代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

【書評】真田幸光著『ドル崩壊、アジア戦争も探る英国王室とハプスブルグ家』(宝島社新書、2012年)

2013年04月28日 | 真田戦記 その深層
  「真田」という姓、「幸」という通字で分かる通り、著者は信州松代藩真田家の出である。金融業界で長く活躍された後、現在は愛知淑徳大学の教授。
 書名だけ見ると、何か陰謀論の本かと思われるかも知れないが、内容はきわめて真面目である。著者はドルが基軸通貨の地位から崩落した場合、日本が選択可能なオプションを複数検討し、著者の見解を提示する。

 冒頭、「世界の支配層の意思」には、尖閣問題をこじれさせて日中戦争を起こさせるというシナリオが既に視野に入っているという分析が述べられる。これは陰謀論でもなんでもなく、多くの方々がすでに危惧しているところかと思う。著者の真意は、その最悪のシナリオが排除できない中で、いかにしてそれを回避し、日本が最善の道を選択するかという点にある。
 著者は、ドルが基軸通貨から転落した後、イギリスのスターリングポンドが基軸通貨として復権するという可能性があり、日本はイギリス連邦と連携を強め、アメリカと対抗しながら生き残るというオプションがあるという。日本が、イギリス連邦にオブザーバー参加するという選択も提示する。
 
 私は日本はアジアに回帰すべきと考えてきたので、著者の提示するような進路は全く考えたこともなかった。しかし、選択可能はオプションは複数ある方がよい。著者の提案は一つの選択肢として考えておくべきだと思った。詳しくはぜひ、この本を読んでいただきたい。
 私がこの本を紹介しようと思ったのは、著者の次の発言に惹かれたからである。

***真田幸光、前掲書、188頁より引用****

 私の先祖である真田昌幸(幸村の父親)が、信州の小さな国を、上杉謙信や武田信玄や徳川家康から守って、長男の真田信幸に残し松代藩になったように、世界の荒波に耐えうる日本になれると信じています。

***引用終わり****

 同感。現在の日本の立場というのは、武田家が滅亡した後の真田昌幸が置かれた位置に似ている。
 武田家滅亡後、信州と上州の一角に孤立した真田昌幸は、北条、徳川、上杉という近隣の大勢力が上信二国を併呑しようと進攻する中で、三勢力の対立をうまく利用しながら、三勢力のあいだをたくみに泳ぎ回って独立を維持した。
 北条=アメリカ、徳川=中国、上杉=ロシアなどとたとえれば、いまの日本に似ていることがわかるであろう。日本は、真田昌幸の生き残り戦略から学ぶべき点は多いと思うのだ。

 周囲を大国に囲まれた小国が独立と主権を維持するためには、大勢力のいずれにも従属することなく、ある大勢力からの理不尽な要求に対しては、別の大勢力の力をうまく利用しながら、それを回避していくしかない。

 当時の昌幸は、北条→徳川→上杉と次々に主家を乗り換えたために、「謀略家」「表裏比興」などというレッテルを貼られ、そうした評価が定着している。不当な評価だと思う。
 真田から見たら、北条も徳川も上杉も我が領土を狙う侵略者だった。彼がどこかに一方的に加担して、その勢力を勝たせてしまえば、その時点で独立は失われてしまう。
 真田の主権を維持するためには、三勢力を互いに争わせて、力を均衡させ、どこにも勝たせてはならないことになる。独立を維持するという目的のためには、それ以外の方法などあり得ないのであって、表裏もなにもない。

 昌幸が北条に臣従していたら、北条が上信二州を併呑していただろうが、昌幸は独立大名としては生き残れず、北条の一家臣として生涯を終えねばならなかった。よって徳川に乗り換えて、北条を信州から駆逐した。しかし今度は徳川が信州を併呑しそうになったから、上杉の力を借りて徳川を追い出した。その間に家康に痛打を浴びせ、家康の力を削ぎ落とし、結果として家康が秀吉に臣従せざるを得なくなる状況に追い込んでいる。

 今の日本も真田の置かれた位置と同じで、米国に盲目的に従属しようとすれば、独立を維持できなくなる。主権がまさに失われようとしているのに、「主権回復」などと虚勢を張っているいる場合ではない。
 真田にとって、上杉を頼って徳川と戦うという道は、まさにウルトラC的であったが、それを思えば、英連邦にオブザーバー参加するという著者の提案も、荒唐無稽とはいえないだろう。 


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