私的感想:本/映画

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アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』

2015-09-12 22:13:25 | 小説(海外作家)
 
キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。
福田恆存 訳
出版社:新潮社(新潮文庫)



久しぶりに読み返したけれど、非常にすばらしい作品だった。
老人の運命に対する悲壮さが、しんしんと胸に突き刺さってくるあたりがまず見事。
そんな彼の姿が忘れがたい余韻を為しており、短いながらも、抜群に読み応えのある一品である。


不漁が続く漁師のサンチャゴ。そんなある日、一人で海に出た彼は巨大なカジキマグロを引き当てる。そういう話だ。

その魚を釣り上げるまでが、とてつもない困難の連続で痛ましい。
引き上げようにもでかすぎて、引けないし、手の皮はすりむけるなど、翻弄されることもしきり。

そんな状況に対して、「あの子がいてくれたらなあ」と親しくしている少年のことを思い出して、やや弱気な気持ちにだってなったりもする。
何しろ、彼が魚をひっかけたのは、大海のど真ん中なのだ。
誰も仲間もついていない、たった一人の状況の中で、自分一人で釣り上げられるかもわからないカジキマグロと対峙する。。。
その状況はあまりに孤独で過酷としか言いようがない。


だがそれでもサンチャゴは、その獲物を必ず殺してやる、と誓って、カジキマグロに挑む。
くじけそうになる場合でも、敵に打ち勝とうと、己に言い聞かせるサンチャゴの姿は、幾分悲壮でさえある。

そんな敵とも言うべきカジキマグロに対して、老人は長いこと戦っていくうちに、親近感とも敬意ともつかない感情が芽生えてくる様がおもしろい。
「あの堂々としたふるまい、あの威厳、あいつを食う値打ちのある人間なんて、ひとりだっているものか」とまで感じているのだ。
その少年マンガのような思いの熱さは胸に響いてならない。


そうして長い戦いを繰り広げ、意識ももうろうとなり、気を失いかけながらも、サンチャゴはカジキマグロを釣り上げる。
長い闘争の果ての勝利と言っていいだろう。

しかしその戦いも、サメの襲撃によって台無しになってしまう。
サメが襲って来た時、老人には、それが勝ち目のない戦いだということはわかっていた。
それでも、彼は戦わざるをえなかった。
そんな老人の姿はどこか悲惨で、哀れで、虚しくて、悲劇的に見える。

自然はあまりに残酷としか言いようがない。
自分が釣り上げたカジキマグロをそんなわけで、傷つけられ、何も彼に残らないことが決定的になってしまう。
サンチャゴに襲うのはただただ諦念だけだ。
そしてそこには幾ばくかの絶望もあるだろう。

それでも必死に戦ったサンチャゴの姿は崇高さに満ちてもいるのだ。
絶望的な状況下にあっても、人間には何か譲れざる強さというものがあるのかもしれない。その様がしんしんと胸に響く作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



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