代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

拝啓 最高裁判事殿 これは著しい不合理ではないのですか? 

2014年10月26日 | 八ッ場ダム裁判
 
 八ッ場ダム住民訴訟、原告は最高裁に上告する。この裁判は「八ッ場ダムの受益者」とされる流域の一都五県の住民が、全く益のない(どころか害悪の方が大きい)、八ッ場ダム建設に、各都道府県から治水・利水負担金が支払われることを差し止めることなどを求めた訴訟である。

 東京高裁は一都五県の住民の訴えをすべて退けた。判決の骨子を要約すれば以下のようなものだ。

 国から自治体に公共事業の負担金支払いを求める納付通知書が来たら、それを拒否する権限は自治体にはない。ただし計画が著しく合理性を欠き、重大かつ明白な瑕疵が存する場合は例外であって、この限りではない。八ッ場ダム建設に関して、著しく合理性を欠き、重大かつ明白な瑕疵があるとまでは言えない。

 国が公共事業を行って、自治体に請求書を突き付けた場合、多少不合理な点があっても、誰の目にも分かる甚だしい不合理でない限り、自治体は粛々と負担金を払わねばならないのだと。
 
 この判決は以下のように、二重に誤っている。

 ① 八ッ場ダムの建設根拠は、小学生が見ても笑ってしまうような、全く合理性のない、誤ったものである。誰の目にも分かる著しい不合理であるから、住民は負担金を払う必要はない。

 ② 仮に、巧妙なトリックで不合理性が隠蔽されていたとしても、精査して不合理であることが明らかになれば、やはり負担金を払う必要などない。なぜなら、憲法で規定されている地方自治の本旨とは、地方自治体は国から独立して自らの意志で政策を決定できる対等な存在であることが原則だからである。
 

 東京高裁の判決は、「絶望の裁判所」と言うよりほかないのである。最高裁において誤りが正されることを希求する。この問題、再度、論じてみたい。

(1)小学生も笑ってしまう水需要予測の不合理

 10月6日の『東京新聞』特報面に掲載されていた東京都における実績の水需要(一日最大給水量)と、八ッ場ダム建設の根拠となっている東京都の水需要予測の図を再掲する。
 小学生がこの図を見れば、実績(実線)と都の予測(点線)の乖離の大きさをただちに認識し、その予測が実現する可能性など、ほとんどゼロであることをたちどころに理解するであろう。そして、大人たちがダムを造りたいがために、このようなバカげた予測をしているのを知って笑うだろう。そして言うだろう。「僕たちは借金まみれで暮らしたくない。税金をバカなことに使うな!」と。





(2)中学生が戦慄する非科学的計算 

 八ッ場ダム建設の治水面での根拠は、1947年のカスリーン台風洪水が再来すれば、利根川の治水基準点で2万2000立米/秒が流れるというものである。1947年のカスリーン台風の当時の推定流量は、論者によって幅があるが、1万2000立米/秒~1万7000立米/秒というものである。下の図を見て欲しい。各年度ごとに発生した最大洪水のピーク流量をグラフにしたものである。
 国交省は利根川における既往最大洪水である1947年のカスリーン台風の当時、伊勢崎市の治水基準点に流れたピーク流量は推定1万7000立米/秒であると主張している。ところが現在、全く同じ雨が再来すれば2万2000立米/秒に増えるというのだ!(図中にある点線=基本高水流量) まず、この時点で小学生でも不思議に思い、これは著しい不合理だと感じ、国の計算を笑うだろう。

 



 しかし、深く考えることができる中学生ぐらいになれば(いや小学生でも)、1947年当時、最大で1万7000立米/秒しか流れていないのに、2万2000立米/秒に増えることがある可能性もあるということに思い当たるであろう。もっとも有力な可能性は、森林が伐採されてハゲ山だらけになるから洪水流量が増えるというケースが考えられる。

 しかし1947年当時と近年の航空写真を見比べてみれば、たちどころにその予想が該当しないことが分かるであろう。1947年当時の利根川上流域は上の白黒写真のように、戦前・戦中の過伐、過剰薪炭採取などにより著しく荒廃していた。近年は下の写真のように森林は回復している。
 ふつうの中学生であれば次のように推論するだろう。「山地が荒廃していた1947年の当時に台風の雨で1万7000立米/秒が流れたとするならば、森林が回復した現在に全く同じ台風が再来したとして流れる量は1万7000より低くなるはずである」と。

 

1947年の榛名山麓


近年の榛名山麓

 実際、その推論が妥当なのである。森林が回復したのに、逆に洪水流量が増えるなどということは天地がひっくり返ってもあり得ない。

 以上、八ッ場ダムの建設根拠は、著しく不合理で明白な瑕疵である。

(3)裁判所は参考までに実際にアンケート調査をやってみては如何?

 絶望の裁判所は、これらが「著しい不合理とまでは言い切れない」と主張する。この際、裁判官は日本国民にアンケート調査を行ったらどうだろう。利水と治水のダム建設の根拠、著しい不合理か、あるいはそうでないか?
 実際にこのアンケートをしてみれば、おそらく90%の国民は「著しい不合理」と答えるのではなかろうか? 本当にやってみようかな・・・・・。読者の皆様、知恵をお貸しください。


 ちなみに、この裁判の判決の問題点の詳細を、まさのあつこさんがyahooニュースに書かれている。詳しく知りたい方は以下の記事を参照されたい。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20141016-00040002/


PS 八ッ場ダムの受注業者から多額の政治献金をもらっていた小渕優子経産相が辞任。あー、八ッ場関連の政治献金もあんなことに使われていたのか。元をたどれば私たちの税金なのにね・・・・。

 

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