浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

桐島、部活やめるってよ

2012-09-02 19:09:00 | DVD、映画
土曜日が1日で映画が1000円の日だったので「桐島、部活やめるってよ」という映画を観てきました。



大変興味深い映画でした。万人に「面白かったよー」と言える映画ではないんだけど、何か感じるところがあった、という人と酒飲みながら話したらめちゃくちゃ楽しいだろうなぁという映画です。

もろ手を挙げて「面白い」という映画ではないし「ラストの解釈は人それぞれだよ」とかっこつけたことを言うつもりもないから「よくわかんない」という人も多い映画だと思う。僕だってわかんない。でも少なくとも僕にとっては非常に愛おしい映画です。高校時代の一番キラキラしたところと一番めんどうくさいところと一番痛いところをぐちゃっと煮込んだ映画です。

話としてはシンプル。タイトル通り、桐島が部活やめる話。高校2年生の桐島はバレー部のエースでキャプテン、成績もいい。更に彼女は学年一の美少女。その彼がある金曜、学校に来ない。そして彼の周りのクラスメイトなどが「部活やめるって」と話している映画です。はっきり言って桐島がどうなのかというのは話の本筋にはまったく関係ない。映画にも桐島は出てこないし、なぜ彼が部活をやめたのかは分からない。描かれるのは、普通の高校生の姿です。人も死なないし、大きな事件も起こらない。

この映画を「ゴドーを待ちながら」という戯曲に重ねる人もいる。(ゴドー≒ゴッド、キリシマ≒キリスト) でもまぁあんまり気にしなくていい。予告編では「日本映画史に残る圧巻のグランドフィナーレ」とか言っているけどそれもあんまり信用しなくていい。

とにかく何も知らずに観に行ったほうがいいと思います。


あとはなんとなく僕の感想を。ネタバレ無しです。

まず言っていいですか。

今の日本の映画で、AKBとジャニーズが出てないだけでプラス1億点つけたい!

もちろんAKBやジャニーズが映画に出ていたっていいんだけど、この映画に出さなかったのは本当に正解だと思う。この映画は普通の高校生が何人も出てきて彼ら彼女らの群像劇になっているんだけど、やっぱりそういうところにAKBとかジャニーズが出ていると「ああ、この人がメインなんだろうな、見せ場があるんだろうな」と思ってしまう。それが無かったのが素晴らしかった。僕がうといのかも知れないけど出ているキャストの9割9分、僕はどういう俳優さんなのか知らなかった。だから、誰に注目することもなく、逆に全員に注目して観られた。一番知名度があるのは神木隆之介という役者さんだろうけど、彼を地味な映画部の役にしたのも大正解ですね。朝礼の時に全校生徒の前に立つシーンで手をどうしたらいいか分からない、目立たない生徒の感じがとてもよかった。

あとはやっぱり役者さんたちが大層素晴らしい。どの生徒も「ああ、いたなぁこういうヤツ」と思える。高2という、子供ではないけど将来も見えないもやもや感が本当に痛くていいですよ。「必ずあなたのような生徒がいる」みたいなことを言われているけど、僕はそうは思わなかった。僕自身は高校の頃、ここに出てくるような部活のスター、帰宅部だけど女の子と充実してるやつ、完全オタク、などのどれでも無かったから。だから逆にどの登場人物の気持ちも少しずつわかる。だから「全部俺だ」とも思える。

完全に悪い人なんていない。でもみんな結局は自分のことを考えている。友達のことを思っていたりもするけど何気なく人を傷つけたりもしている。それが普通だよね。

それから学校の場所も素晴らしい。見ている間、まったくどこの学校なのか分からなかった。埼玉のようにも思えるし、九州のようにも思えるし京都や札幌だと言われても不思議じゃない。都心か大田舎ではないことは確実にわかる。途中「イオンの映画館で」という台詞が出てくるから。「どこにでもある学校のようでどこにもない学校」という感じがすごく良かった。

キャラクターと学校の感じが全部「自分のようでいて、完全には自分ではない。母校のようでいて、完全には母校ではない」という距離感が非常にいいです。

いわゆる「青春映画」はこの映画でもってちょっと変化したような感じがします。見るべき価値は確実にある。

一個だけ、どうしても言っておきたいことがあってそれは完全にネタバレなので別の所に書いておきます。僕が映画見ながら「うわぁああ」と頭をかきむしりたくなったシーンについて。あれはもう地獄絵図ですよ。おそらく多くの人に取って「あのシーンがもう!」という話だと思うので観終った後、読むことをお勧めします。


「桐島、部活やめるってよ」における地獄絵図について


【追記】

このブログをアップした後もずっとこの映画のことを考えていました。そうやって観た後もずっと考えてしまう映画っていい映画だよね。一つだけ言っておきたいなーということがあってそれは音楽。この映画、あるところまでは一切BGMが流れない。それが最後のほうですごく効果的になる。ああ、もうここだけでビール5杯くらい飲みながら喋りたい。

そしてエンドロールで流れる主題歌。これがすごい。


高橋優という人の「陽はまた昇る」

もし僕が高校時代にこれを聞いていたらズキューンと来ていただろう。いや、いま聞いてもいい歌だけど。すごくいい。

この人、札幌出身で狸小路でストリートライブとかしてたんだってさ。もうそれだけで5割増しだよね。

やっぱりこの映画、観られるなら観たほうがいいと思いますよ。

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