つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

これは納得

2007-04-15 20:53:21 | ファンタジー(現世界)
さて、そういえばちょっと前に666のナンバーの車を見たなぁの第866回は、

タイトル:お留守バンシー
著者:小河正岳
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H18)

であります。

なんか不吉なナンバーだなぁとは思ったけど、禍転じて福と成すのつもりなんだろうか。
こういうナンバーを選んでつけてるひとのを見ると、やっぱナンバー変えたかったなぁ、ってちょっと思うね。
当然、「7」のみだけど(^^

さて、いつもの日曜ラノベは、これもいつもの電撃文庫。
第12回電撃小説大賞で大賞を受賞した、19世紀のヨーロッパを舞台にしたコメディ。
ストーリーは。

『オルレーユ城で、城の家事全般を担うバンシーという妖精のアリアは、突然主人のブラド卿の旅支度に戸惑っていた。
旅支度は、過去に戦った経験のあるクルセイダー、ルイラムがブラド卿のもとへやってくる、と言うことを知り合いの魔女トファニアの使いから聞いたからだった。

ルイラムはブラド卿を狙っている。だから城にいる他の魔物たちは安心なはず。
そのため、しばらく身を隠すことにしたブラド卿から、アリアはオルレーユ城の留守を任されることになる。

敬愛する主人の頼みとあって意気込むアリア。
個性的な魔物の同僚たちに悩まされたり、ルイラムが来たりする中、アリアは無事、ブラド卿が戻ってくるまでの間、留守を守ることが出来るのか!?』

大賞にふさわしいかどうかは別として、何らかの賞を受けるだけの作品には違いない、と言うのがまず思ったね。
ストーリーは、前半が城の同僚たちとのホームコメディ。
後半がルイラムが訪れてからの軽快なアクションシーンを織り交ぜたドタバタコメディ。
意外性はないが、ストーリー展開の軽快さと、笑みを誘う個性的なキャラが揃っており、コメディとしての要素は十分。

特にキャラはおもしろい。
主人公のアリアはバンシー。バンシーと言うとアイルランドの伝承に出てくる、死を告げる妖精として有名だが、もともと、死を告げること以外の特徴が伝承には残っている。
そうした伝承をもとに、少しアレンジを加えて作ったアリアのキャラは、12歳くらいと言う見た目に合った、かわいらしく、ほほえましいキャラに仕上がっている。
若干、気になるところがないわけではないが、目を瞑れる程度。

また、おなじアイルランドからのデュラハンも死に関わる妖精だが、アリア同様、死にまつわる暗さはなく、愛すべき間抜けな好青年として描かれている。
他にも、サキュバスなのに貞操観念の強いイルザリア、丸々としたペンギンにしか見えないガーゴイルのセルルマーニ、リビングデッドのため、土に詳しく城の庭師になったフンデルボッチなど、暗さのないキャラたちが、物語の雰囲気を明るく、ほほえましいものにしている。

だが、だからと言ってキャラもの一辺倒かというとそういうわけでもなく、バンシーの伝承を余すところなく使って作られたストーリーは、キャラ同様、明るくほほえましい雰囲気に溢れており、展開にも無理はない。
魔を滅ぼすクルセイダー、ルイラムが出てくると言っても、魔物であるアリアたちが滅ぼされることもなく、やや盛り上がりに欠けるきらいがあるものの、クライマックスの収め方もうまく作っていて納得がいく出来。

文章も、デビュー作にしては作法をきちんと知った書き方で、表現の破綻もない。
ラノベの新人でデビュー作となると、だいたい作法の難点が必ず出てくるものだが、それがないのはかなり好印象。

作品分析を得意とする理性派の読み手には物足りないものがあろうが、私のような感性派のタイプには、ほほえましい雰囲気に溢れ、世界に浸れるのでオススメ。
まぁ、そんな好みを別にして、さらに物足りなさを考慮したとしても、十二分に良品と言える出来であろう。
やっぱり、電撃文庫の新人って、いろいろと欠点はあったりするものの、全体的に他のラノベのレーベルよりもレベルが高いね。



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