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侵略と加害の歴史を隠蔽する産業遺産情報センター

2021-07-25 19:24:23 | 天皇制・右翼

侵略と加害の歴史を隠蔽する産業遺産情報センター

  

 

 長崎県のかつての海底炭鉱だった端島(はしま)=軍艦島が2015年に世界遺産に登録されましたが、その展示内容について、ユネスコ・世界遺産委員会が「強い遺憾」を示したというニュースが各報道機関で一斉に報じられました。
 詳しい説明は、7月24日(土)付の朝日新聞の記事やその他の報道に譲ります。それら記事をお読みください。
 要するに、日本の安倍政権・菅政権は「産業遺産」と称して、かつて第二次世界大戦において朝鮮人・中国人を強制連行し、その一つとして長崎県端島の軍艦島に朝鮮人・中国人を押し込め、過酷な労働を強制し、さまざまな差別と迫害と多くの死を強いたという歴然たる事実を何一つ明らかにせず、ぎゃくに「差別はなかった」という証言を押し出しています。
 ユネスコ・世界遺産委員会から問題にされた「産業遺産情報センター」とは何でしょうか。それは、2020年3月に開所された内閣府の施設であり、第三者機関ではありません。安倍・菅政権が日本の侵略と植民地主義の歴史を隠蔽し、歴然たる加害の事実を否定する意図をもって設置したとんでもない施設です。


 同センターの所長・加藤康子(かとう・こうこ)氏は、朝鮮人強制連行・強制労働について、「強制はなかった」と公言する人物です。いわく。「あの時は、戦争で本当に人が足りなくて、国家総動員法で彼らは日本人として働いたわけですよ。だから、賃金も支払われていた。未払い分に関しても、1965年の請求権協定で解決している。」(週刊新潮、「いきなり『23資産』登録の影の立役者『加藤六月』元農水相長女インタビュー、2015年5月21日号)。
 このことばに端的なように、加藤康子氏は日本帝国主義の朝鮮侵略戦争―韓国強制併合ー独立運動への血の鎮圧―強制連行・強制労働という歴史、すなわち朝鮮という他国を植民地支配した加害の歴史を認めようとしていないのです。
 もともと加藤康子氏は、かつて安倍晋太郎派の四天王といわれた加藤六月の長女で、安倍晋三とは自ら「幼馴染み」と語るほど親密で直結しており、妹と結婚した加藤勝信(現官房長官、旧姓・室崎)の義姉にあたるのです(同週刊新潮)。
 さらに、日本の侵略と加害の歴史を明らかにする歴史学に対抗して「自虐史観反対」を唱える櫻井よしこや西岡力らとお互いに共振し合う思想の持ち主であるのです。
 その加藤氏を安倍晋三が抜擢する形で、「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」といって、「明治日本の産業革命遺産」をユネスコの世界文化遺産に登録する運動が本格化したというのです(同週刊新潮)。加藤氏は「産業遺産国民会議」専務理事となり、安倍内閣の内閣官房参与にもなったのです。
 そのような安倍の意志を含めて、昨年3月に産業遺産国民会議専務理事の加藤康子氏をそのままセンター長とする内閣府・産業遺産情報センターが開所したのです。ですから、歴史の真実を伝える世界遺産とは、まったくコンセプトが真逆なのが、同センターなのです。


 同センターのホームページ「センター長のごあいさつ」には、何が表示されているでしょうか。
 そこでは、日本が開国と明治維新を経て「産業の近代化に取り組んだ」「産業革命を受容する社会システムを築いた」「工業立国の土台を築いた重工業の産業化の道程を顕す」、あるいは「産業の発展を支えた名もなき人々の尊い仕事を次世代に継承する」と謳われています。そうです、まさに産業版「坂の上の雲」を示そうというのです。
 ですから、産業遺産といっても、製鉄・製鋼、造船、石炭産業が展示の中心に置かれているのです。加藤氏は別の所で、もっとわかりやすく語っています。
 いわく。「明治の強さは、国内に技術のある人材を育成し、産業を興し、外に出ていく力を蓄えたことです。……そんな活力ある日本を取り戻してほしいんですよ。……それを伝えるために取り組んでいるのです。」(週刊新潮、「『産業遺産』の中に日本再興の鍵がある―加藤康子 【佐藤優の頂上対決】」2020年12月24日号)。
 よくもいったものです。
 「明治の日本は強かった」「明治は素晴らしかった」「外に出ていく力」「活力ある日本を取り戻す」とは、日清戦争、日露戦争を賛美し、朝鮮・台湾植民地支配を肯定し、その後の中国・フィリピン・アジア侵略15年戦争を賛美するものです。そればかりか、今まさに正規・非正規労働者および外国人労働者、外国人研修生・技能実習生の強搾取、強労働、差別と排斥、労働運動圧殺、そして侵略と植民地主義、アジア現地の労働者の搾取と差別をやっていくということにほかなりません。恐るべき言辞です。


 他にも指摘、批判することはいっぱいありますが、加藤康子氏をセンター長とする内閣府・産業遺産情報センターは、日本政府が「自虐史観」批判論や自由主義史観や日本版歴史修正主義などを国家公認のイデオロギーにするものでなくて何でしょうか。そんな施設とその運営に国家の財政が支出されているのです。明らかな不正支出‼ とんでもないことです。
 したがって、内閣府・産業遺産情報センターは即刻解散‼、解体‼ すべきものです。


 以上、私が記したことには何も新しい点はありません。日本の少なくない識者やジャーナリストはよく知っていることです。韓国や北朝鮮、中国の側でもわかっているはずです。しかし、侵略戦争の肯定、アジアでの大虐殺の否認、ひいてはホロコーストの擁護につながる問題であり、非常な危機感を抱かないわけにはいきません。
 今年の東京オリンピックに露呈した数々の差別や排外の底流とも重なる問題であると思います。怒りにたえません。

 なお、軍艦島については、岡まさはる記念長崎平和資料館が貴重な資料を展示しており、また長崎在日朝鮮人の人権を守る会が証言集『軍艦島に耳を澄ませば』を出版しています。

2021年7月25日


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