湖のような青い瞳、輝くブロンド。子供をなくした老漁夫のもとにどこからか現われた美少女ウンディーネは、実は魂のない水の精であった。人間の世界にすみ、人間の男と愛によって結ばれて、魂を得たいとねがったのだ。――ヨーロッパに古くから伝わる民間伝承に材をとった、ドイツロマン派の妖しくも幻想的な愛の物語。
柴田治三郎 訳
出版社:岩波書店(岩波文庫)
古典的ロマン小説である。
古典であるゆえの不満は否応なくあるのだけど、展開もスピーディで、物語としておもしろい作品であった。
悲恋物語として悪くない作品である。
ともかく目を引くのは物語の捌き方だ。
150ページにも満たない作品だけど、その中には
騎士がふしぎな女と出会う。恋に落ち、結婚する。しかしいくつかの困難に出会う。
といった多くのエピソードがつぎ込まれている。
フルトブラントの心がウンディーネから離れるきっかけがえらい雑な扱いだな、と思ったり、ご都合主義が目立つ点(たとえばベルタルダと漁師が親子だというところ)が難だし、ベルタルダがいくらなんでも悪役扱いしすぎという気もする。
だけど、読み手を飽きさせず、物語に引っ張りこむ力はすばらしい。
しかし悲恋物語とは言え、ウンディーネもかわいそうだ。
水の精霊であるゆえ、フルトブラントはどうしても彼女を恐れてしまう。
しかもそれは必ずしもウンディーネの側に罪があるとも思えないところがつらい。
ベルタルダともウンディーネは仲良くしたいと思っているけれど、結果的にはベルタルダに踏みにじられたようなもの点と言うところも哀れだ。
加えて最後はフルトブラントを殺さねばならない宿命を背負うこととなる。惨い話である。
そんな悲惨さと、物語としてのおもしろさが、本作を古典として今日まで残す一要素になったのだろう。
物足りなさはあるが、古典らしい味わいのある一品である。
評価:★★(満点は★★★★★)