錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

中村錦之助伝~アイドルスター誕生(4)

2013-02-25 14:17:33 | 【錦之助伝】~スター誕生
 昭和29年5月、中村時蔵一座が京都南座の公演で京都へ来ることになった。
 母ひな、弟賀津雄も同行するという。錦之助は久しぶりに両親と弟に会えるのかと思うと、嬉しくてたまらなかった。しかも京都で会えるというのは格別だった。
『笛吹童子』がアップして、『里見八犬伝』の撮影に入る前だった。わずか数日の休暇だったが、錦之助は、南座の楽屋へ行ったり、父と弟の舞台を見たり、夜はみんなで夕食をともにして、楽しく過ごした。親子水入らず、話題にも花が咲いた。錦之助の出演した映画の話も出た。時蔵もひなも賀津雄も映画が封切られるとすぐ見に行っているそうで、『笛吹童子 第一部』の時は、大入り満員で家族全員、大喜びしたという。
「おとうさんたら、あなたが出て来ると拍手するのよ。舞台じゃないのにね」と、ひなが言うと、時蔵は、
「いいじゃないですか。ほかのお客さんだって拍手している人がいるんですよ。父親のわたしが拍手しないってわけにはいきません」と、嬉しそうに言った。
 ひなの話では、時蔵はお客さんの反応が気になって、その様子ばかり見ていたらしい。
「でも、錦兄ちゃんがこんなに人気者になるとは思ってもみなかったよ」と賀津雄が言うと、
「おれも捨てたもんじゃないだろ!」と錦之助は胸を張った。
「でも、錦一、これからはもうちょっと実のある狂言をやらなければいけません。わたしから先生がたに頼んでおきました」
 狂言と言うところが、いかにも時蔵らしかった。

 実は、時蔵はすでに贔屓にしてくれる作家たちに挨拶かたがた、「息子の映画に向いている作品がありましたら、ぜひお願いします」と頭を下げて回っていたのだった。子母澤寛、長谷川伸、土師清二、北条秀司、村上元三といった時代小説や時代劇のそうそうたる作家たちであった。
 錦之助がこれからも時代劇映画に出演するとなれば、こうした作家たちの支援がどうしても必要になる、と時蔵は考え、動いたのだった。そして、この時蔵の挨拶回りは、錦之助のその後の出演作を決める上で大変意義あるものになった。
 まず、これはどうかと自分の作品を提供してくれたのが、子母澤寛だった。それは子母澤が昭和の初めに書いた「投げ節弥之」という時代小説で、戦前の無声映画時代に林長二郎(長谷川一夫)が主演で松竹が映画化している作品だった。この小説の映画化の話は新芸術プロの福島通人が賛同し、プロデューサーとなって、『唄しぐれ おしどり若衆』を書いた西條照太郎に脚本を依頼してくれた。





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