さて、第878回は、
タイトル:痴情小説
著者:岩井志麻子
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:H18)
であります。
いつもの小ネタはなしで、いきなり本の中身です。
と言うか、短編集で13編もあるので、長くなるの確定~だからなのさ~(笑)
てなわけで、各話ごとに。
「翠の月」
短いながらもアイドルをしていた美樹は、年を経たいまは当時のファンだった幾人かの持ってくる仕事で生活をしていた。
そのうちのひとり、黒岩とともに入ったホテルで美樹は首つり自殺をした父の話を始める。
「灰の砂」
小さな飲み屋をしている小林みき子は、客として知り合った、警察の相談課の職員をしている梅沢直彦と関係を持つようになる。
ただ逢瀬を楽しむだけだった日々は、みき子が次第に直彦の生活を圧迫し始めたときから変わっていった。
「朱の国」
愛人から正妻へ、ではなく、その逆を辿った麻子は、イラストレーターとして生活していた。
すでに30を超えた麻子は、前夫と他愛ない連絡を取り合うくらいの関係を保つ中、ベトナムに恋人を作っていた。
朱色に染まる短いベトナム旅行で、若い恋人とともに過ごす時間の中、夫の新しい妻となった女の語った幻影を見る。
「青の火」
ひとみは、洋と静夫というふたりの男と付き合っていた。
どちらと結婚するのか。死人の魂で、何かを望むときに現れると言う『ホボラ火』……頑固な父のホボラ火を見たくないと言う母の言葉で結婚し、強くはないが平凡な幸せを静夫と結婚することで得た麻子に、ある時、誰かからの電話が入る。
「白の影」
自称小説家だが実はただのヒモである板野と同棲している奈美栄は、暴力を振るう板野の命令で風俗店で働いていた。
だが、最近板野は新しく引っ越したアパートの隣室の女が恐ろしいと言うようになり、決まって隣室の女の話題になると暴力を振るってきた。
それにたまりかね、一度アパートを飛び出して戻ってきた奈美栄は、そこにはベランダで首を括っている板野の姿があった。
「黒の闇」
ごくふつうのOLの比佐子は、同僚の典子とともにデートクラブにも出入りしていた。
有名商社の女性社員が夜な夜な街角で客を引き、殺害された。そんな事件がある中でも比佐子は、中絶や性病を繰り返したために辞めた典子と違い、デートクラブに通っていた。
客から言われる自らの陰部の黒さと、殺害された女性社員の心の闇を思いながら。
「藍の夜」
子供が出来ず、愛人に子供が出来たために離婚を経験した弘美は、40になろうかと言う年に、離婚歴があり、娘がひとりいる大竹と再婚した。
それなりの年月を経て、夫婦らしく、そして母親らしくなり始めた矢先、継子の玲奈が高校生のときに、知り合った二十歳の男のところへ家出してしまう。
「茶の水」
1年も保たず離婚したため、岡山の実家に戻りづらくなった愛子は正月をベトナムで過ごすことにした。
一年中夏のようなベトナムで気儘に過ごし、財布が心許なくなると旅行者のアメリカ人に身体を売って暮らすような生活をしていた。
そんなベトナムでの生活は、夢で見た男を街角で知ったときに終わりへの時を刻み始めた。
「碧の玉」
東京の小さなプロダクションに就職し、派遣されて東京ローカル番組のレポーターをしているサチは、ベトナム旅行の際に、ひったくりなどのための忠告を聞き入れ、そう高くはない碧のネックレスをしていた。
碧のネックレス……はっきりとおもちゃとは言えず、さりとて高級とも言えないそれに執着と、夢のような村祭りの出来事やベトナムでの生活を見るサチは、祭りの中で罪をさらけ出すために行われる儀式を思う。
「赤の狐」
歌舞伎町に店を出している美子は、その日、まだ常連客のひとりである明男しかいない店で、その明男の相手をしていた。
自分に好意を持っているとわかる明男がしばらく顔を出さなかった後、ストーカーまがいの行動に出るようになっていた。
たまりかねて話をしようと言った美子は、店で常連客のうちのふたりとともに明男との話し合いの席を持ったのだが。
「緋の家」
旧暦で行う桃の節句。幼いころ、三枝子は座敷に飾られた雛壇の緋毛氈に、白い足だけが見える幽霊を見たことがあった。
高校生のとき、身体を売ったことが露見し退学。田舎にいられなくなり、出てきた岡山市内で働いていた三枝子は、いつしか、同僚で役者になりたいと言う多香代の語るひとり芝居、そして久しぶりに連絡をしてきた出来のいい妹から、自らが見た足だけの幽霊を実感する。
「桃の肌」
住宅設備機器販売の会社を興し、それなりに儲けている豊崎賢二は、様々なところでちやほやされ、己が栄華を誇っていた。
それはある店で知ったホステスの朴英愛に出会って変わってしまう。
だが、年甲斐もなく若い英愛と愛人関係を続ける賢二だったが、ビザが切れてしまう英愛のために図った便宜のために、その立場を危うくさせる。
「銀の街」
母が倒れたため、実家に戻ってきた美佐子は、兄の祐一とともに今後のことを話していた。
ともに離婚を経験したふたりだったが、兄は二度目はないと言われた母に『ええお参り』をさせたいといい、美佐子はもう一度結婚して母を安心させたいと願っていた。
だが、美佐子の恋人は、幼いころ、祭りで見た少年にそっくりな韓国人で、それを母には言えなかった。
……これでもかな~り短くストーリー紹介したつもりなのに……長ぇ……(笑)
さておき、それなりに気に入ったのがあったりすれば、いくつかそれを紹介すればいいんだけど……。
個人的にはおもしろい作品を書く作家の範囲にいるはずの著者だが、今回は13編、すべてに対して、これっぽっちもおもしろくなかった。
長編には、濃密な雰囲気や毒々しさ、エロティシズム、そして怖さが強く感じられるのだが、短編になるとどれもこれもそうしたところが薄い。
中には、「緋の家」のように怖さの感じられるものもないわけではないが、それも他と較べて少しはあるくらい、って程度。
こういう話を書く作家、って決めつけるのはよくないんだろうけど、でもやはり期待してしまうところもあるから、そうしたところがまったく感じられないってのはいまいち……。
また、それでもほとんどの作品は、著者らしさがわかる作品ばかりなのだが、「赤の狐」「桃の肌」なんかは在り来たりなネタと展開。
確かに、「痴情小説」にふさわしく、痴情を描いた話ではあるけれど、個性的な小品の中にあって没個性の作品で、余計にげんなりしてくる。
各話のタイトルと内容に色をテーマにしているところも、それなりにうまく働いているところと、まったく意味を見出せないところとがあるのもいまいち。
なんか久しぶりに手にして、けっこう期待してたんだけど、ものの見事に期待はずれ。
個人的には好きな作家さんなんだけど、さすがにこれは落第。
今度はやっぱり長編にしようっと。
タイトル:痴情小説
著者:岩井志麻子
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:H18)
であります。
いつもの小ネタはなしで、いきなり本の中身です。
と言うか、短編集で13編もあるので、長くなるの確定~だからなのさ~(笑)
てなわけで、各話ごとに。
「翠の月」
短いながらもアイドルをしていた美樹は、年を経たいまは当時のファンだった幾人かの持ってくる仕事で生活をしていた。
そのうちのひとり、黒岩とともに入ったホテルで美樹は首つり自殺をした父の話を始める。
「灰の砂」
小さな飲み屋をしている小林みき子は、客として知り合った、警察の相談課の職員をしている梅沢直彦と関係を持つようになる。
ただ逢瀬を楽しむだけだった日々は、みき子が次第に直彦の生活を圧迫し始めたときから変わっていった。
「朱の国」
愛人から正妻へ、ではなく、その逆を辿った麻子は、イラストレーターとして生活していた。
すでに30を超えた麻子は、前夫と他愛ない連絡を取り合うくらいの関係を保つ中、ベトナムに恋人を作っていた。
朱色に染まる短いベトナム旅行で、若い恋人とともに過ごす時間の中、夫の新しい妻となった女の語った幻影を見る。
「青の火」
ひとみは、洋と静夫というふたりの男と付き合っていた。
どちらと結婚するのか。死人の魂で、何かを望むときに現れると言う『ホボラ火』……頑固な父のホボラ火を見たくないと言う母の言葉で結婚し、強くはないが平凡な幸せを静夫と結婚することで得た麻子に、ある時、誰かからの電話が入る。
「白の影」
自称小説家だが実はただのヒモである板野と同棲している奈美栄は、暴力を振るう板野の命令で風俗店で働いていた。
だが、最近板野は新しく引っ越したアパートの隣室の女が恐ろしいと言うようになり、決まって隣室の女の話題になると暴力を振るってきた。
それにたまりかね、一度アパートを飛び出して戻ってきた奈美栄は、そこにはベランダで首を括っている板野の姿があった。
「黒の闇」
ごくふつうのOLの比佐子は、同僚の典子とともにデートクラブにも出入りしていた。
有名商社の女性社員が夜な夜な街角で客を引き、殺害された。そんな事件がある中でも比佐子は、中絶や性病を繰り返したために辞めた典子と違い、デートクラブに通っていた。
客から言われる自らの陰部の黒さと、殺害された女性社員の心の闇を思いながら。
「藍の夜」
子供が出来ず、愛人に子供が出来たために離婚を経験した弘美は、40になろうかと言う年に、離婚歴があり、娘がひとりいる大竹と再婚した。
それなりの年月を経て、夫婦らしく、そして母親らしくなり始めた矢先、継子の玲奈が高校生のときに、知り合った二十歳の男のところへ家出してしまう。
「茶の水」
1年も保たず離婚したため、岡山の実家に戻りづらくなった愛子は正月をベトナムで過ごすことにした。
一年中夏のようなベトナムで気儘に過ごし、財布が心許なくなると旅行者のアメリカ人に身体を売って暮らすような生活をしていた。
そんなベトナムでの生活は、夢で見た男を街角で知ったときに終わりへの時を刻み始めた。
「碧の玉」
東京の小さなプロダクションに就職し、派遣されて東京ローカル番組のレポーターをしているサチは、ベトナム旅行の際に、ひったくりなどのための忠告を聞き入れ、そう高くはない碧のネックレスをしていた。
碧のネックレス……はっきりとおもちゃとは言えず、さりとて高級とも言えないそれに執着と、夢のような村祭りの出来事やベトナムでの生活を見るサチは、祭りの中で罪をさらけ出すために行われる儀式を思う。
「赤の狐」
歌舞伎町に店を出している美子は、その日、まだ常連客のひとりである明男しかいない店で、その明男の相手をしていた。
自分に好意を持っているとわかる明男がしばらく顔を出さなかった後、ストーカーまがいの行動に出るようになっていた。
たまりかねて話をしようと言った美子は、店で常連客のうちのふたりとともに明男との話し合いの席を持ったのだが。
「緋の家」
旧暦で行う桃の節句。幼いころ、三枝子は座敷に飾られた雛壇の緋毛氈に、白い足だけが見える幽霊を見たことがあった。
高校生のとき、身体を売ったことが露見し退学。田舎にいられなくなり、出てきた岡山市内で働いていた三枝子は、いつしか、同僚で役者になりたいと言う多香代の語るひとり芝居、そして久しぶりに連絡をしてきた出来のいい妹から、自らが見た足だけの幽霊を実感する。
「桃の肌」
住宅設備機器販売の会社を興し、それなりに儲けている豊崎賢二は、様々なところでちやほやされ、己が栄華を誇っていた。
それはある店で知ったホステスの朴英愛に出会って変わってしまう。
だが、年甲斐もなく若い英愛と愛人関係を続ける賢二だったが、ビザが切れてしまう英愛のために図った便宜のために、その立場を危うくさせる。
「銀の街」
母が倒れたため、実家に戻ってきた美佐子は、兄の祐一とともに今後のことを話していた。
ともに離婚を経験したふたりだったが、兄は二度目はないと言われた母に『ええお参り』をさせたいといい、美佐子はもう一度結婚して母を安心させたいと願っていた。
だが、美佐子の恋人は、幼いころ、祭りで見た少年にそっくりな韓国人で、それを母には言えなかった。
……これでもかな~り短くストーリー紹介したつもりなのに……長ぇ……(笑)
さておき、それなりに気に入ったのがあったりすれば、いくつかそれを紹介すればいいんだけど……。
個人的にはおもしろい作品を書く作家の範囲にいるはずの著者だが、今回は13編、すべてに対して、これっぽっちもおもしろくなかった。
長編には、濃密な雰囲気や毒々しさ、エロティシズム、そして怖さが強く感じられるのだが、短編になるとどれもこれもそうしたところが薄い。
中には、「緋の家」のように怖さの感じられるものもないわけではないが、それも他と較べて少しはあるくらい、って程度。
こういう話を書く作家、って決めつけるのはよくないんだろうけど、でもやはり期待してしまうところもあるから、そうしたところがまったく感じられないってのはいまいち……。
また、それでもほとんどの作品は、著者らしさがわかる作品ばかりなのだが、「赤の狐」「桃の肌」なんかは在り来たりなネタと展開。
確かに、「痴情小説」にふさわしく、痴情を描いた話ではあるけれど、個性的な小品の中にあって没個性の作品で、余計にげんなりしてくる。
各話のタイトルと内容に色をテーマにしているところも、それなりにうまく働いているところと、まったく意味を見出せないところとがあるのもいまいち。
なんか久しぶりに手にして、けっこう期待してたんだけど、ものの見事に期待はずれ。
個人的には好きな作家さんなんだけど、さすがにこれは落第。
今度はやっぱり長編にしようっと。