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迷宮映画館

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おとうと

2010年01月19日 | あ行 日本映画
東京の片隅で、女手一つで薬局を営んできた吟子。手塩にかけた娘・小春が結婚することになって、寂しいやら、うれしいやら、複雑な気持ちだ。

一つ気がかりは、所在のわからない不出来な弟・鉄郎。小春の名付け親にもなっているが、立派な叔父とは到底言い難い。酒を飲んでは失敗を繰り返し、厄介者扱いされてきた。きっと小春の晴れ姿を見たいだろうが、所在がわからないのではしようがない。

結婚式当日、小春の幸せな笑顔が曇る。突然、おじちゃんはやってきた。そして、案の定披露宴を酒でめちゃめちゃにしてしまう。顰蹙そのものだが、さすがの鶴瓶!このときの話芸がうますぎ。

詰まんないスピーチ聞かせられるより、よっぽどおもろいと思ったのだが、そうもいかないらしい。台風でも巻き起こしたかのようにした、鉄郎は兄から絶縁状を突きつけられ、また消える。

家族の縁は切れそうで、切れない。ごんたくれで、どうしようもなくて、半径1m以内には来ないで!と思っても、そうはいかない。親と子のように、無条件でつながっている絆とは違う。断つことは出来ない同士のような、親友のような、同じ根っこを持つ、それが兄弟の絆のようなものか。

ごんたくれの弟は、また姉に面倒をかけ、今度こそ姉にも愛想をつかされるが、姉が見捨てることはなかった。しかし、再会した弟は、病に侵され余命いくばくもなかった・・・。

鶴瓶のうまさが光る、光る、光る。落語家なのか、司会者なのか、役者なのか、この人は一体何なんだろう・・・と悩むところだが、才能がありすぎて、器用貧乏だったのかもしれない。

少々特異な風貌で、見た目にインパクトが強かったのだが、そのインパクトが薄くなってからの映画で見せる演技は絶品だ。自分が要求されてることをわかりきってる。そして、それを見事に伝える力量はなかなかだ。

普通に高座にあがった鶴瓶師匠の落語をぜひ聞きたいのだが、聞けるのかな。
先日、伊勢谷祐介と対談している番組を見たのだが、自分の本業はあくまで落語。いままでいろんなことをしてきたが、そのいろんなことが今の自分の身になってる。それが落語に生かせる。無駄なものは何もなかった・・・みたいなことを言ってたのだが、こうなったら見たいのは、聞きたいのは落語だ。ぜひ落語を!

物語は、家族に一人くらいはいる厄介な奴。こればっかりはどうしようもない。まったくもう!!と思いながら、実際のところ、当の本人が一番困っているのかもしれない。人並みなことをやろうと思っても、やれない自分を歯がゆく思っているのは、自分だ。そのことを改めて感じた。

もう一つは、いかに死ねるか。誰しも迎える死にいかに向き合うか。向き合うことが出来るか。尊厳ある死を迎えることが難しい世の中になっているのは、根本的におかしいのではないかと思わせる昨今の状況。人間誰しもが、必ず迎える死にたいして、監督の一つの憧憬のようなものを感じた。

さて、相変わらずのお化け女優。吉永小百合嬢。平成も22年にもなったが、この人が出た瞬間、その場は昭和になる。いつまでも昭和だ。あの空気は一種異様にも感じられるほど、時間が止まってる。それがいいのか悪いのかはあたしには判断不能。それにしても、あの髪型はないんではないのかと・・・・。

絶品は、加藤治子でしたね。嫁姑のやりとりは、山田節ならではでしょう。

と言うことで、鶴瓶のタレントぶりをはたまた堪能できる一品ですが、あたしは普通の人の加瀬君でありがとうございましたです。

上映は、1月末からです。
どうぞ、足をお運びください。

◎◎◎

「おとうと」

監督 山田洋次
出演 吉永小百合 笑福亭鶴瓶 蒼井優 加瀬亮 小林稔侍 森本レオ 茅島成美 ラサール石井 佐藤蛾次郎 池乃めだか 田中壮太郎 キムラ緑子 笹野高史 小日向文世 横山あきお 近藤公園 石田ゆり子 加藤治子


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なるほど… (KLY)
2010-01-19 20:27:46
確かにそうだ…。吉永小百合だけが若い頃の吉永小百合となにも変わってないですね。昔の彼女の映画を観ているかのような錯覚に陥りましたよ。鶴瓶師匠だけでなく、笹野さんや森本さんもいいし、蒼井優ちゃんも良かった…。
でも私はこの脚本が全面的にダメでした。古過ぎるです…。
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>KLYさま (sakurai)
2010-01-20 17:35:41
どんな映画でも、吉永さんだけは、小百合さんなんですよね。
それがサユリストにはたまらないんでしょうね、きっと。
そういった人たちには、絶対に必要な映画なんすよ、こういうのは。
蒼井優ちゃんが、ハマってたのが、発見でした。やっぱ女優さんですね。
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時代劇の方が~ (cyaz)
2010-02-04 12:35:50
sakuraiさん、こんにちは^^
TB&コメント、ありがとうございましたm(__)m
山田監督、現代劇は久しぶりだということですが、
この種のテイストは逆に時代劇仕立てにした方が、
感情移入がしやすいかも。
鶴瓶は鶴瓶で特に演技らしい演技ではないですが、
彼のは落語というより、座布団の上で漫談って感じですね(笑)
師匠にお前は落語なんかせんでえぇと言われていた
あのねのねあがりですから(笑)
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>cyazさま (sakurai)
2010-02-04 15:54:56
そうですね。現代劇にしちゃうと、どうにも時代錯誤を感じたのが引っかかりました。
ま、それでも見せるのは監督のうまさだなあと改めて感じましたが。
市川監督の「おとうと」に対するオマージュと言うことで、今回はこれでいいとは思います。
鶴瓶サンですが、自分的にはかなり自身ありそうでしたよ。自分は落語家なんだ!って。
なモンで、いっそう見て見たいと思ったのでした。
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こんばんは♪ (ひきばっち)
2010-02-07 00:05:09
「こういう映画を観たかったんだ・・」
観終わって心の中でかみしめました。
私は多分、古いタイプの人間なんでしょうね。

知らず知らずのうちに、鶴瓶さん演じるてっちゃんに、自分の姿を重ねて見ていました。
ホスピスの所長(小日向さん)や千秋さん(石田ゆり子)の「もう少しで、楽になるからね~」に涙を堪え切れませんでした。

ラストの加藤治子さんのセリフも、優しかったですね・・。
私にとっては、何年に1本出会えるかどうかの、心に残る映画となりました。


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こんばんは (なな)
2010-02-07 21:12:26
自分の好みの映画ではないんですが
母にせがまれて連れて行ってきました。
感想はsakuraiさんとほぼ同じかな~
鶴瓶さん上手いですね~
「ディア・ドクター」とはまた違った
ほとんど素の落語のノリのような演技もありましたが
ラストの息を引き取るときの演技は凄かったです。

そして吉永小百合。
う~ん,いつも同じキャラしか演じないというのは
名女優といえるかどうか・・・・
ま,あのお方は存在そのものが奇跡みたいなものなので
それもアリなんでしょうね。
>この人が出た瞬間、その場は昭和になる。いつまでも昭和だ。
同感,同感!
それがいいのかどうかは,やはり人それぞれの感じ方でしょうね。
同じようなお顔と雰囲気の韓国女イ・ヨンエさんは
「親切なクムジャさん」で見事新境地にも挑戦されましたが
吉永さんはもうこのお年では無理でしょうし・・・。
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>ひきばっちさま (sakurai)
2010-02-09 07:57:28
コメントありがとうございました。
>「こういう映画を観たかったんだ・・」
そう感じられることができたのは、よかったですね。
テーマがきちんとしていて、ぶれがないのがこの監督の持ち味だと思うのですが、それが素直に出ていたと思います。

だれしもが迎える死ですが、その死を尊厳をもって迎えさせたい・・・というホスピスの方々の気持ちも、とっても良かったです。
実際にモデルの施設も、あんな感じなんでしょうかね。

老いて、ますますさかんな山田監督!まだまだ良作を生み出す勢いを感じました。
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>ななさま (sakurai)
2010-02-09 08:23:00
えらいなああ。
ちゃんとお母さん孝行して、見習え・・・・ません。なは。
今度、「花のあと」がいかがでしょうか。
しっとりとした味わいでしたよ。

鶴瓶さんは、本当にうまいですよね。
すっかり役者になってしまいましたが、あの結婚式の独壇場は、落語家ならでは・・と思いました。
彼の落語、聞いたことないもんで、一度聞いてみたいです。

吉永さんは、本当に存在が奇跡みたいな人ですから、あのままでいいんでしょうね。
あの人に別のキャラを求める人はいないでしょうから。彼女には普遍の吉永小百合を演じてもらう。
それが吉永さんの生きる道でしょう。

イ・ヨンエさんねぇ。なるほど。
昔っから、学級委員長!みたいなのがぴったりの人でしたから、あのパターンへの挑戦は見事でしたね。
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最大の批判点 (異国の団塊男)
2011-04-22 23:23:02
結婚式での弟の狼藉。姉は(いや吉永は)止めるべきだった、止められるのは姉だけだ。
“それを言ったら映画が成り立たない”というだろう。でもある観客を「見るに耐えない」思いにさせておいて、映画が成り立ってもらっては困るのだ。
以上、大方の賛同は得られないことは承知で。
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>異国の団塊男さま (sakurai)
2011-04-24 18:01:13
おっしゃるとおり、あの逸話がなきゃ映画として成り立たず、こっちに見る耐えないと思わせることが狙いだったと思います。
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