晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「オクラホマ・キッド」(39・米)70点 

2022-09-24 15:40:39 | 外国映画 1945以前 


 ・ ギャグニーVSボガートの西部劇は盛り沢山。


 ギャング映画でお馴染みのジェームズ・ギャグニーとハンフリー・ボガートが競演する西部劇。本邦劇場未公開作品だが名作「駅馬車」と同じ年に製作され、ふたりの魅力とアクション・ロマンス・歌や踊りなど盛り沢山でチョッピリ社会風刺も効いていて一見の価値あり。監督はチャップリン映画出演など俳優経験も豊富な「四十二番街」(33)のロイド・ベーコン。

 先住民チェロキー族の居住区だったオクラホマの土地を政府が買い上げ白人入植をさせる<ランド・ラン>。補償金の銀貨を奪ったのはマッコード(H・ボガート)一味。その銀貨を奪った男がオクラホマ・キッド(J・ギャグニー)だった。
 9月16日正午一斉スタートの<ランドラン>に向けて集まった人々。前夜オクラホマ・ミキサーの曲に乗ってフォークダンスに興じるなかに法と正義を守る信条のジョンとネッドキンケイド父子やハードウィック父娘がいた。
 
 <ランドラン>から始まり所有土地の争いや権力争いがテンポ良く描かれ街(タルサ)の繁栄とともに善と悪の存在が明らかに。

 ギャグニー扮するキッドは小柄でキビキビして三枚目の風貌のアウトサイド・ヒーロー。乗馬や拳銃も得意で唄やダンスも上手く赤ん坊をあやす愛嬌者。
 対するボギーが演じたマッコードは黒ずくめでダンディ。目的のためには手段を選ばない街を牛耳るボス。
 
 ふたりの競演は「汚れた顔の天使」(38)、「彼奴は顔役だ」(39)などギャング映画だがギャグニーは30年代ギャング映画のスターとして活躍し、ボギーは本作同様いつも敵役。
 同い年のふたりは40年代になるとギャグニーが興行師ジョージ・M・コーハン役の「ヤンキー・ドゥドラル・ダンディ」(42)でオスカーを受賞、ボギーが「マルタの鷹」(41)、「カサブランカ」(42)でそれぞれ主演。
 その後ギャグニーは演技派として80代まで息長く演じ続け、ボギーは「アフリカの女王」(52)でオスカーを獲得し50年代の大スターとして活躍したが57歳で生涯を閉じる。何から何まで好対照のふたりだった。

 迫力ある群衆シーンや崖から急降下する馬など随所に目を奪う映像を織り交ぜながら<強者・開拓者たちは弱者・先住民から奪うが、賢者・キッドは強者から奪う>という展開でエンディングへと向かう・・・。

 「駅馬車」とは趣が180度違うが、キャラクターの違うふたりの競演と<法か正義か>をさり気なく訴える活劇西部劇として大いに楽しめる85分間だった。
 
 

 
 

「激突!」(71・米)70点

2022-09-15 14:04:36 | 外国映画 1960~79


 ・ 「ジョーズ」に繋がるS・スピルバーグの出世作。


 リチャード・マシスンが実体験をもとにした短編を、当時無名だった25歳のスティーヴン・スピルバーグが監督した。74分のTV映画を劇場用に再編集した90分が評判を呼んで彼の出世作となった。原題は「Duel」。

 セールスマンのディヴィッド・マンがタンクローリーを追い抜いたことがキッカケで執拗な追跡を受け死の恐怖を味わうというシンプルなストーリーを得体の知れない怪獣との闘いのように描いた。
 ヒッチコックの巻き込まれ型サスペンスようでもあり、のちの大ヒット作「ジョーズ」(74)のようでもある。

 主演したのは「ガンスモーク」(55~64)、「警部マクロード」(70~77)でお茶の間でお馴染みデニス・ウィバー。
最初から最後まで出ずっぱりの大奮闘!
 相手のタンクローリー運転手は原作と違って下半身と腕以外見せず得体がしれないのが恐怖感を増す。
 途中のカフェで運転手を探るところは尊敬する黒澤明「野良犬」のラストシーンを連想させるつくりだ。
 スピルバーグは怪物タンクローリー<ピータービルト281>対小市民デヴィット・マンの対決を描きたかったようだ。

 筆者はNETの「日曜映画劇場」で穂積隆信の吹替えを観たがこれが本邦初公開でリアルタイム鑑賞である。
 今のように携帯電話やましてドライブレコーダーがない時代、砂漠のようなカリフォルニア地域での走行は恐怖感がまるで違っていたのを実感している。
 その後未見だが、劇場用ではマクロードの宍戸錠、日本テレビでは徳光和夫という違ったキャラクターで放映されている。
 改めて字幕版を観ると極力台詞を最小限にすることで映像に集中させる手法をとっていることに気づいた。

 類似作品は多いが本作を超えたものは見当たらない。ラッセル・クロウ主演の「アオラレ」(21)はどうだろう...。

「3時10分、決断のとき」(07・米)75点

2022-09-13 12:02:51 | (米国) 2000~09 

 ・ J・マンゴールド監督渾身のリメイク西部劇。


 グレン・フォード主演「決断の3時10分」(57)を観た「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(05)のジェームズ・マンゴールド監督がいつかリメイクしたいと願っていた作品で、トム・クルーズ、エリック・バナで企画された。
 ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベイルの共演で実現、大ヒットした西部劇。

 アリゾナ準州の小さな牧場主が200ドルの報酬で悪名高い強盗団の頭目を刑務所のあるユマ行きのコンテンション駅まで護送しようとする物語。

 頭目ベン・ウェイドに扮したのはラッセル・クロウ。「L.A.コンフィデンシャル」(97)で注目され、「インサイダー」(99)、「グラディエーター」(00)、「ビューティフル・マインド」(01)と立て続けに主演しスターとなった彼が無法者を演じるのは単純な勧善懲悪ウェスタンではないことを雰囲気で匂わせる。
 早撃ちウェイドと呼ばれる拳銃の名手でありながら教養もあり絵も上手い。おまけに女性にモテ笑うと人なつっこい。オリジナルより複雑な人物設定で、おさないころ親に捨てられ孤児院で育った環境を背にどこか家族愛に飢えている人物像だ。
 筆者にとってどちらかというと苦手な演技派スターだが、本作ではまずまずの好感を抱かせる存在感。

 対する牧場主ダン・エヴァンスを演じたC・ベイルは、「ダークナイト」三部作(05~12)のバットマン役で象徴されるように本来なら主役のハズが準主演扱いがイメージとしてある。
 北軍の名狙撃手でありながら負傷して片足を不虞。街の発展のために不都合な牧草地を排除するため放火で牛を失ってしまう。妻や14歳の息子ウィリアムのためにも牧場再建を誓う。
 
 出会いから道中、そしてコンテンションの街までふたりの距離感がどのように変化していくのか?
 21世紀に勧善懲悪=西部劇という単純なストーリーは成立しないが、西部劇ならではのヒューマンな趣きを情感豊かに描写して大ヒットへと導いた監督の手腕を評価したい。
 
 ふたり以外では前半登場したピンカートン探偵社に雇われた老賞金稼ぎバイロンのピーター・フォンダの演技が観られたのはうれしい。銃撃を受け獣医に球を執ってもらいすぐ復帰するなど多少の破綻もあるがドラマに厚みを持たせてくれた。
 中盤以降ではベンを狂信的に崇拝する副頭目チャーリーのベン・フォスターが光っていた。二丁拳銃で躊躇なく殺傷し、どこまでもベンを追いかける姿は全てベン命あってのもの。かなり時代と役柄はちがうもののランス・アームストロングの栄光と挫折を描いた「疑惑のチャンピオン」(16)の彼を彷彿とさせる演技だった。

 法や道徳・良心も金や暴力に負けてしまうかもしれない現実を、西部劇という世界で突破したかったマンゴールド。四半世紀たった今、西部劇を映画化するのはかなり高いハードルを超えなければならないことを改めて感じた。 
 

「友だちの家はどこ?」(87・イラン) 80点

2022-09-06 16:38:51 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 日本で最初に紹介されたイラン映画の名作。


 イラン映画で著名な「運動靴と赤い金魚」(97/マジット・マジティ監督)より10年前製作された本作は、アジア映画ファンにはお馴染みのアッパス・キアロスタミ監督の長編4作目。
 「そして人生はつづく」(92)、「オリーブの林をぬけて」(94)を含めコケール・トロジー(ジグザグ道)三部作とよばれる。

 カスピ海近辺の村コケールに住む8歳の少年アハマッド。友だち(モハマッド・レダ・ネマツァデ)のノートを間違えて持ち帰ってしまった。宿題を紙に書いてきて先生に叱られ、今度やったら退学だと言われ泣きじゃくっていたモハマッド。
 隣の村ポテシュから通っているが家を知らないアハマッドはノートを返すため村を必死に探し歩く...。

 79年革命後、おもに宗教上の理由で検閲が厳しくなったイラン映画。子供を主演に起用してドキュメンタリー風フィクションによるメッセージを巧みに織り込んだ作品も多く、その先駆け的な存在でもある。

 当時のイランはこんな文化・風習だったのか?と考えさせられるシーンが多く、現在もその伝統は引き継がれているのかもしれない。グローバル・スタンダードの視点からはかなり逸脱している。
 先生の叱責はかなり一方的だし、母親は家事に忙しく子供には杓子定規な対応、四日に一度は殴って言うことを聴かせると自慢げにいう祖父の理不尽なしつけなどパワハラのオンパレードだ。
 アハマッドはそんななかでも直向きに友だちの家を探すために奔走する。日本のTV人気番組「はじめてのおつかい」にも似たそのいたいけな様子は観客の共感を得るにはもってこいの状況である。

 北東部マスレ村でのオールロケで出演したのは全員村の人たちで、アハマッドとモハマッドは実の兄弟が演じている。
 子供が主役の作品も手掛けている小津安二郎の大ファンを自認するキアロスタミ監督。元グラフィックデザイナーの出身でローアングルからの構図はとても美しく、アハマッドが往復するジグザグ道は撮影用に踏み固めて作ったという。

 自然の風景と風の音や犬の鳴き声などリアルなBGMをもとに村の暮らしぶりをリアルに描写した本作。
 賢いアハマッドの取った行動でこゝろが癒やされるラストシーンが秀逸だ。
 小津が描いた日本の家族とどこか共通するところがあるような気がする。

 

「無法の王者 ジェシイ・ジェイムズ」(57・米)70点

2022-09-01 12:02:37 | 外国映画 1946~59


 ・ 伝説のアウトローを家族の視点から描いたN・レイ監督。


 ビリー・ザ・キッドと並ぶ西部劇のアンチ・ヒーロー、ジェシイ・ジェイムズの生涯を、彼の母親や兄フランクの回想を交え鮮烈に描いたニコラス・レイ監督作品。主演はロバート・ワグナー、共演ジェフリー・ハンター、アグネス・ムーアヘッド、ホープ・ラング。「地獄のへの道」(39)のリメイクで、原題は「True Story of Jesse」

 N・レイは主演にエルヴィス・プレスリーを起用し、現地ロケを考えていたが製作会社からOKが出ず、編集にも手を入れられ彼らしさが発揮できず消化不良気味だったという。
 それでも南北戦争のゲリラから、何故兄フランクとともに犯罪者となって庶民の英雄といわれ数々の凶悪犯罪へ手を染め、ついには仲間の裏切りで殺された波乱だったアウトローを鮮明に描いている。

 1876年ミネソタ・ノースフィールドでジェイムズ兄弟は仲間と銀行強盗を計画・実行するが失敗、馬ごと崖から川へ飛び込むなど必死の逃亡の末仲間3人だけになってしまう。
 64年、南北戦争でジェイムズが負傷、親戚で治療中に一家の娘ズイーと恋仲に。神父の洗礼を受けまっとうな生活を目指すが、北部支持者からの嫌がらせで農場を焼かれ、従兄弟のヤンガー兄弟と強盗団を結成し銀行などを襲う。
 最初は南部の庶民から英雄視されたジェシイもダンダン大胆になり凶悪化してくる...。
 
 気丈な母・サミュエルの回想でジェイムズが家族思いの優しい息子であることが語られる。
 
 銀行強盗に入っても人は殺さず、巻き込まれた少女が怪我をしたのを知りその治療費を出した。列車強盗の際、金持ちから金を奪っても貧しい人からは取らなかった。逃亡中農場の未亡人の借金を肩代わりしたなど、庶民を喜ばせるような新聞記事が逸話として残っている。
 本作では農場未亡人の経緯が描かれているが、コール・ヤンガーが食事代を出しジェイムズの英雄気取りを刺激したため600ドルの借金を肩代わり、その貸主を殺し奪い返すという描写がある。原題の史実に忠実な物語とはこういうことか?

 強盗団のヒーローはジェイムズだが兄・フランクが絶えず背後から擁護していた。ノースフィールドでの失敗で兄弟は袂を分かち賞金二万五千ドルのためフォード兄弟の裏切りに遭いあっけない最後となる。
 庭でジェシイ・ジェイムズごっこをしていた息子たちや事件後家から小物を盗む住民などレイ監督らしさが随所に窺える。

 アクション西部劇としてのちのお手本となる乗馬のまま崖から川に飛び込んだり窓ガラスを破って逃走するシーンや強盗団のお揃いのコート姿はスタイリッシュでダイナミック。

 美男俳優R・ワグナー、J・ハンターのジェイムズ兄弟役はオリジナルのタイロン・パワー、ヘンリー・フォンダと比べても決して見劣りしない。ただ回想を交えた構成のため壮大さが削がれ、ズイー役のホープ・ラングの一途な姿や母サミュエル役の気丈さが印象深く家庭劇の趣きが色濃い印象は否めない。

 「理由なき反抗」で無名のジェームズ・ディーンをスターにしたレイ監督がエルヴィス・プレスリーを起用したらどんな作品になっていただろう。その後のエルヴィスの歩みを想像すると興味が尽きない。