「詩客」エッセー 第2週 

毎月第2土曜日に、遠野真さんの連載エッセー全13回、藤原龍一郎さん、北大路翼のエッセーを各1回掲載いたします。

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いちばん美味しい星の食べかた 第8回 占い 遠野 真

2016-07-31 13:15:53 | 日記
 占いの類が好きなので、パソコンを使い始めた十代の頃にネットの無料占いを片っ端から試したことがあった。今振り返ればかなりパンクな時間の使い方だが、全体を通してここに書けそうな話題は一つしか思いあたらない。

 ネットの無料占いにも色々あるが、占いの根拠があるかないかでざっくりと二分することができる。星座占いとか四柱推命とか動物占いみたいに、ちゃんと占ってくれるものもあれば、結果が日替わりのお気楽なものもある。当初はデータ入力や結果の文章がしっかりしていればしっかりしているほど楽しかった。でもそれは短い間の話で、だんだん腹が立ってくる。何に? 同じ名前を冠した占いが違う結果を言ってくることにだ。素人には比較や検討が不可能だと気づくともう、やればやるほど結果そのものへの情熱が冷めてくる。特にひどいのは画数占いで、同じ名前でも大吉と大凶がころころ変わる。結果を信じるのはかなりの苦行だ。
 そんな悪趣味のせいで勝手に信用を損ねていると、今度は名前を打ち込んでクリックするだけのワンクリック占いにハマりだした。そもそもは得体の知れない力で自分を見透かされる、という感覚にドキドキして好きになった占いだけれど、一日に百回もやっていると、いいかげんそのハリボテ性に気がつく。そうなってくるとかえって、ハリボテであることに開き直っている、ワンクリック占いが面白いのだ。もはや占われることより、自分でクリックした結果何らかのテキストが投げつけられるようなことだけが楽しかったのだ。それはキャッチボールの相手がいない時にする、壁当てと変わらない。
 クリックするだけの占いなんて朝のニュースの最後にやってるやつと大して変わらない、などと侮るなかれ、朝番組の占いみたいに、十分たてば忘れてしまう意味不明なラッキーアイテムは多くのワンクリック占いには存在しない。彼ら(管理人)は、結果がランダムなのをよいことに、下手な占いより占いぶった真面目なアドバイスをしてくるのだ。
 さて、これでやっと本題に入ることができるのだけれど、その当時、つまり十年くらい前、占いポータルサイトのリンクを上から順に消化していたところ、あるワンクリック占いでこんなことを言われた。「とおの、裁くような目つきで人を見るな」。結果はこの一文だけ。適当な太字の明朝体に、これまた適当なピンク色の背景。あとは妙に小さい「戻る」ボタンだけ。驚いたし、かなり怖かった。何回か繰り返しやってみたが同じ結果が出ない。一回目はビビってすぐに消してしまったのをもう一度やってみようとして、数回で諦めた。あとの数回はどれもつまらない結果で、あの一文が最初に出てきたということが奇跡的なのだとわかったし、その衝撃を鮮明なまま心に残しておきたかったのだ。
 それを境に僕の中の占いブームはしぼんでいった。あまりにクリティカルな指摘をされると、人間は向きを変えるのだ。あのあと試しに鏡を見たら、確かにそんな目つきをしていたし、実際自分はそういう目で人を見ていたな、と寝る前に自己嫌悪に捕まったりした。
 以来自分がそんな目つきをしていないかせめて自覚的であろうと気をつけながら生きていたけれど、よくよく観察していると、僕が生きていた社会には「人を裁くような目をしていない人」はどこにもいないことがわかった。理想的な目つきの手本を探そうとしているのだけれど、十年近く経った今でも見つかっていない。腹の裡で人を裁くことを陰湿さに分類するなら、ほんとうの意味で「明るい人」はもはや絶滅危惧種なのだ。もしほんとうの「明るい人」に出会ったら、完全に心を支配されてしまうだろうから、それはそれで恐ろしくもあるのだけれど。

 そんなもんで、もし人間の内面が技術の発展とともに変わってしまったのなら、占いだけ旧態依然というのはおかしいだろう。じゃなきゃ、あの一文に感じた奇跡はただのバーナム効果ということになってしまう。それは十代の貴重な思い出にケチがつくみたいで、少し嫌だ。なんとかして見方を変えれば、情報過多の現代人をちゃんと占えるのは、ワンクリック占いのハリボテ性と偶然性だけだと言えるかもしれない。そう考えると、妙にしっくりくるので、そういうことにしておきたい。
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