魔法が解けたそのあとで

結婚、出産、育児、介護、お仕事。来た球を打ち返す、毎日のつれづれをつづりました。

彼という人

2008-12-14 14:54:58 | ママになれるかな編
わたしは、デパートのアルバイトを辞めた。
今までお客様でしかなかったデパートの内側に身を置いたことで、一層そのデパートが身近に感じられた。廊下を歩いていると、声をかけてくれる顔見知りの社員さんもいて、辞めてからもちょくちょく出かけた。
一般のお客様が知らない、一番上階の事務所にいる彼にはめったに会うことはなかった。

彼が気になりだしてから、わたしは彼の同期や、同じ売り場の社員さんに彼のことを聞いたことがあった

「Kさんってカッコよくないですか?」
と聞いたら、
「そうかな~」
「顔はカッコいいけど・・・あの人変わってるよね
というのが多かった。

わたしだけなの?
「超カッコいい」って見えてるのは・・・。

彼の同期は
「新入社員の歓迎会で、役員にビールを注ぐのに膝をついて注いでいた」
という伝説を・・・。
「どうも東京での大学生時代にホストだったらしい」

ほ、ホストですか~
・・・まあ、カッコいいから・・・(あくまでわたし目線)

謎だ・・・。

人事という部署は、結構仕事柄、そんなにフレンドリーになりにくいらしい。
事務所にいると、売り場にはなかなか降りて来ないし。
「変わっている人」
というのが彼の評だった。

あんなに気になるのは、わたしだけなのだろうか・・・。
あんなにカッコよく見えるのは、わたしだけなのだろうか・・・。
こんなに知りたいと思うのは、わたしだけなのだろうか・・・。
わたしだけに、彼が素晴らしく見えているのだろうか・・・。

事実、彼がお昼休憩で社員食堂や休憩室にいると、そこに入った瞬間、わたしには彼がいると分かるのだ
ぴーんとくる。
まるで、自分の目に「彼発見スコープ」が着いてるみたいに。
目からビーム出てたよ・・・
それで彼が見えるところに、席を取る。

彼は大体ひとりか、年配の役付きのおじさんたちと話していることが多かった。
若い、同年代らしき男の人と一緒に談笑していることは、ほとんどなかった。
一人の時は、新聞を読むか、寝ていた。

休憩室にある喫茶コーナーで、冷たい飲み物を買う際に、そこの販売のおじちゃんと笑って話すことが多かった。
愛想がない人ではないんだ。
そう思った。

われながら、本当によく見ていたと思う。
あぶないくらい、見ていた。
あんなに情熱を持って、ひとを見ていたことはないかもしれない。
中学生の頃、好きだったひとを見ていたことくらい、見ていた。
すごく、見ていたかった。
目が離せなかった。
好きかどうか、なんて分からなかった。
ただもう、惹き付けられていた。
世界は、変わらずカラーに見えていた。
26歳になったばかりの、冬だった。





26歳で・・・バカじゃないの・・・



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バレンタイン。

2008-12-14 14:34:25 | ママになれるかな編
もう今年もあと2週間ほどになりました。
昨年の12月、退職して最後の出社日に会社の皆さんに別れを告げ、一旦上京した両親が待つ自宅に帰って荷物を持ち、その足で夫の待つこの土地にやってきたその日、大雪でした・・・
それから一年。
たまに東京に帰りたい、と思っている夢を見ることがあります。
目を覚ますと
「結婚してる!しかも腹に子が!」とびっくりすることがあります。
お腹は妊婦と分かるくらいになってきました。ぽこぽこと胎動もしています。
来年は、家族三人になるのです。

デパートでのアルバイトが始まりました。
上階の催事場でのお歳暮コーナーかと思いきや、クリスマスに備えて1階の革製品売り場に配属されました。
配られた制服を着て、他のアルバイトの人たちと一緒に彼に連れられて配属先へ。はー、大変ねえ・・・。

「立ち仕事は大変ですが、ひとつきもすると慣れますよ

ちょっと心配していたわたしに、彼が言った一言。
結構言うよね~。
でも最初はつらかった~足がぱんぱんに腫れちゃって・・・靴、いいの買いましたよ。靴は大事・・・。
でもたしかにひとつきもしたら慣れた。
クリスマスの混みようはすごかった。
わたしは
「これだけの人が、自分の大事な人にプレゼントを求めに来るんだ」
ってことに、感動した

子供の頃はツリーを出して、ケーキ買って、プレゼントをもらっていたけど、それもいつしかなくなった寂しいわたしのうち。
だから本当にたくさんの人がぎりぎりまでプレゼントを考えて、迷って、綺麗に放送されたそれを持って帰るのを見て、こちらも嬉しくなった
これを知ることだけでもバイトする意味があったと思った。
デパートって売るのは品物だけじゃないんだなあ・・・。

クリスマスが終わってからも、彼から引き続きアルバイトの継続を求められた。
そしてパートにならないか、と売り場のマネージャーから打診された。
でもまだ若いから、他の会社で正社員になることもできるよね。他にやりたいことがなかったら考えてみて、と。

そのうちバレンタインの応援に、地下の食料品売り場に配属された。
これがまた、すごい騒ぎ
女子がチョコレートを買いに殺到。
ご飯を食べる元気もうせ、痩せた。

そしていろいろ考えた結果、デパートの近くにある会社に準社員ではあるが採用され、勤めることになった。
アルバイトは面白かったが、このままアルバイトの身分で働くより、ちゃんとしたかった。

休憩はシフトごとに大体決まっている。
彼は午後一時過ぎの枠で休憩を取っている。
バレンタインが終わった次の日、わたしは彼に話しかけた。

「せっかくパートさんのお話をいただいたのですが、他の会社で勤めることに決まりました。いろいろ、ありがとうございました。」

そうすると彼は
「そうだね。社員になった方が健康保険とか年金とかもちゃんとしているしね。」
「まだ若いんだから、社員として働いたほうがいいよ」
と薦めてくれた。

アルバイトが終わったら、こうしてそっと休憩時間に姿を目で追うこともない。
わたしは勇気を出して、言った。

「Kさん、これ、いろいろお世話になったお礼です。受け取ってください。」
わたしは、地下で買ったチョコレート菓子の入った紙袋を差し出した。

断られてももう会わないのだから、いいや
そう思っていた。

彼はびっくりした顔をしていた

そして
「いいの?ありがとう。わざわざお心遣い、恐縮です。」
と言って、受け取ってくれたのだ

そしてなんとわたしは
「よかったら、今度お食事とかご一緒にいかがですか?」
と誘ったのだ
そしたら
「いいですよ。」
あっさり

「また電話しますよ」
売り場に?
渡した紙袋には、一応携帯の電話番号を書いたメッセージカードを入れてあったが。
迷惑そうではなかった。
でも嬉しそうでもなかった。
あっさりとしたものだった。
こういうことに、慣れているような応対だったように感じた。

・・・でも嬉しかったなあ

自分であんなふうにアプローチをしたのは、初めてだった。
もしかしたら
「いや、それは仕事なんで、気持ちだけ受け取っておきます」
などと言いそうな人でもあった。

本当に、嬉しかった。

電話が来たのは、それからしばらくたってのことだった

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