浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

七人の侍における(純朴な)農民について

2016-09-23 23:58:10 | DVD、映画
今年はゴジラの新作と七人の侍を映画館で観ました、、

っていうといつの時代だよ?と思うね。

(奇しくも初代「ゴジラ」と「七人の侍」は同じく1954年に公開されている)

午前十時の映画祭という東宝の企画でデジタルリマスター版「七人の侍」が公開されるのに合わせ、TOHOシネマズ日本橋で特別上映があった。

それだけなら「どうしようかなー」と思うところだけどなんと特別トークショーが、

映画評論家町山智浩氏!

いやいやそれだけじゃない。

&!

時代劇研究家春日太一氏!!

キタコレ!こんなん女房を質に入れても見とかないといけないヤツです(女房いないけど)

町山智浩氏についてはこのあたりの過去記事を、

かっこいいのはいわなかったとこ

「9条どうでしょう」文庫化記念「ライブ!9条どうでしょう」から。

町山智浩の映画Q&A

巨人や壁に挑むやつ



春日太一氏についてはこのあたりの過去記事をどうぞ。

「愛」があれば必ず伝わる


お二方とも僕はとても好きで、お二方がトークショーやると言ったら行ける限り行くしラジオに出るったら極力聴いてます。書籍?もちろん出たら即買いですよ。


最も危険なアメリカ映画 『国民の創成』 から 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 まで


鬼才 五社英雄の生涯 (文春新書)

ありがたいことにその日は祝日、観に行くのになんのハードルも無い。早速チケットを取りました。

イベント当日に驚いたのがさ、お二方とも、我々と一緒に、場内で最前列に座って同じく「七人の侍」を観てるのよ!すごく無いですか??これがもうとっても嬉しかったなぁ。。

だってさ、たぶんお忙しいお二人よ、しかも七人の侍って3時間半くらいあるのよ。当然何度も観ている映画だろうから、観なくても語ろうと思えば語れるだろう、なんならその時間は別の仕事してるとかちょっと休憩しててもおかしく無い。でも、我々観客と同じ空間で、同じ映画を観ている。それだけで感激ですよ。

さて、「七人の侍」。

改めて言うまでも無いけど超名作で、過去に僕は観たことがある。

最初に観たのはVHSで、その次はDVDで。DVDで観た方が面白かった記憶がある。

あのね、もしご自宅で観ようとお考えならぜひDVDで、字幕をオンにして観る事をオススメします。

なんでかと言うとこの映画、今回のトークショーでも話題に出てたけど、とにかく台詞が聞き取りづらい!これは時代的なものかと思ってたけど町山智浩氏によると、公開時も「台詞が聞き取りづらい!」という評ばかりだったらしい。ご自宅で観るならDVDで字幕オンにするのがオススメです。

今回の4Kデジタルリマスター版は台詞が聞き取りやすくなってるのもウリなので映画館で観る場合はあまり気にしなくていいと思うけどね。

ストーリー上ことで、今回観て改めて「上手いな」と思ったのが「種子島三丁!」の件。種子島と言うのは火縄銃、つまり鉄砲ですね。

「七人の侍」は七人の侍が農村を守るために野武士(つまりは盗賊)と戦う話なんだけど、途中で野武士は40人いることが分かる。これはね、作中で「絵」で出てくるから台詞が聞き取りづらくても分かると思う。敵40人のうちいま何人倒してるのか、をきちんと「絵」で見せるんです。でも、実はそれと同じくらい大事なのは「種子島三丁!」と言う台詞なんです。「敵は40、それと種子島三丁!」という台詞が何度か繰り返される。敵40人はたびたび「絵」で表されるから「あ、今残り何人だな」と言うのは分かる。でも、「種子島三丁!」はこの台詞が聞き取れないと分からないんですよ。

この時代(刀の時代)において種子島はどこから殺されるか分からない不気味な武器。その三丁をどう攻略するか、というのが実はこの映画でとても大事なサスペンスなんだけど、それが一番最初の「種子島三丁!」を聞き逃すと分からない。僕、最初にVHSで観た時、ここの点は全然分かってなかったもの。

今回のデジタルリマスター版は台詞が聴きやすくなってるので「種子島三丁!」が聴き取れる。これだけでこの映画のドキドキ感が高まったと思います。

さて、今回の特別上映会。正直、3時間半の映画を観るのは不安だった。色々ありまして寝不足な上にランチにシングルモルトウイスキー2杯を頂いてしまった上の夕方だったから。「寝ちゃうんじゃ無いかなー」と思って。だって3時間半の映画のあとに1時間の映画解説、17時半に始まって終わるの22時ですからね。。

結果、、

全然大丈夫でしたよ!面白いね!「七人の侍」!

やっぱりねー、でっかいスクリーンで観る「七人の侍」は別格ですよ。しかも今回、画像が綺麗になってる。そのあたりは実際に観てもらったほうがいいと思う。ここではあくまで「僕の感想」を書く。

僕が今回観ていて、一番心が動かされたのは「農民たちの集団的残酷性」だった。他のところは今までも観ていて感じてるから「あ、ここが良いんだよなー」とか分かる。久蔵のいいシーンだとか菊千代のいいシーンだとかは「やっぱりイイなぁ」と思う。今回、改めて「あれ?」と思ったこと、いわば「一番ザワッと来たところ」は「農民たちの集団的残酷性」だった。

「七人の侍」は「七人の侍が野武士から農民を守るため戦う。」話だと思われている。もし「七人の侍のストーリーを20文字で書け」とテストに出たら僕ならこう書くだろう。(読点含んで20文字)

そして、この20文字に少し肉付けするなら、

「(個性豊かな)七人の侍が(残虐非道な)野武士から(純朴な)農民(たちを)守るため戦う。」

くらいだろうか。これだってテストの解答としては悪くない。

でもね、僕は今回観てて「(純朴な)農民たち」に疑問を持った。

はっきり言うと、今回観終わった後の僕の率直な感想は「農民たちはかなりエゲツなくないか??」ということだった。

この映画は、野武士に理不尽に米を奪われ、次の麦も奪われそうになって我慢できん!戦うべ!侍雇うべ!、って話から始まる。

農民たちは野武士が来ても抵抗する術は無い。(それは劇中で、竹槍持って整列させられるシーンで如実に分かる。彼らはいわゆる「整列、気をつけ」すら出来ない)だから、戦える「七人の侍」を雇う。七人の侍は「純朴な」農民たちのために命を懸けて戦う、それがこの映画のストーリーだ。

この「純朴な」に、僕は今回、3回目にして初めて、疑問を持った。

本当にこの農民たちは、「純朴なのか?」と。

例えばこんなシーンがある。

村に入って来て馬も失い、完全に降伏している一人の野武士を、村人たちは竹槍で突きまくる。その勢いは七人の侍のリーダー格である勘兵衛ですら止めるほど。「待て!こいつは既に降伏してる!更にこいつを生かして話を聞けば野武士の情報が分かるのだ!」と。でも、野武士に怨みを募らせている農民たちは止まらない。そこで、農民の一人の老婆が無言で現れる。最も長年、野武士に苦しめられ、怨みを募らせた老婆。その手には鋤。さすがの勘兵衛(この映画の実質的主人公)でも老婆のその姿に何も言えない。。

このシーンを観て僕の中で「(純朴な)農民たち」に疑問符がついた。確かに、彼らが無力だ、彼らには戦う術すら無い。ただただ日々、米と麦を育てるだけだ。でもそんな彼らが、生きるためとは言え、過去には落ち武者たちを狩り、今は命乞いする野武士を集団で、竹槍と鋤でなぶり殺しにする。そんな彼らは本当に「純朴」なのか?

農民は「一人」であれば本当に無力だ、その無力さは農民の一人を演じる左卜全の顔で一眼で分かる。

(この映画の左卜全が良いんだ、また。大スクリーンに左卜全の見すぼらしい(褒めてます)顔がアップで映るだけで農民の、いわば「百姓」の寄る辺なさを感じさせる)

繰り返すけど、 農民たちは無力で、ただただミジメだ。

でも、その彼らが集団になった時の残酷性は、百戦錬磨の勘兵衛ですら口出し出来ない。

これは、過去2回、同じ作品を観ても感じなかったことだった。

自分は何故そう感じたんだろう?

デジタルリマスターで画像が綺麗で台詞が聞き取りやすかったからか、映画館で観たからか、それは分からない。

ただ一つ、思ったことがある。

それは、

今の自分が、こういう類の「集団的残酷性」を日々、目の当たりにしてるからかも知れないな、と。

例えば。

とある政治家がいて、それまでは話題になってたのに、一つの不祥事で、世間の人が叩きまくる。

もちろん、不祥事自体は褒められることじゃない、悪いことだ。

でも、それでも。そんなに、みんなで寄ってたかって、相手が死ぬまで(社会的な「死」も含めて)叩くべきことなんだろうか?

と、感じることが最近多々ある。ネット見てるとそれはとみに感じる。

悪いヤツだとは言え、丸腰で命乞いしている野武士を竹槍で突きまくる農民

は、

悪いヤツだとは言え、とある有名人を、ネット上で、例えば「つぶやき」だとか「書き込み」という「竹槍」で叩きまくる我々

に重なる。

だからこそ、七人の侍を今回観て、改めて農民たちの「集団的残酷性」を感じたのかも知れないな、と考えた。

今回のトークショーでは最初に観客からの質問を町山さんと春日さんが受けて、答えていた。

当然、僕も自分が感じたこの点を質問させていただいた。自分が好きな人たちに自由に質問出来るんだもの、こんな機会に僕は遠慮なんてしません、真っ先に手を挙げましたよ。

僕の質問は「改めて観て、農民たちだって結構エゲツないよな、と感じてしまったのですが、これは脚本として意図されたものなのでしょうか?」というもの。

この質問に関するお二方の回答が素晴らしくて素晴らしくて。。

それは、たぶん後々アップされるであろうこのトークショーの動画にてご確認下さいませ。

とにかく観ておくべきだと思いますよ、「七人の侍」という映画は。

今なら、大きなスクリーンで観られます、ぜひどうぞ。→「午前十時の映画祭7

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