「詩客」エッセー 第2週 

毎月第2土曜日に、遠野真さんの連載エッセー全13回、藤原龍一郎さん、北大路翼のエッセーを各1回掲載いたします。

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いちばん美味しい星の食べかた 第5回 ゴミ箱 遠野 真

2016-05-03 00:12:22 | 日記
 サークルの付き合いなんかで大勢の人を自室に入れたとき、決まって誰かに「ゴミ箱でかすぎでしょ」と言われる。初めて指摘された時は衝撃的だった。ゴミ箱に大きい小さいなんて考え方があるのか。そう思って人の部屋に行くたびゴミ箱を確認してみたら、たしかにみんなの使っているゴミ箱はうちのより遥かに小さい。僕が使っているのはポリバケツの五倍くらいあるから、それに比べたらまるでミニチュアだ。入るものと言ったら、紙くずくらいだ。そんなんでどうやって部屋のゴミをまとめているのか、想像すると不安になるくらいだ。アマゾンの段ボールとか、弁当のパックとか、大きめのゴミが入らないじゃないか。うちなんて、広げてセットしたポリ袋が週二回の回収日までには必ずパンパンになるくらいなのに。しかし、ゴミ箱の大ささを指摘した人間に言わせてみれば、それだけ僕が部屋にこもって多量のゴミを産出している、ということらしい。
 しまった、と思った。ゴミ箱からふだんの引きこもり生活がバレた。たしかに、、狡猾な奴は察するだろう。このゴミ箱のサイズからして、こいつは部屋にこもりっきりの、友達が少ない人間だ……と。単身者がそれだけ大きなゴミ箱を必要とするのは家から出ないか、分別を無視してなんでも突っ込んでいるかのどっちかだ。どっちでもない、と言いたいけれど僕はじっさい友達が少ないし、たいていの時間を家の中で過ごしている。
 自覚していることとはいえ、自分からそう表明しないうちにバレてしまうと恥ずかしいじゃないか。こっちから「友達いないんで~」と言うのと「友達いないんだね」と察されるのは意味がまったく違う。
 かといって、いらない恥をかかないためにゴミ箱を買い換えて新しくすることも、怠惰な僕はしなかった。というか、ゴミ箱を捨てるゴミ箱がなかった。
 妥協策として人んちで見たくらいの小さなゴミ箱を買ってみた。当然通販を使う。試しに梱包の段ボールをたたんで入れてみたら、それだけでいっぱいになってしまった。おもちゃみたいな円筒形の入れ物から、無理やり小さくした段ボールがはみ出している光景は、絶妙に情けない心地へと僕を導いた。さっさといつものゴミ箱に段ボールを捨て直して、いろいろな使い方を試してみたが、どれも後でゴミをまとめる作業が手間になるだけなので、結局使用を諦めた。いくら世間が広いといっても、ゴミ箱をインテリアにしている人間はそういないだろう。やっぱりゴミ箱はでかい方がいい。大は小を兼ねる。
 二軍ですら出場機会がない野球選手みたいなミニごみ箱だったが、最近、あるだけ邪魔ということに気づいて捨てた。ゴミ箱を捨てたのは人生で初めてだった。弁当のパックも入らないんじゃ使いようがない。無駄にしたお金のことを思うと切なくなるけど、十年来染み付いたインドア体質がそうそう変わるはずもなかったし、結局僕はゴミ箱を捨てるときに脱インドアの意志も一緒に捨てることにした。
 でかいゴミ箱はぼっちのシンボルだ。家主の怠惰な日常を懐深く受け止めてくれる。
 壊れることがないから一生のお付き合いになるかもしれない。それなら名前でもつけて可愛がったほうがいいだろうか。考えておこう。
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