晴れ、ときどき映画三昧

「ノーカントリー」(07・米) 80点


 ・ 理不尽な殺人に、現代の矛盾を感じさせる良作。

     
 「すべての美しい馬」のコーマック・マッカシー原作「血と暴力の国」をコーエン兄弟が監督・脚色したノワール作品。コーエン兄弟は「ファーゴ」と違って、理不尽な殺人に現代の矛盾を描き、新境地を開いて80回オスカー作品賞など主要4部門を受賞した。

 荒涼としたテキサスの風景を舞台に、法と秩序を守り正義を信じる老保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)の嘆きのナレーションで物語が始まる。

 偶然大金を見つけたベトナム帰還兵ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は、命懸けで金を守ろうとする。最大の敵は、冷徹な殺人鬼アントン・シガー(ハビエル・バルデム)。この人物設定にはコーエン兄弟らしさが溢れている。特異な風貌で、まるで感情がないまま自分のルールに固執する。それはコインの裏表だけで<酸素ボンベの空気圧縮機>を使って訳もなく簡単に人を殺すこと。恐ろしさが画面いっぱいに繰り広げられ、いつも大切にしている音楽を抑えて静寂な中に恐怖感を増幅させている。助演男優賞受賞のJ・バルデムは「海を飛ぶ夢」とは両極のキャラクターを見事に演じ切ってこの映画をさらってしまった。

 逃げる男モスを演じたJ・フローリンは、「アメリカン・ギャングスター」のように善悪の境目を縫って生きる男をやらせたら今や右に出るものはいないだろう。

 西武開拓以来培われた<アメリカの正義>は時代とともに失われてしまっている。ベトナム戦争直後の<病めるアメリカ>を映しだしながら、現代が「血と暴力」の国であることへの警告を鳴らしている。「奪われたものを取り戻そうとすると、さらに多くを奪われる」というT・L・ジョーンズの台詞が印象に残っている。
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