思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

テッド・チャン『息吹』 優しいハードSF

2021-07-19 09:59:37 | 日記
テッド・チャン『息吹』
SF界隈で人気の現代作家らしい。
「読んでみたい」リストにずーっと入っていたのを、
ようやく読んだ次第。

めちゃくちゃ寡作な作家らしく、
これが2作目の短編集。
1作目から17年も空いているらしい(!)
ちなみにデビュー29年で刊行したのは2冊だけ(!!)。

原尞読者もビックリですよ笑

個人的ベストは冒頭の『商人と錬金術師の門』。
アラビアンナイトっぽい寓話の入れ子構造で、
すごく好き。
すごく良い。

表題作の『息吹』もいい。
アンドロイド的生命体の世界(?)だろうか、
謎の世界に生きるひとりの科学者が
世界の謎に迫るというもの。
ディストピアっぽいのだけれど、
大森望の解説曰く「世界のことわりを解明」し
「自分の人生とどう向き合うか」と。
なるほど。

世界や生命を「科学で創造」するという
自然の摂理に抗うような設定が多いのだけれど、
なんとなく物語の視点に作者の愛情や優しさを感じる。
こういうハイレベルなハードSFにありがちな
厭世感や説教ぽさが無いんですよね。
意外と珍しいし、得難い魅力なんじゃないかと思います。

アマゾンでもブクログでもすごく評価が高いのだけど、
納得。
一作目の短編集『あなたの人生の物語』も読んでみようっと。

最後に余談なんですけど、解説や出版社が
「世界のSF賞を20以上獲得」と紹介する際に
ネビュラ賞、ヒューゴー賞(なんとなく知ってる)と並べて
星雲賞(知らない)をアピールしていて、
「?」と思ってしまった。
日本のSF賞なんですね。
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柚月裕子『検事の本懐』 骨太〜!

2021-07-17 13:49:23 | 日記
『最後の証人』に登場した元検察官の弁護士・佐方貞人の
検事時代を描いた第二作が、『検事の本懐』。

オリジナル長編 → 過去を描く連作短編
おもしろい順番で作品を書くなあと思ったのだけど、
恐ろしいくらいに完成度が高かった。

なるほどこういう生い立ちで、検事になり、さらに弁護士になったのか、と。
第1作から練られていたのかな。
凄いな。

今作は連作短編集ではありますが、それぞれの物語で
視点となる主人公的人物が変わるのが良い。
それぞれが「警察小説」だったり「検察小説」だったり
味わい方が変わるのもおもしろい。

特に冒頭の『樹を見る』は典型的な「警察小説」
(横山秀夫的にオッサンが喧嘩したり葛藤したりする。良いね!)で、
佐方検事はほぼ出ない。
でも、しっかり「らしさ」を残す。
うまいなあ。

最後の『本懐を知る』も、
主人公はジャーナリストの兼先とも、父親の故・佐方氏とも言える。
でも佐方貞人に収束する物語でもある。
凄い。

シリーズの続きが気になってしまうし
シリーズのファンになってしまう。

第15回大藪春彦賞受賞
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『ロシア語の余白』ロシアに好意的な気持ちになれます

2021-07-16 09:26:05 | 日記
黒田龍之介『ロシア語の余白』

ロシア語の先生による、ロシア語よもやまエッセイです。
おもしろい&語学センスゼロでも楽しめる!!

ひとつのエピソードが2ページ程度の短さなので、
勉強や仕事の合間に、雑談変わりに読むのにちょうど良い。
ご本人が前書きに記しているように、
「授業中の雑談・脱線」みたいなお話しで
「ちょうどこういうのが欲しかったところです!」的息抜きになる。

私はリスニング系のセンスゼロ(音痴と関係あるのかな)な上、
読み書き文法も苦手なので(要するに筆記もダメだ。何ができるんだ)
ロシア語で使われているキリル文字も全く見分けがつかないのだけど
それでも読んで楽しめます!
ちゃんと、ロシアやソ連に興味を持てる。
すごいよ黒田先生!!

ここ数年での読書成果として、ロシア(旧ソ連)に対しては
「おそロシア!あとソ連&共産主義はマジ動物農場!」
という印象でゴリゴリに怯えていたので、
ちょっとだけ払拭できました。

ありがとう黒田先生!!
いつかロシア旅行してみたいです!!
メトロポールに行きたいです!!
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【読書メモ】2015年7月 ③ その他

2021-07-15 10:11:20 | 【読書メモ】2015年
<読書メモ 2015年7月 ③ その他>
カッコ内は、2021年現在の補足コメントです。 


『笑う警官』佐々木譲
メッタ斬りコンビが言及してたなあと思って
読んでみたかった小説
(と思ったら勘違いで『警官の血』のことだったぽい)。
北海道警の不祥事が物語の大前提としてあって、
それに対する説明がちょっとあっさりしている気がした。
みんな知ってるでしょって感じで。
疎くてすみません。
ミステリという意味では真犯人、なんとなくわかってた、
というのだし動機もひっぱるほどのものではないけど、
メインは警察機構の腐りっぷりだったり、
それでも「うたう」ことは許しがたいと思ってしまう
仲間意識のゆがみだったり。
おもしろかったです。
佐伯はずっと座っているだけで、
捜査したのは諸橋おじさんと小島嬢だけど。

(この作品、元々のタイトルは『うたう警官』で、
 そちらの方が内容にも合っていて良かったのだけど
 北欧の名作警官小説にあやかって『笑う警官』に改題したらしい。
 うーん…)


『不眠刑事と探偵の朝』末浦広海
ずいぶんとライトな小説だなーという感じです。
謎も人生模様も、軽いなーという。
まあ、いいんじゃないでしょうか。


『空港にて』村上龍
あとがきで
「希望を書きたかった」
「時間を凝縮させるという手法を使った」
と仰々しく解説しているけれど、あまり希望は感じなかったし、
手法を語ることに意味があるのかわからない。
(俺様はこんな手法も知ってるし書けるしーと言いたかったんだろう)
とはいえ確かに上手いのだろうけど、
そしてなんだかんだで全部読んだのだけど、
やっぱり好きじゃない。
あと家具売り場の人間に何か恨みでもあるのか。

(「村上といえば春樹」派なもので。
 たまに龍を読んでは文句を言う人種なのです困ったものです)
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『水魑の如き沈むもの』

2021-07-14 16:51:07 | 日記
三津田信三『水魑の如き沈むもの』

<刀城言耶>シリーズの第5長編。
今回は関西(奈良)の山奥へ行きます。
今までの作品は奥多摩が多かったから、いいですね。

この山村の方言、なにかと語尾に「け」がつく。
「ごはんけ」は「ごはんですか?」でも「ごはんですよ」でも
使い分けできそうな、万能語尾。
威張り散らしてる神社のジジイも、
特攻崩れと村人に呼ばれている捻くれ者の若者も
「〜け」と言うだけでちょっとかわいい。

で。
肝心のお話しはですね、
湖を水源とする稲作で暮らす4村で
その水神様である水魑さまに増水・減水をお願いする儀式が軸。
呪いだったり言い伝えだったり怪異だったり殺人だったり。
お約束のフルコースが楽しめます。

おもしろかった。
終わり方も良かったと思う。
主人公の刀城言耶は相変わらず、
推理過程で「つまり犯人はあの人です!」が二転三転。
「結局誰じゃい!」感も安定していて、楽しめました。

個人的には、
水(に関わらず山も海も、なんらかの糧をもたらしてくれる場)
の神様は、「女性」というイメージがあって。
儀式での生贄って「生娘」が求められるものなのかな?
儀式前や狩猟前にやる「禊」って、女臭さを落とす意味もあるじゃないですか。
女神様に嫉妬されるから。
だったら生贄は若い男性がいいんじゃないか?
まあ、私だったら山海の珍味と酒樽が一番うれしいけど。
という感想も残った。
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