ。

第64回 野間文芸賞 受賞(2011)。
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【読書メモ】2010年6月 ③

2019-02-05 12:32:51 | 【読書メモ】2010年
<読書メモ 2010年6月 ③>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。


『彼岸先生』 島田雅彦
『退廃姉妹』の作者だな~と思って読んでみたけど、
なんだか作風が違うので戸惑った。
初期の作品で、夏目漱石の『こころ』をモチーフにしているとのこと。
「ぼく」の一人称の間は良かったけど、だんだん鬱陶しくなってきた。

(『退廃姉妹』は第17回伊藤整文学賞(2006)を受賞。
 戦後の東京に生きる姉妹の物語。
 メモにもありますが、『彼岸先生』の方が初期の作品で、
 ついでに第20回泉鏡花文学賞 (1992)受賞作。
 主人公「ぼく」が多摩川の向こう側に住む「彼岸先生」を観察する前半と、
 先生から託された過去日記の後半パート。
 雑誌『海燕』に二年に渡って連載されていたそうで、ページ数もなかなか。
 島田雅彦作品は他に『忘れられた帝国』も読んでいました。
 昭和30年-50年にかけての郊外の風景が「ぼく」の一人称で語られています。
 こちらも新聞連載だった小説で、細かい章立てが読みやすかったんですが、
 『彼岸先生』は後半、私が力尽きました。飽きた)


『クライマーズ・ハイ』 横山秀夫
なぜか『ホワイトアウト』と混同していて、避けていました。
それは真保裕一だ。『奇跡の人』(全くおもしろいとは思わなかった)だ。
こちらは『震度0』(めちゃくちゃおもしろいと思った)である。
ということに気付いて焦って読んだ。
すごくよかった。
作者は群馬の上毛新聞で記者をやっていた人らしい。
舞台は日航機墜落事故の現場に近い群馬県の地方新聞社(前橋?)。
中年男性の嫉妬とか苦悩とか打算とかがうまい。
良い歳した男が、こんなに女々しいもんなんだなという発見が、
イラッとするよりスッキリする。

(『震度0』を読み終えた後の、“すごいものを読んだ感”は痺れました。
 しかもタイトルが秀逸。
 当時はまだ会社に入って数年の若手だったので、
 良い歳したオッサンの野心や懊悩の描写にビックリしました。
 ぜんぜん40歳になっても「不惑」じゃないじゃん!と。
 今ではすっかりオッサン側である)


『狼の震える夜』 ウィリアム・K・クルーガー
最後の犯人が出てくるところが、古典的ではなかろうか。

(「コーク・オコナー」シリーズと呼ばれるハードボイルド小説の
 第2作目。疾走した女性歌手を巡るミステリー。
 一作ごとに、主人公であるオコナーの家族の物語も絡むらしいので、
 シリーズ順に読んだ方が良さそう。
 と言いつつ一作目も、これ以降も読んでいないけど)
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