古今亭志ん生の噺、「権兵衛狸」(ごんべいだぬき)によると。
王子の在に権兵衛さんという独り者が住んでいた。
近所の若者が権兵衛さん家に集まって楽しんでいた。
ある晩みんなが帰って戸締まりをして寝ると、表の戸をドンドンと叩き「権兵衛、権兵衛」と呼ぶ声が聞こえた。
表に出てみたが誰もいなかった。
また横になると、表の戸をドンドンと叩き「権兵衛、権兵衛」と呼ぶ声が聞こえた。
表に出ると誰もいない。
何回か同じ事が繰り返された。
権兵衛さん考えた。
これは狸の悪さでないかと。
そこで、戸を閉めて、戻った振りをして戸に手を掛けて待っていた。
狸は後ろ向きになって、頭の後ろでドンドンと叩いていた。
「権兵衛、権兵衛」と言うが早いか引き戸をガラッと開けると、狸はもんどり打って土間に転がり込んできた。
格闘の末、生け捕って、天井から吊しておいた。
翌朝、友達が訪ねてきてこの狸を見つけた。
「わしも、先日土橋を渡ろうとすると、お婆さんが川に転げ落ちた。
寒かったが飛び込んでやっと助け上げた。
橋に上げて『婆~さまよ~。しっかりしろよ~』と声を掛けて、よく見ると炭俵だった。
それはこの狸がやったのだ。
皮を剥いで狸汁にして、革は襟巻きにするから俺にくれ」。
「それはだめだ。今日はとっつぁまの命日だから、逃がしてヤルだ」。
狸を梁から降ろして、「何でお前はそんなに悪さをするのだ。
だから狸汁にして食ってしまおうと言われるのだ。
悪さをしない狸だっているのに、お前が悪さをするのでみんな悪狸になってしまうのだ。
今日は逃がしてやるが、背中の毛を刈り取ってやる。
夜風に吹かれて寒い思いをしたら思い出して悪さをするな」。
権兵衛さんハサミで背中の毛を刈り取った。
頭も伸びていたので刈ってやって、逃がした。
これで、今晩はゆっくり寝られるだろうと思っていた。
枕に着いてトロトロっとすると、表の戸をドンドンと叩き「権兵衛さん、権兵衛さん」と呼ぶ声が聞こえた。
「また来やがったか、昨夜は権兵衛だったが、今晩は権兵衛さんと”さん”付けで呼んでいやがら」。
権兵衛さんハサミを持ってそーっと戸に近づき、ドンドンと叩いた拍子に戸を開けると、狸が飛び込んできた。
「さっきは背中と頭を刈ってやったのに、まだ分からないか。」
「すいません。今度はヒゲをやってくださいな」。
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