豪州落人日記 (桝田礼三ブログ) : Down Under Nomad

1945年生れ。下北に12年→東京に15年→京都に1年→下北に5年→十和田に25年→シドニーに5年→ケアンズに15年…

地球の這いずり方 (第2部:豪州編) その1-4

1945-01-29 20:55:22 | Weblog

=== 第2部:豪州編 ===


その1: Good day! OK, Reizo! Good name!

6月30日午前7時半、空が抜けるように青いシドニー空港に到着。よそに行ったらまずご挨拶。何事にもアバウトなこの国では、朝から晩までGood day! 1つで済みます。予約していたシドニー中央駅のすぐ横のホテルのフロント嬢が笑顔で迎えてくれました。化粧の習慣はないようです。みんなスッピンです。「ガッ、ダイ! オーカイ、ライゾー! ガッ、ナイム!」訛りがひどいとは聞いていましたが、これほどとは。でもいいんです。日本でも訛りに慣れ親しんでおりましたから。こちらでは名前は呼び捨てです。ミスもミスターもないのです。レディーファーストもチップもありません。風呂場に歯ブラシやリンスもありません。ついでに暖房もありません。今は真冬です。日中の気温は20度を越えるというものの、朝晩は結構冷え込みます。それでもオージーは厚着で凌ぐのです。往時の下北を思い出します。カフェの植え込みでバナナが小さな実をつけています。街にはたくさんの花が咲いています。

一休みの後すぐに行動開始。中央駅から電車で1時間、居留地のキャンベルタウンへ。ここまで来るとすっかり田舎、まるで十和田に逆戻りしたようです。駅から見上げると丘の上に所々宅地が拡がり、その周辺には牧場や公園やラグビー場が点在しています。さらにその奥はコアラの保護区の森林です。駅で時刻表と路線図をもらいました。

牧場では牛や馬や羊やアルパカが放牧されています。公園の池に黒鳥の親子がいました。芝生にはインコやオウムやハトが群れていますが、日本と同じカラスとスズメもいました。醜いカラスの子は実は黒鳥だったのでしょうか?旅ガラスの僕はうまくこの町に定住できるのでしょうか?

市役所、図書館、観光案内所、ガソリンスタンドなどを巡り歩いて、リュックいっぱいのパンフレットを持ち帰りました。ホテルでチェックするとこの田舎街は人口が15万人、どうやら日本食の食堂も食材店もなさそうです。魚屋もなさそうです。突然めまいを感じました。朝からほとんど食べていません。中央駅から徒歩15分、中華街で海鮮料理を食べました。シドニーは間違いなく世界一美しい街です。中華街でさえオープンテラスで、パリのシャンゼリゼと見違えるほどです。空には南十字星が輝いています。




その2: 創世記

懺悔します。本当はダメな人間なんです。ラーメン屋と回転寿司がなければ、僕はきっと邪な道に走ります。スパゲッティや焼きそばは邪道です。日本そばは掛蕎麦が王道ですよね。大体がですね、天麩羅蕎麦なんてお子様ランチじゃないですか。この際はっきりさせましょうよ、麺を啜るのはマナー違反だなんて、誰が、どこで、何時何分何秒に決めたんですか?言いたかないけど、回らない寿司なんてイキが悪いに決まっています。聞いていない?まあまあ、お互いムキになっちゃいけませんよ。

翌日はバスとモノレールとフェリー を乗り継いで、シドニー市内探索です。ありました、ありましたよ。僕の苦手の納豆だって、らっきょうだって。もちろんラーメン屋も回転寿司も。僕は本当はダメな人間じゃないんです。ナイーブというか、デリケートというか、そういう人っているでしょう?

そのまた翌日の7月2日の月曜日、重いリュックを担いだ僕は、大きなスーツケースを牽いてキャンベルタウンにやってきました。1泊4,000円のモーテルで昼寝をしていると、突然神が現れて言われたのです。「汝、今何時と心得ておるか。1週間で汝の世界を創り上げよ」僕は飛び起きて、駅前の不動産屋に走りました。

月曜日、男は不動産屋5軒を回り借家物件リストもらって、入念にチェックしました。

火曜日、男はレンタカーを借りて、ピックアップした10軒の借家を見て回りました。

水曜日、男は車で海へ・・・。神よ、許し給え。目当ての家は大家の解答待ちなのです。

木曜日、男は大家と契約を交わし、庭と家の大掃除。電話、電気、水道も接続しました。

金曜日、男は家具と電気製品を買い、インターネットを接続しました。

土曜日、男のもとに日通シドニー支店から保管していた船便の荷物が届きました。

日曜日、男の初めての安息日です。

借りた家は日本流に言うと、駅から徒歩5分、敷地200坪、3LDK,築30年、家賃52,000円。台所は電気コンロで、お湯も出ます。ライフラインの接続は電話1本で済みました。リサイクル先進国で中古市場が発達しているから、家具や家電が安く手に入ります。日本にも日曜大工の店がありますが、こちらはもっと徹底しています。DIY,汝、すべて自らの手でなせよ。新品の家具や電気製品はキットや半完成品が多く、自分で組み立てなければならないのです。それはいいけど、図面がいい加減だったり、部品が足りなかったり、ネジが合わなかったり、なんて当然。買った店に文句を言うと、「その部品なら雑貨屋で売ってるよ。何が問題なの?」といった調子です。時間にもルーズだそうで、すべての大物がその日のうちに配達されたのはラッキーだったのかも。故障して修理を頼んでも対応がアバウトそうなので、電気製品は新品を購入。結局総計で100万円ほどの出費ですが、出て行く時に売れば何割か戻りますからまあいいか。引越しはあっけなく終了。中華レストランで食事です。神よ、今宵のお恵みに感謝します。ラーメン。




その3: タランチュラ出現

話は戻りますが、モテル住まいの2日目朝、警察からお呼びです。前日公園でなくしたデジカメが届いていました。デジカメに日本の写真と、モテルの写真と、僕の写真があったので、すぐに落とし主を特定できたのでした。「ガッ、ダイ!」道ですれ違う人は陽気に挨拶を交わします。駅の券売機に戸惑っていたら、気風のいいインド人が教えてくれました。葉書を持って歩いていたら、小学生たちが郵便局まで連れて行ってくれました。公衆電話がつながらなくて困っていた時なんて、金髪のお嬢さんが手を取って教えてくれたのです。これには本当に感激しましたね。

引越しから間もない朝、寝室の壁を巨大なクモが這いずり回っていました。古い家には毒グモが巣食っているとは聞いていましたが、こんなに早々とお目にかかれるとは。ゴキブリだって大型品種がご挨拶にやってきます。厄介者はどこにもいます。市役所で教えられた通りにゴミを出したのに、夕方になっても収集車が姿を見せません。「1日くらい遅れて何が問題?」「私たちは逆に少し生まれるのが早かっただけよ」「何でも面倒みてあげるわ」おしゃべりなご近所の独身3人組の老婦人たち。僕が独身の引退内科医とと聞いて3人の目が妖しく輝くように感じました。僕は身震いをして家に戻りました。夕方は急に冷え込みます。

3人はあまりいい身なりではありません。住まいも僕の家より質素です。1人は車を持っていますが,ポンコツを通り越して粗大ゴミ。日本では今や珍しいバックファイアを連発し、銀行強盗の車みたいです。この国では物を捨てたり、粗末にする習慣はありません。まだ十分住める家を壊して新築することはまずありません。古い車や家具や衣類などは中古品として売買されます。車体が傷だらけでも走行距離が20万キロ以内なら新品だと勘違い、30でやっと己を知り、40にして惑わず、50にして立つ、60万キロでも立派な現役です。

オージーは実用本位で、飾ったり、体面を気にはしないのです。前歯が欠けた淑女、鼻にカットバンを貼った紳士、破れ傘の中学生、超おデブの中年カップル、誰もが堂々としています。いい服を着たり、化粧をしたり、気取ったり、ええ格好しーはしません。本来砂漠の国ですから水資源は貴重。入浴や洗濯はあまりしないのでおしゃれが育つ要素もありません。背広に短パン、ジーパンにターバン、サリーにカーボーイハットなど、はっとするような妙な組み合わせも平気です。

オーストラリアは人種の坩堝です。広大な国土に1800万人の人口、世界200カ国のうち150カ国以上の人がここに住んでいます。多数の言語と文化が共存しています。人口は過疎でも、文化の密度は日本の比じゃありません。




その4: 愛と節操は地球を救う

日本の文化って本当にワンパターンで即物的ですよね。文化と呼べるのはせいぜい厨房器具か電気製品、あるいは劇場かパチンコ屋か宗教団体っていう程度。雑誌や新聞で文化を名乗っていても羊頭狗肉、売らんがための苦肉の策でしょう。あえて精神性を捜しても、せいぜい流行かムード。うまいもん食って、趣味の悪い服着て何が文化人ですか。グルメにブランド、英会話とパソコン、携帯と出会い系サイト。「愛モード使えない大人って程度が低いーって言うか、貧しーい感じがするじゃないですか」そうなんです、文化って愛なんです。入浴と洗濯が嫌いなコギャルにはこちらはピッタリです。もう1つは節操・・・つまり禁欲と克己がなければ、それは文化じゃなくて退化、単なる享楽ですよ。

ワーホリや海外駐在を終えてオーストラリアから戻った日本人は、家の狭さと物価の高さと文化の浅さを嘆きます。こちらの物価は日本の半分というところ。例外は新車とタバコ。車は最大の粗大ごみ。どこの国も対策に苦慮しています。こちらの中古車市場は充実しています。そして、公共の場はすべて禁煙。一方酒は、ビールもワインとも安い。しかし酔っ払いの姿はあまり見かけません。駅周辺や商店街は飲酒禁止区域に指定されていることが多いのです。

物価だけではなくて、税金も安い。相続税はないし、土地や家を売って利益が生じても無税です。税収が少ないので役人も無駄使いはできません。猫も杓子も大学へなんてことはなく、高卒で労働者。住宅ローンで2-300万円のワンルーム・アパートからスタート。所得に応じて買い換えて、夢はプールつきの2000万円の一軒家。衣食住に無駄金を使いません。とりあえず腹が膨れて、夜露が凌げればいいのです。公共料金は安く、スポーツやレジャーや教養には安い公共施設が控えています。これなら少しくらい贅沢をしても年間200万円でやっていけそうです。

ゴミは、一般ゴミ、リサイクルゴミ、有機ゴミの3種類に分別。庭から出たゴミは堆肥やチップにしてすべて自然に戻します。徹底したリサイクルのため、ノート類は紙質が悪く、トイレットペーパーの幅は寸詰まり。缶ジュースはほとんど見掛けません。ペットボトルやプラスチック製品は頼りないほど薄っぺら。ポリの買い物袋が手に食い込みます。それでも誰も文句は言いません。

物だけじゃなく人も大切に扱います。オージーは争いごとを好みません。弱者に親切です。駅でもモールでも公園でも、障害者が電動車椅子で一人で行動しています。ボランティア2人がかりの日本式障害者外出風景はオーマイゴッド、おままごとです。シドニー近郊の電車は2階建てで、各車両ごとに入り口付近に乳母車や自転車や車椅子が乗れる広い場所があります。どの街にも働く女性のための託児所があり、子供を大事にします。役所や図書館では外国からの旅行者や居留者にさまざまな援助をしています。愛と節操こそ文化、真のリッチなのです。

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