迷宮映画館

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愛の奴隷

2011年05月19日 | ロシア映画シリーズ
サイレント映画がかかる映画館。20世紀前半頃の話だがろうなあ、と想像する。そこで映されているのは、まさにサイレント映画そのものの絵なのだが、そのサイレントを撮っているお話。

劇場の中に突然入ってきた官憲の人たち。反体制派を取り締まろうと映画を中断させ、逃げようとする人を捕まえる。捕まえた人に容赦ない乱暴を加え、立ち去っていく。

その映画に出ていたヒロイン、オリガ。売れっ子の彼女は今も映画の撮影に忙しい。撮影場所はモスクワではない。騒乱を逃れてオデッサに来て、多くの映画監督が、ここで争うように映画を撮っている。旧態然としたドタバタのコメディ。監督もプロデューサーも世の中の動向には、無関心を決め込んでいる。

映画の撮影はなかなか進まない。オリガの相手役のマクサーコフがモスクワからこっちにこない。革命の動きが激しくなり、ぞくぞくとモスクワから脱出する人もいれば、活動を支持し、モスクワにとどまる人もいる。彼は後者だった。さらにフィルムがない。公の財産であるフィルムは没収。自由にならない。

前に全然進まない状況に、オリガはますますいらいらを募らせ、実らないリハーサルを繰り返していたが、カメラマンのポトツキ―とドライブを重ねるようになり、彼女の心の隙間が埋まっていく。しかし、ポトツキ―は共産党の活動家だった。政府が行った残虐な処刑を隠し撮りしていた。

憲兵隊の取り締まりは、日に日に厳しくなっている。ポトツキ―たちは命がけで撮ったフィルムをモスクワに送ろうとするが、難しい。彼らの己の命を省みない活動に打たれたオリガは、目覚める。今までの自分は、ただの映像に映された虚像だった。そしてポトツキ―に対する愛。彼が自分をひそかに愛しているのは知っていた。でも自分にはマクサーコフがいる。しかし、彼女はやっと自分をつかみ取る。

フィルムを預かり、使命を感じたとき、彼女の目の前でポトツキ―は憲兵隊に殺される。呆然とするオリガ。

革命の流れは否応なしに動いている。ポトツキ―の仲間は、ポトツキーが殺されたことに一時腰が引けていた。その姿を見て、非難するオリガ。しかし、思いなおした彼らは、憲兵隊に立ち向かい、フィルムを死守しようとする。そしてオリガも。奪い取った電車にオリガを乗せて、脱出させようとする。一人乗った電車は、騎馬隊の追撃を受けながら、大地の中に吸い込まれて行く・・・。

と言うことで、ヒットメーカーの二キータ・ミハルコフが長編の二作目として作った作品がこれ。ここからは中村先生の解説にそってのレビューとなります。

原題はそのまま。ただし、「愛の奴隷」と言うのは、映画中で撮っている映画の題名。奴隷のように愛に盲従していたオリガが、ポトツキーと出会ったことによって、前に進んだ。。。と言う風に見えた。ここは私の考え。

先生はあまりミハルコフがお好きでないので、ミハルコフ作品に対しては、ちょっと辛口になるのだが、これは評価なさっていると。1976年のソ連体制の中で、反革命を一応教条的に悪く書いている。時代は1917年のロシア革命の翌年の1918年のこと。黒海の近くのオデッサと言う街が舞台で、「戦艦ポチョムキン」の舞台にもなっている。

ここは、もともとトルコの支配下に遇ったところで、露土戦争戦争の結果、ロシアに組み入れられた。ロシア風の空気と言うより、少々エキゾチックで、新興の都市だったそうな。そうすると著しい発展をする街にありがちな貧富の差の激しさが生ずる。その中で下層の部分にいた人々が左傾化し、共産主義運動に走ると言う構図になる。

さらにロシアに昔からあった反ユダヤ主義の思想の中、自由な風潮のあったオデッサに、ユダヤ主義の人々がなだれ込み、さまざまな主義主張が混在する複雑な街であったこともオデッサの特徴であったと。なるほど。

革命が激しくなり、モスクワで映画を撮ることが出来なくなった映画人たちが、ぞくぞくとオデッサに疎開して行った。そして相も変わらずドタバタのコメディを撮りながら、忸怩たる思いをしていたのだと思う。そして体制の変動を見て、祖国を捨てたり、活動に身を投じたりと、いろいろな人々がいたのだ・・・・と言うことが見てとれる。

実際にこのようなサイレントの映画の売れっ子女優さんがいたのだそうで、実話がもとになっていることらしい。

初めは流れがつかめず、少々戸惑ったが、さすがにミハルコフ。徐々に物語の全貌が見えてきて、ぐんぐんと入り込んで行って、最後の美しいカタルシスになだれ込む。先生的には、計算されつくしたと言うか、あざとい演出めいたもんが見えて、どうにも引っかかるらしいのだが、映画を作っているのだ!という見方で見ると、見せるなあ~、うまい!と思ってしまう。ま、これは好き嫌いでしょう。

隣に座ったご年配の女性、始まる前はお友達とハイテンションでお話していて、ちょっとうるさいと思ったほどだったが、始まってタイトルロールのところで、熟睡モード。ほぼ全編寝ておられた。うーん、勿体ない。と、題名に惹かれたのか、ちょっと間違えたのか、途中で出てった人が若干名。・・・・・。

「愛の奴隷」

監督 ニキータ・ミハルコフ
出演 エレーナ・ソロヴェイ ロジオン・ナハペトフ アレクサンドル・カリャーギン


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