「詩客」エッセー 第2週 

毎月第2土曜日に、遠野真さんの連載エッセー全13回、藤原龍一郎さん、北大路翼のエッセーを各1回掲載いたします。

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いちばん美味しい星の食べかた 第7回 詩が押し流されてゆく 遠野 真

2016-06-26 12:11:06 | 日記
 東日本大震災から半年くらい経った頃に、たまたま買って読んだ現代詩手帖が今も手元にある。
 何年かぶりに読んだ誌面は、詩も散文も、震災のことに終始していた。
 そこに、震災以外のことを挟みこむ余地は無かったように思う。
 それは、僕にとっては、津波みたいな力で詩が押し流されているということだった。

 詩というものは読むのも書くのもセカイ系、個人が社会をすっ飛ばして世界と対峙や同化をする際に副産物的に生まれるものだと思っていた。今も根本的にはそうだと思っている。社会に規定された自分の輪郭をほぐして、自由に自分を既定し直したり、世界と向き合ったりする時に生まれるもの、あるいは行為そのものとして、僕にとっての詩は存在する。そのことは短歌でも詩でも変わらない。
 ろくすっぽ詩を読んだことがないのに、一人でポエムらしきものを綴り始めたことが、自分にとっての詩の始まりだった。その時から、社会的な事柄ほど詩にとって無価値なものはなかった。今もない。当然、詩に対するときの自分にとって震災という社会的な事柄はどうでもよかった。今もどうでもいい。
 震災にくっついてくる大きな悲しみや虚しさには価値を感じるけれど、震災とそれにまつわる規範や公共性が、「詩の読み書き」という個人的でセカイ系な僕一人の行為にまで攻撃的な意思をもってかかってくるのが、気持ち悪かった。

 当時、詩から遠ざかっていた自分は、押し寄せてきた「震災という公共」に、何の抵抗もできずに潰されてしまった。読んだのは一冊の詩雑誌だけれど、そこにまつわる〈こうでなければならない〉という観念にのしかかられて、呼吸や身動きが禁じられるような恐怖を感じた。
 わざわざ自分から不快になりにいく理由もないし、その時は一冊を流し読みしてそれ以上考えるのをやめてしまってたのだけれど、そもそもその頃の自分には話す相手がいなかったし、そんなめんどくさい意思表示をネットですることには何の意味もなかった。
 でも、今は少し違う……という気がする。五年前と同じで自信はないけど、たぶん違う。本の整理をしているときに見つかったのをさっき読み直してみたけれど、多少嫌な感じこそすれ、それは当時の苦痛とは原因を異にするものだろうし、あの頃のような重さはもう感じなかった。その変化は、五年経った社会がその一員である僕に詩と関わりのない所でもたらしたものだ。
 そのおかげというと変な言い方だけれど、自分の考えを拙いなりにまとめることができた。
 少しだけ書いてみたい。
あの時(から)、震災が詩を塗りつぶしてしまうのを、当然だとして促す人、黙って見ている人、どうでもいい人、嫌悪する自分のような人……いろんな人が現れたり消えたりしたのだろうけど、それぞれが等分の一票を持っていると、今の僕は、明確にそう思っている。
 短歌には、社会詠という大きなジャンルがある。別にそれはそれでいいし、面白いと感じる歌はある。でも、詠まなきゃいけないという誰かの気持ちと、そんなことどうでもいいという僕の気持ちは、一人の心情という意味で等価なのだ。
 だからこそ、「○○以降、創作のあり方は変わってしまった」という言説を僕はまったく信じないし、僕の詩との接し方は震災の前後でなにも変わっていない。でも、変わった人が沢山いることは認める。自分のあり方と同じだけ認めたいし、認めている。
 だから、戦争や震災と関係のない所で詩と接続する自分に、震災や戦争との関わりに詩を模索する人と同じだけの意思があり得ていいと考えているし、これからもそのような考えで詩を続けていく。
 この先、どんな災厄が、社会の有様を作り変えるほどの災厄があったとしても、だ。

 わざわざこんなことを書いたのは、同じような感覚で詩に関わっている人や、震災に関わっている人に、安心してほしかったからだ。五年前感じたあの息苦しさがなくて済むならそのほうが良い。誰かが苦しんでいるからといって、自分も苦しまなければならないということはないし、その態度は良心の欠如を意味しない。
 苦しまないあなたに、苦しむ人と対等な一票があると、僕は信じている。

 あの日、僕は川崎のマンションの自室にいて、一人でゲームをしていた。
 夜通し続いた停電でごった返した駅前や、真っ暗になった自宅周辺を歩きまわったことを、今でも覚えている。
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