磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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牧師の涙-あれから六十五年老いた被爆者-

2011年04月19日 | 読書日記など
『牧師の涙-あれから六十五年老いた被爆者-』
   川上郁子・著/長崎文献社2010年

筆者の夫は、小説家の川上宗薫の弟だという。



妹みどり……。下「」引用。

「“みどり”は父平三や兄宗薫(むねしげ)に似て、つぶらな瞳をもった可愛いい顔立ちで、聡明な頭脳の持ち主だったことは舅の平三から二度か三度聞いたことがあった。小児麻痺の後遺症で右足を少し引き摺(ず)って歩く年齢差のある妹みどりを、宗薫も理郎(みちお)も溺愛と言っても良いほど可愛いがった。」

凄惨なシーン……。下「」引用。

「-略-なぜ原爆死した妹みどりのことを朝起きるとすぐに、いきなり話し出したのか。
 昔の、原子爆弾で破壊される前の家族のこと--兄宗薫とともに少年の心で、成人後も心の片隅で愛しつづけた母のこと、二人の妹のこと--何かその家族についての強烈な夢でもみたのだろうか。
「みどりがオフクロの右手に、かおるが左手に骨になっているオフクロに抱かれて、みどもかおるも骨になっていたんだよ」
 なんて恐ろしいことを。なんと凄惨なシーンを。私は耳を疑った。」

著者も被爆者の一人で、七色の虹と思える物凄い閃光をみたという。下「」引用。

「私は女学校の四年生のとき、動員されて、大橋街の三菱兵器製作所で、製図された魚雷のトレースの仕事をして、原爆投下の一ヶ月前まで働いた。その後、飽(あく)の裏にある三菱造船所の鋳物(いもの)工場で原子爆弾を体験した。-略-」

後遺症に苦しんだという。下「」引用。

「私も被爆後の翌年、五、六年後、十年後、原因不明の高熱に脅かされた。歯茎(はぐき)全体からの出血、少量の脱毛、視力低下など、体に異変が起きた。が、診察した医師はただ首を傾(かし)げ、原因不明熱と診断されることもあったことを思い出したからである。-略-」

夫は夢で母が特殊爆弾で殺された無念さを理解してほしかったんだ……。下「」引用。

「パパ、私はもう七十歳ば過ぎとっとよ。私には核兵器反対ののろしをあげているグループに加わる元気はもうなかよ」

一家を破壊した原爆。下「」引用。

「前日の朝まで、操を中心にした、平和で、愛に満ちた敬虔なクリスチャンであった平さんの家庭は、たった一日で、たった一発の特殊爆弾によって、完全に破壊されたのだった。常に心の支えであり、神の愛をともに信じ、ともに神の愛を説いてきた妻を奪われ、可愛いいさかりの二人の娘たちも同時に奪い去られて心の中に、誰も埋めることのできない、大きな淋しい空洞ができた平三は、もう牧師でもなく、教師でもなく、虚無感に陥ったひとりの人間、この世に誰ひとり頼れる人もいない、生きる目的をうしなった孤独なひとりの男になっていた。」

牧師をやめた平三……。下「」引用。

「「もう、オレ、牧師を歇。いまような気持ちでは、牧師をつづけることはできないよ。もう神の存在を信じることができないからな。神の愛を信じることができない者が、神の愛を説くことはできないよな」
 三人の骨の上に、盛り上がるまでに土をかけると、また、どうと平三の目から涙があふれ、流れ、その盛り土の上に落ちた。」

自慢の兄だった宗薫。

父、再婚……。下「」引用。

「裕福な商家に生まれ、聖処女のような我欲のない操と対照的な性格の後妻と平三が再婚したことは、平三が再婚したことは、平三が望んだ戦後再出発をこめてのことだったが、家族愛の再構築は失敗に終わった。」

複数のガンを患ってなくなった著者の夫。








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