つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

巨○兵と言ってはいけない

2007-04-29 20:00:37 | ファンタジー(異世界)
さて、他のレーベルはあんまり期待していないんだけどの第880回は、

タイトル:少女は巨人と踊る マテリアルナイト
著者:雨木シュウスケ
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H15)

であります。

どうも、電撃文庫以外のラノベに手を出す確率が減っているこのごろ。
まぁ、それもやはりレーベルとして電撃文庫のレベルが高い、と言うことではあるし、実際、最近はそんなに×が出る電撃の作品は少ない。
逆に他のがねぇ……。

とは言え、たまには読まないといけないだろう、ってことで……でも3週間ぶりの富士見ファンタジアであります。
第15回ファンタジア小説大賞佳作受賞作の本書はいかに。

『レンドラント大統領の孫娘レアナ・バーミリオンは、自らの忠実な執事の目をかいくぐり、整えておいた旅装に身を包み、旅に出た。
それは、大統領である祖父に届いた一通の封書の内容を知ってしまったからだった。

符術を使う符道士の端くれながら、首都ウォレントの外に出たことなど数えるくらいしかなかったが、それでも自らの忌まわしい過去のために、封書から知った出来事を無視することは出来なかったのだ。

とは言え、あまり計画性のないまま飛び出してしまったレアナの旅の途中、世界に偏在し、丸々1世紀分の歴史が失われたレスフォール時代に建造されたと言う巨人石で起きた不思議な現象を目にする。
封書の事件の手がかりを求め、その場所へ向かったレアナは、そこでリィエンシーから逃げてきたというテリードという青年、シィナという少女に出会う。

レアナは、誰も手の届かない場所へ行く、と言うふたりに、無視できない事件の影を見、追いついてきた執事のイェンとともに同行することにする。
逃げるふたりを追ってくる敵、シィナが見せる能力……レスフォール時代に産み落とされた遺産を巡り、レアナは小さいながらも自らの力で過去と、そして目の前の現実に立ち向かう。』

最初の印象は、佳作と言いながらも全体的にアクションシーンやストーリー展開に勢いのある、なかなか出来のいいデビュー作だ、と言うこと。
ストーリーは、主人公のレアナがリィエンシーという国で起きた事件を知ったことから、それを何とかしようと旅に出て、それを執事であり、レスフォール時代に産み出された生体兵器ドラグ・ヘッドであるイェンとともに解決する、アクションファンタジー。
展開も、テリード、シィナと出会ったことでともに追われることになる序盤からアクションシーン中心に進むが、このアクションシーンのテンポがよく、読み手を飽きさせないだけの勢いがある。
また、レスフォール時代の遺産であるドラグ・ヘッド、マシン・ドライブと言った兵器のこともテンポを阻害しない程度に語られており、ストーリーの流れの中で説明がつくようになっている。

キャラも、大統領の孫娘という特権的な地位にいながらも、リィエンシーでの事件を見過ごせないレアナの動機や過去と言ったところもきちんと語られ、比較的納得がいくものになっている。
この作品のキーとなるシィナのキャラも、レアナとの関係の中で変わっていく姿が比較的うまく描かれており、ラストの説得力にもそれなりにうまくつなげている。

ストーリー、キャラともに総じて評価の高い出来になっている作品。
……とは言えるが、手放しで褒められるところばかりではない。

まず、説明不足があげられる。
特に序盤。もちろん、語れないネタというものはあるが、そういったところを考慮しても、説明不足は顕著。序盤の展開は、読者置いてけぼり。
中盤以降は、徐々にストーリーの核心に触れられてくるが、それでも説明不足と感じる部分は多々ある。
だから、キャラの心情や関係、心の変化などはあくまで「比較的」うまく描いている、と言う評価しか出来ない。

また、文章も説明不足に加えて、表現不足のところもあって、繋がりが悪いところがある。
全体的な勢いは十二分にあるからまだいいが、それでも僅かなりとも勢いを殺してしまう欠点ではある。

まぁそれでも、今後の続編をきちんと描けるだけの世界観を持ちながら、きちんと1冊でまとめているし、全体的なアクションファンタジーとしてのおもしろさは備わっている。
多少の欠点はあるものの、デビュー作でこれだけ書ければ十分だろう。
佳作、と言うのも納得できる作品と言える。
勢いのあるアクションファンタジーを読みたいひとには十分オススメ。

総評は……細かいところを言えば、いろいろある(レアナの動機をせっかく過去話できちんと説明しているのに「気質だから」って余計なのを入れんなよ、とか)のだけど、ラノベ点、デビュー作、続編での成長への期待を込めて、良品と言うことにしておこう。
個人的には、序盤の置いてけぼり感はかなりいただけないが、中盤以降はちゃんとおもしろく読めたしね。