ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 154正義とは? 「輝代はどう思う?」 「正義?」 「そうだよ、輝代はどう思うの?」 「それは相手を思いやる心だと思うわ」 「相手を思いやることが正義だっていうのかい」 マイクは大笑いした。 「そうだよな、相手を思いやったら、戦争なんて起きないに決まっているだろう」 と、勇気はマイクと違う視点で笑う。 「そんなことはないさ。相手を思いやっても、相手が相手だったら、正義を見せつけるしかない。警官を考えろよ、いくら市民を思いやったところで、泥棒はいる。どんな時代でもだ。それゆえ、アメリカは世界の警察と、正義のため、地球のため、平和のために日夜努力しているというわけだ」 マイクらしい意見を述べた。 「そりゃ、マイクの考えることなら、それで当然かもしれないけど。正義って何だろう」 「正義って何だろう。相手を思う心。イエス様は“汝の右頬を打たれたら、左頬をその者に差し出しなさい”って教えているでしょう!」 ナンシーはそう応えた。 「でも、そんなことしていたら、命がいくつあっても足らないと思うよ」 「そうだよ、独裁者とか、悪事を平気でおこなっている国もたくさんある。そんな悪い国から、アメリカは多くのアメリカを同盟とする民主主義の国を守っているのさ。そういうことをすることを忘れたり、軽んじたりしたら、この地球はどんなことになるだろう。考えてごらん、ヒトラーやスターリンが生きて、この地球を支配していたら、どうなると思う。みんなは強制収容所送りになっても、僕は別に驚かないよ」 「すごい論理だなあー。アメリカは百パーセント正義みたいじゃないか」 「イエス・キリストの尊い言葉も、そんなふうにしか思わないのか?聖書ではこういうことを“ブタに真珠”と教えているよ。右の頬を叩かれたら、左の頬を出しなさいと教えているよ」と、行者。 「でも、なあー。心臓なんて、左にしかないよ」 と、無宗教の勇気は話す。 「相手の心を大切にされるイエスはたしかに、十字架につかれました。でも、いつも、そうされたわけじゃありません。それは、神の思し召しなのです」と、行者。 「イエス・キリストの言葉を軽くいうのは、私はきらいよ。イエスは言葉で人を強制しようとする人ではなく、目覚めるように諭すお方よ」と、輝代はやさしい目つきで話した。 「どうして?」 「だってイエス・キリストは“教条主義者よ、まず汝より行なえ!”と教えられているわ」 「どういうこと。ちょっと難しいわ」 「いいこというなあー」と行者。「僕が話していいかい。ありがとう。イエスはユダヤ教徒の律法学者たちにそんなことを話したよ。彼らは神とか、尊い教えを一般の人たちには教えながら、彼らはそんなことはしなかった。特権階級として生きていたし、多くの困っている人たちも見放していた」 「歴史的にいえば、イエス・キリストが誕生したといわれる前、多くの律法学者たちが死刑にされたのよ。王家のいうことをきかない律法学者は殺されるか、地方に逃げ去ったのよ。そして、王家のいいなりの律法学者たちが残った。そして、教えも形骸化してしまって、一般の人たちには教えを強制したり、お金をとったりするけど、彼ら自身は教えを守らなかったのよ」 「わかった。それでアメリカは「汝の敵を愛せよ」と、他者に求めてばかりいるんだなあー」 「どこでも、今、宗教って釈迦とかイエスとかと関係がなく、まるでビジネスみたいだよね。日本の場合だけどさ」 「日本の場合でしょう。中東のことどう思う」 「ユダヤ教、キリスト教、イスラム教も根元は同じ宗教でしょう。でも、いがみあっているわね」 「旧約聖書を信じていることには共通点があるわね」 「それなのにどうして争うのだろう」 「キリスト教同士でも、プロテスタントとカトリックはいがみあっているさ」 「イスラム教は、イエスを神の子としては捉えないけど、預言者としては認めているそうよ。でも、聖母マリアの方が、人気があるそうだよ」 「宗教による対立は、何か期待はずれだよね。イエス・キリストにしても、平和主義者だし、他の宗教もそうだろう?」 「“汝の敵を愛せよ”というのは簡単だけど、なかなかそうはいかないよね。それをいって威張ることはできないわね。だって、私たちはそうできないのだから、反省するしかないと思うわよ」 「キリストだって、お金持ちや権力者のところへは福音を伝えにいかれなかったという人もいるよ」 行者の目はクールだ。
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