代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

国土強靭化計画は国土を脆弱化させる

2014年10月05日 | エコロジカル・ニューディール政策
 10月2日、江戸川スーパー堤防の計画取り消しを求めた住民訴訟で、東京高裁は住民側敗訴を言い渡した。行政と司法が、「公益性」を言い立てて、いやがる人々を無理やりに立ち退かせていく・・・。いったいどこの社会主義政権の所業だろう。やることが中国並みになってきた。しかも、その「公益性」たるや、全く科学的な根拠のないシロモノなのだ。
 TBSのニュースでは立ち退きを迫られる住民の思いを伝える秀逸な報道をしていた。TBSニュースの動画は以下のサイトで見られる。日にちが経つとリンク切れになるのでお早めに視聴されたい。

 
住民「スーパー堤防はムダ」、東京高裁「公益性からみて適法」
http://news.tbs.co.jp/sp/newseye/tbs_newseye2312483.html

ニュースの中から一部引用させていただく。

 
***TBSの前掲サイトより引用****

2日の控訴審判決。東京高裁は、「転居を余儀なくされる住民には一定の不利益も予想される」としたものの、「区の事業には公益性があり違法とは言えない」として、住民側の訴えを退けました。

 「残念ですね。ついのすみかと思っていたのに」(原告 高橋喜子さん)
 「ひどいもんだよ。江戸川区は人間を大事にするんじゃなくて、堤防を大事にしている」(原告 高橋新一さん)


***引用終わり******

 北小岩1丁目のスーパー堤防はわずか120mの区間で総費用が47億円かかる。単純計算で1mの堤防を整備するのに4000万円が必要なことになる。堤防というものは線としてつなげて意味がある。120mの区間に「点」としての盛り土を行ったところで安全に寄与することはない。実際にはかえって危険な箇所を増やすだけなのだ。そんなお金があるのであれば、その100分の1の予算でできる堤防強化工事に取り組むべきなのだ。47億円あれば、12kmの区間の堤防を強化できる計算になる。それだけで江戸川の安全性は飛躍的に向上するであろう。
 最近では、スーパー堤防に反対するだけで、「安全を軽視する気か」と怒鳴られ、ひどいときには非国民扱いされたりする。しかし冷静になって、納税者としてよく考えていただきたい。47億円でいやがる人々を無理やりに立ち退かせた上でわずか120mの区間を整備するのと、その47億円で誰も立ち退かせることなく12kmの区間の堤防を耐越水型へと強化するのと、どちらが安全のために有効な手段だろうか? どちらが費用対効果の高い事業だろうか?

 スーパー堤防がいかに意味がないか、次の説明がわかりやすいので、そのまま掲げておく。北小岩の次にターゲットになっている篠崎地区で立ち退かされる人々が抗議してつくった看板の中にあった説明である。




 現在、江戸川区の篠崎に行くと立ち退き対象の区域に反対ののぼり旗が林立している。現地の写真をいくつか掲げておく。






 スーパー堤防でお墓ごと移動される予定の日蓮宗妙勝寺。正面にあるのは日蓮上人の像。心なしかお怒りのご様子に見える。この仏罰を畏れぬ不届きな事業を進める責任大臣が日蓮信者であることを、上人はどう思っておられるだろうか。

 スーパー堤防事業のために必要な膨大な量の盛り土はどこから持ってくるのだろう? 土砂の採掘現場の環境を逆に破壊し、住民の危険性を高めるのではないだろうか。

 愛知県豊田市で砂利の過剰採掘で道路が崩落の危機にあり、業者が刑事告発された事件。各地で展開される「国土強靭化」計画に基づく公共事業で発生した、砂利の超過需要が、こうした強引な採掘を促す誘因になっているのではないか?
 国土強靭化は国土の脆弱化につながる。




 
 スーパー堤防以上に膨大な量の盛り土が必要になる、高さ9mを超える巨大防潮堤計画。三陸海岸沿いにこんな醜悪な建造物をつくられたら、三陸の美しさも台無しで、観光客も離れるだろうし、地元の人びとも郷土への愛着を失っていくだろう。それは復興の妨げでしかない。


出所)日本自然保護協会『自然保護』2013年7・8月号より


 遺憾ではあるが、司法も議会もすべてが無力である以上、この官・業・学の利益相反トライアングルによる狂気の暴走を止められるのは、日本の財政破たんしかないのだろう。戦前の軍部の暴走と同じで、破滅するまで誰にも止められない。恐ろしい国である。

 私のブログの過去記事を見ればわかるが、私は小泉緊縮財政の頃は、郵貯を民営化しなければ財政破たんはしない、公共事業のやり方を十分に経済波及効果のあるものに変えるという条件で、積極財政をすべきだと主張し、緊縮財政と郵貯民営化を煽り立てるマスコミを批判していた。
 しかしながら、頼りの郵貯も民営化された今、まったく経済波及効果のない事業に湯水のごとく公共事業費が投入されているから、本当に国債暴落の危険性が高まっている。しかるにマスコミは沈黙している。彼らは、オオカミなどいないときに「オオカミが来る」と煽り立て、本当にオオカミが来たときに沈黙するのだ。もう絶望するしかない。


 
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