つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

実は恋愛小説?

2007-04-25 23:59:59 | ミステリ
さて、何がごっついのかよく解らない連休が近付いている第876回は、

タイトル:ランチタイム・ブルー
著者:永井するみ
出版社:集英社 集英社文庫(初版:H17)

であります。

お初の作家さんです。(久々の定型文)
三十路を目前に転職し、畑違いの職場で奮闘する主人公の姿を描く連作短編。
例によって、一つずつ感想を書いていきます。


『ランチタイム・ブルー』……新米インテリア・コーディネーター、庄野知鶴は、雑用ばかり押しつけられる日々に嫌気がさしていた。中でも憂鬱なのが社員の弁当の調達で、注文忘れ、注文後のキャンセルなど、実につまらないトラブルが毎日のように起こる。今日も部長の水沢が、注文してもいない弁当を平然と要求してきて――。
昼飯係って、意外に神経使うんだよねぇ……。自分が注文した品を間違える奴がいたり、電話で注文した後で別の弁当に変えたいとかぬかす奴がいたり、しまいにゃ全員が全員、さも当然のようにお札を出してきて釣りくれ――って、私は常に自分の財布を小銭で一杯にしとらにゃいかんのかっ! そんな雑用係の苦労が滲み出ている一編。ミステリとしては、犯人該当者が一人しかおらず、理由も後付けでちとイマイチ。あと、××さん、ちょっとこらしめるって……あンたそれ犯罪だよ。

『カラフル』……その日、千鶴は友人の遠藤美和を連れて、とあるファブリック専門店を訪れていた。一週間前、突然、美和が部屋の内装を替えたいと言い出したからだ。千鶴は、ひとまずカーテンだけでも替えることを勧めるが、ある事件のため、すべては無駄になってしまう――。
本書唯一の殺人事件もの。気が付いた時には事件が解決しており、いささか拍子抜け。これまた最後に真相が明らかになるが、被害者にも犯人にも同情できない後味の悪いものだったりした。千鶴には大いに同情するが。

『ハーネス』……千鶴は、広瀬の代理として高見家を訪問した。カタログを見せて一通りの説明を行い、相手の要望を聞くだけの簡単な仕事。だが、顧客の高見滝子は、それとは別にちょっとした相談を持ちかけてきた――。
うって変わって、明るいタッチの話。滝子はなぜ寝室を二つに分けたがるのか? 犬の散歩をしなくなったのはどうしてか? という謎を、さらっとしたヒントで解かせてくれるのは上手い。オチも綺麗で、本書中最もミステリらしい作品。ちなみに、『ランチタイム・ブルー』にも登場した広瀬が千鶴の直属の上司になっており、この関係は本書ラストまで続くことになる。

『フィトンチッド』……髪を切り、お気に入りのライラックも買ってきて上機嫌な休日、千鶴は奇妙な電話を受けた。低く囁くような男の声で、「髪、切ったんだね。似合うよ」。さらに後日、追い討ちをかけるような事件が――。
後に付き合うことになる、森くん登場編。しかし、何の前フリもなく、いきなり食事に誘うって……顔に似合わず積極的ですな。ミステリとしては顔の見えない侵入者を探すというサスペンスタッチの話で、一人暮らしの女性がこういう事件に遭遇した時の不安感が上手く出ている。ただ、最後の千鶴の謎解きに関して言えば……それで犯人特定するのってかなり弱くないか? ってところ。

『ビルト・イン』……広瀬と分担して、二世代住宅の内装を決める仕事を担当することになった千鶴。しかし、館林真美は、姑の綾子が住む一階の内装が気になるようで、なかなか色よい返事をしてくれない。挙げ句の果てには、なぜ姑にはベテランの広瀬が付いて、自分の方は新米の千鶴が担当するのかと文句を言い出す始末――。
うわ~、性悪な嫁、ってのが第一印象。自分が住む二階が姑の住む一階より見劣りするのは嫌だとか、姑が打ち合わせを別々にしようと言い出したのも自分の住むとこだけに金をかけようって魂胆じゃないのかとか、好き放題ぬかした挙げ句、そこらへんの問題を千鶴に放り投げようとするあたり、客としても人間としても最低レベルだと思う。えー、ミステリとしては、姑がこっそり一階に作ろうとしていたものとは何か? というところまでは面白かったのだけど、その後ヒントが皆無のまま説明台詞だけで終わっちゃったのでイマイチ。さりげに、千鶴と森の関係が進展してたりもする。

『ムービング』……以前遭遇した事件を期に、千鶴は引っ越しすることを決めた。築五年、三階の角部屋、駅から徒歩五分となかなかいい物件も見つかり、いざ契約と不動産屋に向かう。しかし、保証人を広瀬にしていたことが問題となり――。
保証人は親族じゃないと……というのは納得いくが、男性の方がいいってのは確かにちとアレかも。ミステリ色は皆無で、千鶴と森の痴話喧嘩がメインとなっている。ただ、読者の視点では明らかに千鶴の勘違いと解るので、盛り上がりはさほどなかった。

『ウィークエンド・ハウス』……いつになく真剣な表情で、話したいことがある、と森は言った。だが、直後に起こったトラブルでうやむやになってしまい、その後も千鶴はその話を聞くのを先延ばしにしてしまう。そんな折、二人は広瀬の別荘に招待され――。
当然出てきた千鶴と森の結婚話。それ以外……何もないかも。一応、広瀬の母と、三島という怪しげな人物が登場し、倉の中のワインが消えるという騒動が起きるのだが、森くんがあっさり謎を解いてしまうので感慨も何もなし。

『ビスケット』……千鶴は、森と仕事の間で揺れていた。転勤となる彼に付いていくなら、今の仕事は辞めざるを得ない。だが、ようやく今の仕事の面白さが解ってきたのに、ここで打ち切ってしまう気にもなれない。果たして、彼女の決断は――?
千鶴が自分の気持ちに整理を付ける完結編。ゲストの老夫婦の話も面白く、なかなか読ませる。夫の身体を気にして内緒でリフォームの話を進めようとする妻、自分の留守中に建築業者を家に入れたことを怒る夫、と、ここまでなら普通のトラブルだが、これに、夫婦が交互に倒れるというエピソードを入れているのが上手い。夫の発した台詞により、千鶴が仕事に対する視点を広げるという展開も見事。


な、長かった。
ミステリかどうかは置いといて、千鶴の成長物語としてはなかなか面白かったです。
森との関係が、妙にあっさりと進展してる気もしないではありませんが、まぁ、良しとしましょう。

突き抜ける面白さはありませんが、さらっと読めます。
でも……やっぱりミステリと言うより恋愛小説だよなぁ。