ワシは、あぶなげなく、しかも余裕綽々で高校2年になったのじゃ。今度は2年4組。藤本とは、また一緒のクラスになった。新市商業はよほどの事がない限り、誰でも2年生になれるようじゃ。 . . . 本文を読む
川田部長もそうだが、特に福田新ギタートップが怒った。「なめとんのか。藤本を連れてこい。」と、ワシに言う。皆は、羊の皮をかぶっとる姿しか見た事がない。ワシやネンは、藤本の皮の下のほんとの顔を知っている。 . . . 本文を読む
『スティング』のジ・エンターテナーじゃ。曲自体も、ゴキゲンな曲なのじゃが、編曲がギターにとって大変好ましい作りじゃった。ギター大活躍の曲なのじゃ。曲の始めから3分の1がギター合奏になっている。ギターは3パートに別れている。 . . . 本文を読む
1年生は【一部】と【三部】にしか出ないが、それでもアンコールを含めると、12曲も練習しなくてはならない。大阪から帰っても、ワシはずっと朝練を続けていた。なんとか定期演奏会までには弾けるようになりたい。 . . . 本文を読む
帰りは新幹線だ。荷物運びは新幹線に乗ってしまえば、もうお役ご免だった。ネンが左手を痛めたワシを、気づかってくれたのだ。関西方面のOBは、新大阪駅まで見送りに来てくれた。兄貴との別れは「じゃあの。」「じゃ。」で終わりだった。新幹線に乗り込む頃には、沈んでいた雰囲気も、だんだん明るくなっていく。 . . . 本文を読む
優秀賞の重みを理解したのは正に、この時かもしれない。個人的には、自分の演奏には満足していた。アクシデントはあったものの、演奏中の一体感。集中力など、練習中には味わえなかった経験ができた。先輩達も、自分が経験したような感覚を合奏中に経験しているのだろうか。 . . . 本文を読む
兄貴が審査員のH先生の後ろに、張り付くにように立った。体を伸ばして、ぐっとH先生に近づく。やめてくれ、兄貴。そんな事をしても、誰も喜ばんぞ!ワシは冷や汗をかきながら、凝視し続けた。 . . . 本文を読む
H先生が講評をするため、マイクを持って話し始めた。その後ろに兄貴が、やはりOBの久坂先輩と一緒にいた。ワシは背筋が凍ると同時に、兄貴の言葉を思いだした。『今年はリベンジする。』 . . . 本文を読む
藤本の力強い親指の弾弦(だんげん)に、切れかけていたD線が限界を超えた。弦は切れただけでは、音はしない。切れた瞬間、弦が鞭(むち)のようにボディのどこかを叩くのだ。切れた瞬間を見たような気がした。敏(ビン)と弦が切れた瞬間、空気の波を感じた。 . . . 本文を読む
ワシには、ほとんど指揮は関係がない。なぜなら、ワシら1年は最初から指揮なんて見ていない。見てないというより、見る余裕がないのじゃ。先ず、楽譜を見る。実は、これもあまり見る必要がない。初心者は曲を覚えていないと、弾くことなどできない。 . . . 本文を読む
直前の学校の演奏が始まる。舞台のそでで、待つ。音はたてられない。演奏をのぞくと、一緒に満員の客席も見える。少し前まで、自分もそこにいた。不思議と緊張がなくなっていた。1年生の自分には、まだ責任感もない。演奏に集中しようと、それだけ考えた。 . . . 本文を読む
会場の横を通って舞台の裏に行く。待合室など用意されていない。通路で、順番を待つ。その間にチューニングも行う。前の方にも順番待ちの学校がずっと並んでいる。だんだん、舞台の裏に近づいてくる。後、何校かで出番だ。 . . . 本文を読む