旋律はいつもドリン系

高校時代のマンドリンクラブの話です。
若干、ほんとのことをベースのフィクションです。

(05)八守先輩の冷たい目つきを初めて見た。のじゃ。

2008年09月11日 01時02分55秒 | 3章-ワシと江本の八福(ハチフク)代理戦争
目次
〈1章-はじまりは、こんなもん〉の最初から
〈2章-D線の切れる音〉の最初から
〈3 章-ワシと江本の八福(ハチフク)代理戦争〉の最初から
〈4章-スターウォーズと夏の日の恋〉の最初から

チューニングの『音出し』をワシと代ってくれた棗田先輩は、
慣れた手付きでギターを構えた。

チューニングが再開される。

棗田先輩は何の前触れもなく、1弦(ミ)の音を鳴らした。

『ポーン…』

福田先輩も何の疑問も不満もなく音を返す。『ポーン…』

『ポーン…』『ポーン…』『ポーン…』互いの音が響き合う。
ワシには、何故無言のままでタイミングよく、
お互いが音を出し合えるのか、わからない。

福田先輩は少し首を傾けて、耳の方を音の方に近付ける様に聴いている。
音が鳴る度に、クイクイと糸巻きを回して音を合わしていく。

だいたい2、3回ずつ音のやり取りをして「良し」という感じで次の弦に進む。
次の弦に進む時、最初は「2弦に行きます。」とか言っていたが、
すぐに言葉ではなく目で合図するようになっていった。

早い。それでも最初のギターは少し手間取るようだったが、
2本目の楽器からは、瞬く間にチューニングが進んでいく。

チューニングが済んだギターを受け取り、次のギターを渡す。
その繰り返し。十数本あったギターが、残り数本になった。

「なんだ、チューニングは福田がやってたのか。」

ギタートップの八守先輩がふいに現れた。

「あっ、八守先輩。」

福田先輩と棗田先輩が八守先輩を見た。

「私が自信ないものだから、福田くんに頼んだの。」

「そうか、すまなかったな福田。俺とチューニングを代ろう。」

八守先輩が『ゴメンゴメン』と冗談ぽく言って、
福田先輩の持っているギターを受け取ろうとした。

それに対する福田先輩の答えは、こうだ。

「今日は、俺が最後までやります。
先輩は今まで遊んでたんだから、最後まで遊んでていいですよ。」

ここでワシは、福田先輩の事を弁護する。
先輩に悪気はない。まったく無い!
心に思ったことを素直に口に出しただけなのだ。(なお、悪い?)

この言葉には皮肉すら含まれない。
むしろ、八守先輩に対して親切心で言ったつもりなのだ。

「最後まで遊んでていいですよ。」親切な言葉でしょ。

世の中に『口調』と言う言葉がある。
八守先輩のように冗談ぽく言えば、きつい印象を受けないかもしれない。

ワシは福田先輩の冗談ぽい『口調』を聴いたことがない。

八守先輩がどう受け取ったかは顔を見ればわかる。

棗田先輩も口を少し開けて、福田先輩の顔を見ている。
あまりの事に言葉が出ないようだ。

八守先輩の差し出した手は宙をさまよっている。
口の右端が吊り上がって、目を押し上げている。
もしかしたら、右目が吊り上がったので口が引張られているのかも。

いずれにしても、見事なプルプル顔だ。

福田先輩は、そんな事は気づかない。またチューニングを始めてしまった。

「棗田先輩。あと、2、3本ですから急ぎましょう。」

「あっ、はい…はい。」
逆に、このおっとりした棗田先輩が珍しく、あわてている。

最後の1本が終わった。
ワシが最後のギターを受け取ろうとした時、八守先輩に横から取り上げられた。

そして、八守先輩は自分が持っていたギターを福田先輩に渡す。

「福田。俺のギターも頼むよ。」

八守先輩の冷たい目つきを初めて見た。

↓はげみになりますので、もしよければお願いします。
人気ブログランキングへ

↓お手数でなければこっちも、お願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ


コメントを投稿