晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「追跡」(47・米)65点

2022-10-17 17:34:04 | 外国映画 1946~59


 ・ T・ライト、R・ミッチャム共演による西部劇サスペンス。


 「ミニヴァー夫人」(42)、「打撃王」(42)、「我等の生涯の最良の日」(46)で清純派女優として人気が高かったテレサ・ライトと当時新鋭俳優だったロバート・ミッチャムとの共演で、異色のサスペンス風愛憎西部劇。
 監督はジョン・ウェインデビュー作「ビッグ・トレイル」(30)や「南部の反逆者」(57)のラオール・ウォルシュ。撮影は名手ジェームズ・ウォン・ホー、音楽はマックス・スタイナー。

 20世紀初頭のニューメキシコ。馬を走らせ廃屋にやってきたソーリー(T・ライト)と、そこに隠れていたジェブ(R・ミッチャム)が現れ再会するシーンから始まるこのドラマは、ジェブの少年時代に孤児となったトラウマの回想に繋がっていく。
 ジェブはキャラム家の未亡人メドラ(ジュデス・アンダーソン)に育てられ成長するが、息子のアダムとはソリが合わず、娘のソーリーとは愛を育んでいく・・・。
 
 ソーリーとの恋の変遷、アダムとの確執、街の顔役・グラントに執拗につきまとわれるジェブ。彼は幼い頃廃屋でメドラに抱かれ看た銀の拍車と黒いブーツの記憶が鮮烈に残って過去との決別ができず孤独感に苛まれる。

 その絵解きが終盤まで謎のままエンディングまで牽引して勧善懲悪の西部劇とはひと味違うストーリー。

 R・ミッチャムはアクションシーンは少ないもののボクサー出身の精悍さと堂々とした体躯で孤独な男を演じている。劇中「ロンドンデリーの歌」まで披露するが、恋に悩む優男ではなく如何にも西部の男がお似合いだ。
 出世作でもある同年の「過去を逃れて」とともに主演を果たし、途中マリファナ容疑の冤罪などを乗り越え役柄も幅広い個性的なスターへの道を歩んで行く。

 タイトルでは最初に名前が出るT・ライトは人気絶頂期を過ぎようとしていて、本作以降代表作には恵まれなかったが晩年まで画面に登場していた。「レインメーカー」(97)が遺作となった。

 未亡人メドラに扮したJ・アンダーソンは「レベッカ」(40)でダンヴァース夫人を演じ強烈な印象を残した舞台女優の名脇役。本作でもエンディングまで目を離してはいけない。

 異色西部劇をさせたのは支えたのはJ・ウォン・ホーの映像。馬上の男の近影から遙か遠景の男やそそり立つ岩山のアングルは西部の雄大さを一望に映し出し、ランプの灯りがほのかに見える夜間の情景などなど。
 100本以上のR・ウォッシュ作品のなかでも異色作で彼のベスト5に入る作品といえる。
 
 
 

「大人は判ってくれない」(59・仏)85点

2022-10-07 12:20:34 | 外国映画 1946~59


 ・ F・トリフォーの自伝をもとにした普遍性ある長編デビュー作。

 今年亡くなったジャン=ルック・ゴダールと並ぶヌーベルバーグを代表するフランソワ・トリュフォーの長編デビュー作。自身の少年時代をもとに、パリの下町に暮らす12歳の少年が両親の愛を渇望するが果たせず非行に走ってしまう物語。カンヌ監督賞受賞作品。
 
 エッフェル塔が見え隠れするタイトルバックから始まるアンリ・ドカエの映像が映画の醍醐味を味わう期待でワクワクさせてくれる。
 12歳の少年・アントワーヌを演じたのはジャン=ピエール・レオ。オーディションで選ばれた14歳だったがその表情からまだ未熟な少年が望んでいる両親からの愛情を得られなかったこゝろの揺れを見事に演じきっている。
 本作をキッカケに<アントワーヌ・ドワネルの冒険>シリーズ5作品が生まれ二人のコンビは20年間続いていく。
 
 アントワーヌは未婚の母から生まれ義父との3人のアパート暮らし。決して裕福ではなく共稼ぎの両親は喧嘩が絶えない。アントワーヌはドア越しでその声を聴きながらベッドに入る日々。学校ではルネという親友がいて元気だがイタズラが講じて教師からマークされている。
 親友と学校をサボって遊園地で遊び不登校の理由に母が死んだというウソをつき、両親から叱られるなど、現実逃避への道へまっしぐら。
 唯一の楽しみは映画を観ること。3人で映画館で「パリはわれらのもの」を観たときの嬉しそうな顔が印象的。

 小さなウソから家出・窃盗とどんどんエスカレートしてしまい、とうとう少年鑑別所へ入るハメに。未熟なための言動を導いてくれるはずの両親や大人たちから見放され、護送車で涙するアントワーヌがとっても哀れ。

 筆者は高校時代ヌーベルバーグに触れ、イタリア・ネオレアリズモ主流の欧州映画がフランスに席巻される流れを実感した。本作は単なる流行ではなく<無理解な大人社会で子供が途方に暮れるテーマの映画>で普遍性があり、半世紀以上たっても共感を得られ、今観ても時代を超えてうなずきながら鑑賞できる。

 華やかな大都会パリに暮らすどちらかというと恵まれない人々の生活が切り取られた街の情景がモノクロ画面から溢れ出てくる。ドカエの映像がみずみずしく、ジャン・コンスタンチンのおしゃれな音楽がその魅力を倍加させてくれる。
 
 映像にはヒッチを尊敬するトリュフォーらしく遊園地の観客としてフィリップ・ド・ブロカとともに出演し、子犬を追いかける女にジャンヌ・モロー、追いかける男にジャン=クロード・ブリアリ、警官にジャック・ドゥミ監督がカメオ出演。

 トリュフォーが鑑別所から出所後面倒を看てくれた父親的存在の映画評論家アンドレ・パサンに捧ぐ本作。FINEのクレジットとともにストップモーションの表情がトリューフォーの少年時代と重なって見えた。