思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『日々のきのこ』 きのこ心が湧くね。ほんとうだね。

2023-10-31 15:01:29 | 日記
『日々のきのこ』
高原英理

解説で「きのこ文学」と書かれていて、
「?」と思ったけれど、
まごうことなききのこ文学だった…。

作者は幻想文学新人賞でデビュー、
というプロフィールも合わせ読むと、
なるほどきのこ文学だ!となること間違いなしです。

数ページ程度の短い章が連なって紡がれている一冊。
きのこ菌が世界を覆った世界での、
きのことの日々がつらつら素描されている感じです。

冒頭の、きのこ(ノモホコリタケといって
踏んづけると胞子が撒かれる)をばふばふと踏む
お仕事のお話しが早速よかった。
「地胞子拡散業」または「ばふ屋」と呼ばれる職業だそうです。
いいね!ばふばふやりたい。

読み進めながら、少しずつ、菌に侵された世界のことが
わかってくる。
人間の体の半分以上が菌糸になると
「菌人(きんじん)」または「綴じ者」と呼ばれるとか。
山で行き合った人には何かを「渡し物」する風習とか。
百八型の粘菌持ちは年に一度、
胞子を散布するために空を飛べるとか。

最初の方はちょっとダークファンタジー感の
あるきのこワールドだなあ、と、
若干ほっこりしながら読み進むのだけれど、
徐々に、きのこの勢力の大きさに翻弄されて
なんだか不穏な気持ちになります。

菌検査官「遠延(とおのぶ)」の由来とか、
なんかそれっぽいけどよくわらなくて段々怖くなる。
きのこ温泉で「きのこ心が湧くね」「ほんとうだね」
と会話しているだけでも、段々怖くなってくる。

きのこ心の湧く一冊でした。

ヒグチユウコさんの挿絵のきのこも
最高にホラーでかわいい。
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『スローターハウス5』 納得名作!あと「1」〜「4」はない。

2023-10-30 18:03:19 | 日記
『スローターハウス5』
カート・ヴォネガット・ジュニア
訳:伊藤典夫

しばらく前に何かのレビューで見て
チェックしていた本。

というわけで「1」〜「4」もあるのかな?
と、存在しない本を探したこともあります。
はい。

『スローターハウス5』は「5」だけ。
1973年に早川書房から出版された単行本のタイトルは
『屠殺場5号』。
おお、これだと単独作品だとわかりやすい。
しかし邦題のクセが強いというか、インパクト、すごいな…。

と思った人が編集部にいたのでしょう。
1978年の文庫化の際に、
『スローターハウス5』に改題されました。
そうね、こっちの方がいいですね。
表紙の和田誠(好き)との親和性もばっちり!

作者は1932年生まれ。
第二次世界大戦にアメリカ兵として従軍していて、
連合軍によるドレスデン無差別爆撃を「受けた」人。
アメリカ兵がアメリカ軍の爆撃受けるの?
と、思ったけれど、戦争というのはそういうものだ。

終戦間際にドイツ軍捕虜になり、
ドレスデンの「スローターハウス5」に収容されたところ
アメリカ軍主導の爆撃を受けたという事情らしい。

ドレスデン爆撃は市の85%を破壊し尽くし、
一般市民が大半である13万人の死者を出したと言われる。
作中では「広島をうわまわる規模」と表現されていて、
まあ、それに対して言いたいことはあるけれど、
とにかく大規模な被害を出した酷い爆撃だったわけです。

ヴォネガットはその体験について「書く」とずっと言っていたものの、
なかなか書けなかったという。
冒頭でもそのような経緯に一章を割いていて、
そして突然、主人公の架空の人物ビリー・ピルグリムが出馬する。
え?

という理不尽なストーリーテリング、嫌いじゃないぜ!

ビリーは時空を飛ぶ能力(?)を持った変人。
最初の時間内浮遊が起きた1944年、
ドイツとの戦いに敗れた敗残兵状態を起点にして
時間と空間をあっちこっち行きます。
お話しもあっちこっち飛びます。

ついでにトラルファマドール星人に誘拐されて
トラルファマドール星にも行き、
なんか、いろいろ哲学します。
読者をぶんぶんぶん回します。
おいてかないで〜。
でも楽しい。

あらゆる理不尽と不条理とファンタジーが渾然一体となりつつ、
頻出する表現「そういうものだ」(So it goes.)で
もろもろ納得する。
いや、不思議だけどね。
なんか凄い。

アメリカのセクシー女優モンタナ・ワイルドハックは
架空の人物のようです。
今も子育てしてんのかな?

なるほど!と思える納得の名作。
あと好きなタイプの小説。
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『ジェルミナール』 カトリーヌに謝れ

2023-10-27 14:59:32 | 日記
『ジェルミナール』
エミール・ゾラ
訳:安士正夫(岩波文庫1954)
訳:河内清(中公文庫1964)

なんでか分からないんですが、
ちょっと前から
「ゾラを一冊くらいは読んでおこう」
と思ったんですよ。

で、評判が良さそうな『ジェルミナール』岩波文庫版(全3冊)を
図書館から借りてみたのです。

ゴリゴリの旧仮名旧字〜。

読めなくはないのだけれど
脳みその一部が漢字変換に割かれるので、ちょっと疲れます。
うーん、『紺青のわかれ』みたいな旧仮名を面白がる作品じゃないし。
ギブで!

『ジェルミナール』中公文庫版(上下巻)を借りてきました。
我ながらフットワークいいね!

エミール・ゾラは、19世紀フランスの
自然主義文学、リアリズム文学の作家。
全20作から成るルーゴン・マッカール叢書で有名。

ちなみに叢書の副題は
「第二帝政下における一家族の自然的・社会的歴史」。
フランス第二帝政下の社会の全ての階層、全てのリアルを
描こうとしているらしい。
ルーゴン家とマッカール家に分かれ、
国務大臣からパリの洗濯女まで幅広い身分に分岐する
壮大な物語。

壮大だね!
壮大すぎて、この中の一冊を読んだ程度では
ゾラは語れないし、大して理解できません。
読む前に教えてくれ!!

もちろんバルザックの系譜の人である。
先に言ってくれ!!

とはいえ読み切ったよ。
私えらい。

『ジェルミナール』は
『ルーゴン・マッカール叢書』の第13巻に当たる小説。
1885年刊。
主人公のエティエンヌ・ランティエは
マッカール家の系譜に連なる流れ労働者。
彼がフランスの炭鉱町モンスーに流れ着いたところから
物語が始まります。

にしても、まあ、暗いし貧しいし悲しいんですけど。
炭鉱暮らしのリアルよ…!!
ゾラの作品は、当時の労働者階級(下層階級)の暮らしが
リアルすぎて、ブルジョア階級に衝撃を与えたらしいですね。

特にマユ一家の娘カトリーヌの扱い、ひどくないか。
男女不平等の時代なのはわかるけどさあ。
その環境下で奔放かつ無知なムーケットなんかは
とても魅力的だけれど。
カトリーヌはしんどい…。

タイトルのジェルミナールは「芽吹き月」(革命歴で第7月、
現在だと春先)、労働者階級の自我と革命の芽が撒かれた時期
を象徴するそうです。

確かにエティエンヌが来る前のモンスーの貧しさは、
シンプルに厳しかった。
でもエティエンヌが来て革命の芽を植えた後の、
マユ一家(特におかみさん)を見てしまうと、
すごいもやもやするんですけど。

最後にパリに向かうエティエンヌの描写
「希望にひたり、エチエンヌは新しい季節の中であたりに目をうばわれ、歩みをゆるめた。自分のことを考え、炭鉱の底でのきびしい経験で成熟し、強くなったのを感じた。おれの教育はできあがった、(中略)傾聴される指導者になるのだ。という喜びで、彼はさまざまな演説を思いつき、その文句をあれこれと考えた」
じゃねえよ。
カトリーヌに謝れよ一言でいいからさあ!!

というのが感想なので、叢書を一通り読まないと
ゾラの意味や高尚な感想などは出ないのかもしれません。
読んだところで、やっぱり「カトリーヌに謝れ!」しか
湧いてこないのかもしれません。

ちなみになんだかんだで岩波版と中公版を行き来して読んだので
翻訳の違いなども楽しめました。
中公文庫のエティエンヌの方が、口が悪くて教育が低めなイメージ。
なんでだろう。
あと、名前の表記もちょっと違って。
岩波だと「エティエンヌ」なのが中公だと「エチエンヌ」になる。
名前は岩波の方が好み(リディよりリヂが良い)ですね。
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『紺青のわかれ』 ザ!昭和耽美文学

2023-10-17 13:33:41 | 日記
『紺青のわかれ』
塚本邦雄

ザ・耽美文学という一冊。短編集。
江戸川乱歩の初期短編とか、
三大奇書とか、
そこらへんの香りがぷんぷんします。

と思って検索すると、作者は寺山修司らと
活動していた人らしい(前衛短歌運動)。
ついでに中井英夫(三大奇書の一角『虚無への供物』作者)とも
交友があったようです。
ほらね!(なにが「ほらね」なのかアレですが)

旧仮名遣いと漢字の旧字体が多くて
読むのに気合いが必要ですが、意外と読める(と嬉しい)。

晝(昼の旧字)は書生っぽくて良い。
腥い(「なまぐさい」の旧字)はなんだか色っぽい。
竝べる(並べるの旧字)は全然知らなかったけど、
見た目でなんとなく意味分かっておもしろい。
学びがあってよし!

植物の名前がたくさん出るのも良い。
”雁来紅(かまつか)の猩々緋”ってなんだ。
と思って調べたら、「がんらいこう」=「葉鶏頭」のことっぽい。
「かまつか(鎌柄)」という植物もあるけれど、花が白いから違う。
(猩々緋は赤色のこと)
学びがあってよし!

奥付が初期の祖父江慎っぽいヤンチャデザインで、
そこもよし!!


初版は1972年でいいのかな。
『冥府燦爛』ではジャン・コクトーの映画『オルフェの遺言』
(1959・ピカソも出演している。どうでもいいけどこの時代の
フランス芸術は脚本コクトー・美術ピカソ・音楽サティという
フィクションか誰かの妄想ツイートかな?と思うくらい
豪華キャストの舞台があったりする。どうかしてる時代で
うらやましい)や
『天井桟敷の人々』(1944・寺山修司の劇団名の元ネタ)の話を
つらつらと書いています。
リアルタイムで観ていた世代かもしれません。
面白そうな時代である。いいなあ。

あと、どうでもいい余談ですが、
こういう耽美系の小説っておもしろい名前が多い。
麻植と書いて「おえ」と読む苗字。
祝部(「しうべ」というルビだったけれど、
「しゅくべ」「ほおべ」と読むのが多いみたい)という苗字。
登場人物の名前もコンセプトが効いていて良かった。
羅列するだけで厨二病が加速しそう。

さらにどうでもいい余談ですが、
省略(アン・ラクルシ)して、安楽死くるし、
とか、なんか高尚な単語を駆使した駄洒落がある。
タイトルにもその片鱗あるけど。
(掛け言葉と言うべきかもしらんけど、
 見つけるとにっこりしちゃう)
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『古本屋は奇談蒐集家』

2023-10-16 17:53:58 | 日記
『古本屋は奇談蒐集家』
ユン・ソングン
訳:清水博之

絶版本等のレア古本を探す代わりに
その理由や人生を聞かせてもらう、
という古本屋さんのエッセイ。

おもしろい商売の仕方だなあ。
古本探しは大変そうだけど、
私もそういう人生聞く仕事やってみたい。

本を探す理由も、一人一人の人生模様も様々で、
子供の頃に親からもらったけれど読んでいないとか、
内容もタイトルもうろ覚えとか。

書籍修繕の仕事と併せて、
本にまつわる「人」が見えるおもしろい一冊。
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