つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

薄いなりに

2007-04-03 21:10:08 | ミステリ
さて、ひとつだけで見るなら迫ってきたなの第854回は、

タイトル:街占師
著者:姉小路祐
出版社:祥伝社 祥伝社文庫(初版:H12)

であります。

これでミステリのカテゴリは80。
ひとつだけで見るなら、とうとう「ファンタジー(異世界)」に迫る勢いやね。
……って、日曜ラノベでファンタジーを増やしてるほうがミステリも増やしてどうすんだろね(笑)

さて、本書はタイトルからもわかるとおり、街占師……店を持たず、街の一角で机を置いて占いをしている占い師……が主人公。
ストーリーは、次のとおり。

『北白川晶子は、文化村通りに簡易テーブルを置いて手相占いをしている街占師だった。
師の頼みで受けたインタビューの後日、奇妙な3人の客に出くわす。

ひとりは自ら経営する会社のこと。
ひとりは妙な恋愛相談。
ひとりは占いをせずに、晶子に「男性を占うのはやめろ」と忠告してきた。

そんな妙な日の翌日、再び会社のことを占ってほしいと訪れた客が現れる。
今度は自分と恋人のことを占ってほしいと依頼され、身体が不自由だからとワンボックスカーの中で待つ女性のもとへ。
そこで晶子は薬を嗅がされ、意識を失ってしまう。
目が覚めたとき……廃工場で寝かされていた晶子の隣には、ひとりの女性の遺体が横たわっていた。

粗末な拘束ですぐに逃げ出した晶子は、師とその常連客である大手部品メーカーの社長の手助けを得て、自らを拉致し、監禁した者、そして女性の遺体の謎を追っていく。』

ストーリーは、事件に巻き込まれた主人公の晶子が、探偵役として推理し、犯人を割り出すと言う、ごくごくふつうのミステリ。
展開はとにかく平坦で、盛り上がりに欠けまくっておもしろみは薄い。
推理部分は、ちらほらとヒントや惑わすネタなどを織り交ぜてはいるものの、意外性とかそういうものとは無縁。
登場人物は少ないし、150ページ程度のページ数で、1ページの文字数も若干少なめなので、推理部分に凝った仕掛けを作りにくい、と言うのはあるだろうから、ここは仕方がないところではあるだろうね。

まぁでも、そうしたところを補うのに、手相というものを持ってきたのはうまいかも。
手相は千差万別で、晶子が犯人を見分ける手がかりにもなり、そうした手相から様々な情報を得ることが出来る。
少ないページ数で、晶子が犯人を割り出す手段を持たせるためにはいい方法だろうね。
逆に、いろんなことを「手相で見たから」の一言ですませてしまう可能性もあるので、いいことだけではないだろうけど。

文章は男性らしい行動や事実のみを書いたタイプだが、変な言い回しとかを使わないぶん、読みやすい。
個人的にはあっさりしすぎていて情趣が感じられないから、この手の文体はいまいち好きにはなれないのだが、これと言って欠点がないのはいい。
ただ、流れで読んでいると重要な伏線とかを見落としてしまいそうだが……(笑)

盛り上がりに欠けていてミステリとしておもしろみがない、と言うことを除けば概ね良好な作品であろう。
ページ数が少ないながらもきちんと作っている、と言う印象。
おもしろくない、ってのは致命的だと思うが、それはミステリの部分。
もうひとつ、晶子の犯人探し以外に、盤石に見える大手部品メーカーの社長と、もてはやされながらも栄枯盛衰が激しいITベンチャーの社長の立場という部分があって、そうしたところはけっこうおもしろく読めた。

ミステリなのにミステリ以外の部分がおもしろい……ってこれも致命的な気がしないでないが、パズルを解くだけのミステリよりはまだマシかな。
と言うわけで、総評だけど、ミステリとしてはいまいちだが、それ以外では概ね良好と言うことで、評価点高めの及第、ってとこかなぁ。