【辛坊持論】心に残らなかった安倍首相の戦後70年談話
この文章を作った人物は、皮肉を込めて言うなら「天才」だと思います。先週金曜日に閣議決定された安倍晋三首相の戦後70年談話です。
この文章には、中国、韓国や日本のリベラル系メディアなどが「この単語を入れないと、徹底的に批判する」と身構えていた4つの単語を織り込みながら、逆に「その単語を使うと安倍政権を見限る」と、これまた談話の行方を固唾(かたず)をのんで見守っていた保守言論人の欲求も満たすというウルトラCの技が使われています。4つの単語とは「侵略、植民地支配、反省、おわび」です。
談話の中には明確にこれらの単語が使われていますが、例えば「侵略」一つとっても、「二度と用いてはならない」としているだけで、かつての日本の行動が「侵略」であったとは一言も言ってません。
この談話について、日本国内の左派系メディアは「文章に主語がない」と徹底批判していますが、中国、韓国の反応は想像以上に静かです。「一体なぜ?」と、政府が用意した談話の公式英訳を読んで分かりました。なんと、安倍総理が読み上げた談話で主語が省かれていた文章に、英文バージョンではすべて主語があるんです。
たとえば談話中盤の決めぜりふ、「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」に、日本語の原本では「誰が」に当たる主語がありませんが、英文ではハッキリと主語として「WE」が用いられているんですね。もちろん「WE」は単に「私たち」という意味しかありませんから、「我々人類」と解釈できなくもないですが、前後の文脈や談話の意義からいっても「WE」は「日本」を意味すると考えるのが当然でしょう。これじゃあ、中国、韓国は「主語がない」と批判できません。
結局、今回の安倍総理が70年談話で目指したのは、村山談話、小泉談話に批判的な日本国内の安倍総理支持層を満足させることだったんですね。そして各方面の反応を見る限り、その試みは成功したようです。でも正直、心に残る談話だったとは思えません。
私がこの談話から強烈に感じたのは、みんなが少しずつ不満だけれど、みんながそれなりに理解する内容、そんな「最大公約数」を目指さなくてはならない政治家の悲哀だったんです。((株)大阪綜合研究所代表・辛坊 治郎)
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