私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」

2014-03-10 20:01:50 | 映画(な行)

2013年度作品。アメリカ映画。
『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン監督が、しばらく疎遠になっていた父子が、モンタナ州からネブラスカまでの車での旅を通して歩み寄っていく姿を描く人間ドラマ。
監督はアレクサンダー・ペイン
出演はブルース・ダーン、ウィル・フォーテら。




パンチは弱いが、滋味深い作品である。それが本作の率直な感想である。
そう感じたのは、親と子の関係を丁寧に描いているからだろう。


物語は、老いた父がどう見てもインチキとしか見えない手紙を信じ、宝くじが当たったと思い込んでネブラスカまで賞金を受け取りに行くところから始まる。
父はガンコなため、周囲の説得にも耳を貸さず、周りの人間はうんざりする始末。

母親などはその口撃の急先鋒で、やかましく父を攻め立てる状況だ。
このエキセントリックなまでの妻の口撃には、見ているこちらまでげんなりしてしまう。


次男のデイヴィッドもそんな父に辟易しているが、彼だけが父親の願いを叶えようとして行動する。
彼が動く理由は、たぶん親に対する愛情、家族愛によるところが大きいのだろう。

だがそんな家族愛は、激しい口撃を父にくり返していた母にも言えるという点が良い。
彼女は相手を圧倒するほどの次々と言葉でまくしたてるけれど、その裏では旦那のことをちゃんと心配しているのだ。その関係は何よりも良い。


さて問題の当事者である、父親は基本的には物事を信じやすい人である。
そのせいでほかの人間につけこまれ、軽んじられている節もある。

だがそんな父に対する周囲の態度は、彼が金をもっていると知った途端、がらりと変わってしまう。そして何とかして金をたかろうとするのだ。
この態度の変化はかなりリアルだ。

だがそれが一点、ガセネタだとわかれば、すかさず元の態度に戻る。
こちらもリアルである。それだけに、周囲のヤツらのひどさは際立ってくる。


だからこそ、むかしの父の共同経営者に対する、息子の行動は胸がすくのだ。
彼の行動は父を守りたいという思いの表れと見える。
そこにあるのは親子のきずなだ。

そんなゆるやかな親子の姿を丁寧に描いていて、好ましい。
しんしんと沁みる一品だった。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「夏の終り」

2013-09-03 05:30:51 | 映画(な行)

2012年度作品。日本映画。
瀬戸内寂聴が自身の体験を基に描き、100万部を超えるベストセラーとなった同名小説を、満島ひかり主演で映画化した大人のラブストーリー。『海炭市叙景』で高い評価を得た熊切和嘉監督が、小林薫演じる年上の男と、綾野剛演じる年下の男という2人の間で揺れ動くヒロインの心情を丁寧に描き出す。
監督は熊切和嘉。
出演は満島ひかり、綾野剛ら。




原作がいまいちだったので、見るべきか迷ったのだが、予告編がおもしろそうだったので結局見ることにした。

率直に語るならば、原作よりも映画版の方が個人的には楽しめた。
後半はややダレるけれど、前半部は緊張感があっておもしろい。

そしてそう感じられたのは、満島ひかりをはじめとした俳優陣の存在が大きいだろう。



主人公の知子は妻のある男慎吾と不倫関係にある。
冒頭の慎吾との生活描写は、ほとんど夫婦のようだ。満島演じる知子も、良き妻のようになじんだ雰囲気がある。

しかし知子は、自身が熱が出て寝込んでいるとき、元彼を呼び出すようなことを平気でしている。のみならず、そのことを慎吾にも平気で話すような女だ。
不倫相手とは言え、そんな知子の行動は、慎吾としてもおもしろくないだろう。
涼太も評するように、知子の行動は、無神経そのものだ。

しかし知子の行動には、邪気というものが感じられないのだ。
それだけに、男の僕としては理解できない分、おもしろく、同時にぞくりとさせられる。


そんな彼女の無神経な行動の中には、男に対する媚びや甘えもほの見える。そのあたりがなかなか興味深い。

元彼の涼太を呼び出すときの、来て、というときのトーンや、不倫相手の家に乗り込んだとき、男の着物の襟をひっぱりながら話すところなどは、特にそう思う。
そうすることで、知子は、自らの女性性を男たちにアピールしているのだ。

だが知子は、そういった女を前面に出すような媚びや甘えに対しても、無自覚に見える。

そこが僕にはやっぱりおもしろく、やっぱり恐ろしい。
そして碌でもない女だな、と正直な話、思ってしまうのだ。


それに限らず、知子は僕の(恐らく何割かの観客の)共感を拒むような女でもある。

涼太に向かって、憐憫であなたとつきあっているだけだ、と感情的なことを言ったり、涼太に対して妻と仲良くしている慎吾の悪口を言ってみせたり、と、こいつひどいわ、って思う場面はいくつかある。

原作ではそこまで思わなかったけれど、映画版の方の知子は、感情と感覚を無自覚に発露しており、無神経さが際立っている。
原作同様、映画版の知子も僕には理解できない。
だが同時に変な生々しさも感じられるのだ。


そしてそんな変な生々しさこそ、、満島ひかりの存在抜きには語れない。
共感できるできないにかかわらず、彼女の表現力には終始圧倒されるばかりだった。
特に女の媚びや甘えを、表情と行動で的確に表現したところは絶品である。
本当にいい女優だと心から思う。



演技つながりで言うならば、小林薫もまた見事だった。

彼は不倫している作家なのだが、なかなか細やかな男で、女のためにふとんを敷いてあげたり、雑巾がけを行なったりと、甲斐甲斐しいところがある。
それでいて知子から妻とのことを問いただされるときには、気弱さと、ずるさと、甘えが透けて見えるのだ。
それを表現するところはさすだと思う。

また綾野剛も、ほかの二人に食われてしまった感はあるが、いい演技をしていたと思う。



プロットは盛り上がりに欠けるので、ストーリーとしての楽しみは乏しいかもしれない。
加えて主人公に共感することも難しいだろう。

しかし俳優陣の演技は本当にすばらしく、そこから生み出される空気には、ただただ心を持っていかれる。
それだけでもこの作品を見た価値はあったと心から感じる次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



原作の感想
 瀬戸内寂聴『夏の終り』

「嘆きのピエタ」

2013-08-09 05:32:05 | 映画(な行)

2012年度作品。韓国映画。
天涯孤独の借金取り立て屋と、彼の前に現れた母を名乗る女性との交流が導く思いがけない真実を、二転三転する物語の中に描いたサスペンス。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。監督は「うつせみ」で同映画祭監督賞を受賞したキム・ギドク。出演はテレビドラマ『ピアノ』のチョ・ミンス、「マルチュク青春通り」のイ・ジョンジン。




キム・ギドクと言うと、良い意味で変態だというイメージがある。

僕は初期の作品しか見たことはないが、
「魚と寝る女」はラストの女の行動の異常さに引くし、
「悪い男」は恋愛観が屈折しているし、
「弓」のじいさんは文字通りの変態ロリコンだし、
「うつせみ」の最後はいい意味で、んな関係あるか、って内容だ。
それ以外でも、「サマリア」のようにいくらかの変化球を投げるパターンが多い気がする。


本作の「嘆きのピエタ」も普通の映画というよりも変化球系の映画とは思う。
しかし結末自体は至って普通であると感じた。そのせいで肩透かしを食った感はある。

だがそこはさすがギドク。普通であっても、きっちり内容は面白いのである。
これぞまさにキム・ギドクの力量だろう。



主人公は借金の回収を行なうチンピラだ。
この男がギドク作品らしく、実に暴力的だ。金を回収するためなら、相手を障害者にすることも辞さない。おかげで相手からは悪魔と罵られ恨まれる始末だ。

そんな彼の前に、母親だと名乗る女が現れる。
男はそれを疑うが、やがて彼女が本当に自分の母親なのだと信じるようになり、彼女に甘えるように接していく。

その設定を見たときは、つくりすぎだな、とは感じた。
だが、そんな女の行動にはちゃんとした理由があるのである。
その理由があまりにまっとうすぎて、ちょっとだけがっかりしたことは否定しない。
まっとうであることに、がっかりするのも筋違いなのだが、ギドクという監督に対する僕の良い意味での偏見だと言っておこう。



それはそれとして、主人公の母に甘える姿を見ていると、孤児だった彼は、母の愛に飢えていたことはわかる。
彼はとても暴力的な男だが、無条件で自分を包み込んでくれる母性に対し、あこがれのようなものはあったらしい。
だからいい大人なのに、子どものような態度を取る。

そしてそんな主人公の依存心こそが、女の本当の目的であることが後半になるにつれてわかってくる。


しかし主人公の男もかわいそうである。
女も、あの男はかわいそうだと叫んでいるけれど、環境もあり、彼はあそこまで冷酷にならざるをえなかったのだろう。
失うものがなかったから、たぶん暴力的にもなれたのだ。

だが守りたい者ができたことで彼は弱くなった。
そう考えると、人というものは、ある意味とても悲しいものだな、と思う。

そして真実を知ったときの彼の絶望を思うと、それもまた悲しいことだと思う。
復讐というものは実に陰惨だ。


ともあれ、人の感情と弱さがひしひしと伝わる作品であった。
ギドクのベストではないが、これもまたすてきな作品の一つである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「のぼうの城」

2012-11-13 21:27:00 | 映画(な行)

2011年度作品。日本映画。
天下統一目前の豊臣秀吉が、北条勢を攻めようとしている頃。周囲を湖で囲まれ「浮き城」の異名をもち、人々が平穏に暮らす武州・忍城には、領民から“のぼう様”と呼ばれ、誰も及ばぬ人気で人心を掌握する成田長親という城代がいた。やがて石田三成は、秀吉より預かった2万の兵を進め、忍城に迫ろうとする。武将に求められる資質を持たず、まさに“でくのぼう”のような長親は戦いを決意、たった500人の軍勢で迎え討とうとするが…。
監督は犬童一心、樋口真嗣。
出演:野村萬斎、榮倉奈々ら。




すなおに楽しめる娯楽大作というのが第一印象だ。

樋口真嗣はドラマはダメだが、アクションはいい、という印象があるけれど、犬童一心も入ることで、それがいい感じで補えているように感じた。


映画は小田原攻めの際の、忍城攻略戦を描いたものだ。
大作ということもあり、メインの戦の場面は、力(というか金)をつぎ込んでいるのがわかる。
セットもきっちりつくられているし、エキストラも大勢で気合の入りようがわかるというもの。

CGがイマイチだったので(特に冒頭の備中高松城の水攻めの場面)醒めてしまう部分はあったのだけど、それ以外の城攻めとそれを迎え撃つ忍城の軍勢との衝突の場面はなかなか臨場感があって楽しめる。


物語もなかなかにおもしろい。
でくのぼうと揶揄される長親を領民は慕い、武将たちもその個性に魅かれている。
そんな長親を大将にいただき、みんなで協力して戦っていく場面はなかなか熱かった。

そして長親は実際、そうみんなに思わせるだけの人物であるようにも見えた。
実際、見ている感じは領民思いのいい領主で、深謀遠慮の大将といった印象を受ける。


そしてそう思わせてしまったのは、この映画の弱さでもあるのだろうな、とも同時に感じた。
映画は映画として、これでいい。
だけど原作にもあった、長親が本当に天才なのかどうか、まったくわからない感じが出ていたら、もっとおもしろかったのにな、と思うだけにやや惜しい。

野村萬斎は悪い役者ではない。
田楽のシーンは本職だけにさすがだと思う。

でも彼の動きや表情では、どうしてもでくのぼうには見えないのである。
人は知らんが、僕には、のぼう様は陽気なインテリにしか見えなかった。
雰囲気があるというのも、時としては困りものである。


だが全体的に楽しめる内容になっており、個人的には満足だった。
エンタテイメント性に富んだ一品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



原作の感想
 和田竜『のぼうの城』

「ノルウェイの森」

2010-12-21 20:55:29 | 映画(な行)

2010年度作品。日本映画。
親友・キズキを自殺で失ったワタナべは、東京で大学生活を送り始める。ある日、ワタナベは偶然にキズキの恋人だった直子と出会い、毎週直子と東京の街を散歩するようになる。しかし、直子の20歳の誕生日、精神的に不安定になった直子と夜を共にする。それ以来、ワタナベは直子と連絡がとれなくなってしまう。さらに喪失感が深まり心を病んだ直子は、京都の療養施設に入所していたのだ。直子に会いたくても会えない状況の中で、ワタナベは大学で出会った不思議な魅力を持つ女の子・緑にも惹かれていく。(ノルウェイの森 - goo 映画より)
監督は「夏至」のトラン・アン・ユン。
出演は松山ケンイチ、菊地凛子 ら。




静かな映画である。それゆえにとても雰囲気がよい作品だと見終えた後には思うことができる。
だが裏を返せば、その空気だけが目立ってしまい、雰囲気だけの映画に終わってしまった感もある。
「ノルウェイの森」の僕個人の印象を総括するなら、そういうことになる。


映画のトーンはあくまで淡々としている。
叙情的なタッチで原作が描かれているので、映画でもその情感を尊重したのだろう。
だがその淡々としたトーンのため、セリフも抑え気味で、所々では棒読みっぽくなってしまっている。
原作が原作なので、セックスに関する会話もあるが、淡々としすぎているため、性的なのに生々しさがこれっぽちもなく浮世離れしており、リアリティがない。

そういう事情が個人的にむちゃくちゃ引っかかってしまい、物語の中へうまく入っていくことができなかった。


だが映像は叙情的なため、いくつかのシーンは心に残り忘れがたい。

『ノルウェイの森』は、(大ざっぱに語るなら)生きづらさを抱えながら生きる困難を、死者の記憶を重ねながら描いた作品なわけだが、その内容と、映像の詩的情景は見事にマッチしている。
草原のシーンは美しく、映像美が堪能できるのはまちがいない。


はっきり言って、僕の好みではないし、トータルとしてみれば物足りない面は目立つ。
だがいくつかの点には、光るものを見出せる作品になっている、と思った次第だ。

評価:★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・トラン・アン・ユン監督作
 「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」
・松山ケンイチ出演作
 「ウルトラミラクルラブストーリー」
 「L change the WorLd」
 「男たちの大和/YAMATO」
 「椿三十郎」(2007)
 「DEATH NOTE デスノート 前編」
 「DEATH NOTE デスノート the Last name」
・菊地凛子出演作
 「スカイ・クロラ」
 「バベル」

「NINE」

2010-03-24 20:35:25 | 映画(な行)

2009年度作品。アメリカ映画。
イタリアが世界に誇る映画監督、グイド・コンティー二。だが豊かなはずの想像力が突如として消え果てた彼は、9作目となる新作の脚本を一行も書けずにいた。決まっているのは主演女優だけなのに、刻々と迫る撮影開始日。追い詰められた彼は、ついに新作の記者会見から逃げ出し、海辺のホテルに身を隠す。そこで人生に影響を与えた美しき女性たちの幻想に逃避し、現実世界では呼び出した浮気相手と妻に救いを求めるグイド。だが間もなく、プロデューサーに居場所を突き止められた彼は、また映画製作という戦場に連れ戻されてしまう…。(NINE - goo 映画より)
監督は「シカゴ」のロブ・マーシャル。
出演はダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール ら。



お話という点から見るなら、非常にうすっぺらい作品だと思う。

クランクインも近いのに脚本を仕上げていない映画監督を主人公に、彼の不倫劇と、むかしの女たちとの思い出を描く。内容としてはそんなところだ。
オリジナルの「8 1/2」を見たことはないが、それだけ聞けば、それなりにおもしろそうに見える。

だがドラマチックで、盛り上がりがあるかと言ったら、そうでもない。
不倫劇のため、修羅場っぽいのはあるのだが、描き方としては弱いし、恋愛ものとして見ても、情感には乏しい。

ラストだって中途半端だ、と僕は思う。
あれだけのメンツが一堂に会しただけに、かなりすばらしいラストが待っていると期待していたのだけど、あまりに尻切れとんぼで、がっかりしてしまう。あれはかなりもったいない。


だがお話としてではなく、ミュージカルという点で見るなら、話はまた別である。

ミュージカルと言えば、登場人物が急にセリフを歌い出すというイメージが強く、引いてしまって入り込めない作品もあるのだけど、この作品はそんなこともなかった。
歌とセリフの境目をはっきり区別していて、歌い出す場面も自然な流れの中で描いている。
そのため、すんなりと音楽とドラマに入っていくことができるのだ。
これは演出がうまい証拠でもあるのだろう。


そういった演出もあり、劇中の音楽をすなおに堪能できる。

ペネロペ・クルスは、色っぽく、音楽だけでなくビジュアル的にも魅せてくれる。このあたりの存在感は、さすがだな、と感心する。
ケイト・ハドソンは、ノリノリでポップな感じが楽しげで、聴いていても心地いい。
マリオン・コティヤールの一つ目の歌はしっとりとしていて、聴かせるものがあるし、二つ目の歌は情念を吐き出すかのようで雰囲気がいい。
またダニエル・デイ=ルイスも、苦悩を吐き出すような歌いっぷりが印象的であった。

そんな中で個人的にもっとも気に入ったのは、ファーギーである。
彼女の砂とタンバリンを使った歌の演出は本当にかっこよくて、見応えも抜群である。
歌そのものもパワフルで、それゆえに強く心に響いてならない。
スタッフロールのときにも彼女の歌は流れたが、ビジュアルがなくても、充分心に届く歌となっている。

僕はソロとしてのファーギーはほとんど聴かないし、BLACK EYED PEASもそこそこという程度にしか聴かない。
それだけに、彼女がこんなにも優れた歌い手だったのか、といまさらのように驚いている。
僕は彼女を見誤っていたかもしれない。


ともあれ、歌に関してだけ言えば、本作はきわめてすばらしい作品である。
見て良かった。そうすなおに思える一品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・ロブ・マーシャル監督作
 「SAYURI」
・ダニエル・デイ=ルイス出演作
 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
・マリオン・コティヤール出演作
 「パブリック・エネミーズ」
・ぺネロぺ・クルス出演作
 「ボルベール<帰郷>」
・ジュディ・デンチ出演作
 「あるスキャンダルの覚え書き」
 「007 カジノ・ロワイヤル」
 「007 慰めの報酬」
 「プライドと偏見」
・二コール・キッドマン出演作
 「ライラの冒険 黄金の羅針盤」

「脳内ニューヨーク」

2010-01-27 20:18:00 | 映画(な行)

2008年度作品。アメリカ映画。
ケイデン・コタードは、ニューヨークに住む人気劇作家。ある日突然、妻・アデルが娘を連れて家を出て行ってしまう。不運続きの彼のもとにマッカーサー・フェロー賞(別名“天才賞”)受賞の知らせが舞い込む。人生に行き詰まりを感じていた彼は、その賞金を使い、ある前代未聞のプロジェクトを実行することを決意する。自分の人生を“再生”するための手段として…。(脳内ニューヨーク - goo 映画より)
監督は「マルコヴィッチの穴」の脚本家で、これが初監督作となるチャーリー・カウフマン。
出演はフィリップ・シーモア・ホフマン、サマンサ・モートン ら。



はっきり言ってよくわからない映画である。

主人公が妻と別れるまでを描いた、前半の神経症めいた雰囲気はおもしろいと思うし、不穏な感じがあって、なかなか興味を惹きつけられることは確かだ。
だけど、それ以降の展開についていけなくなる。
現実と願望と虚構が入り混じったようなシュールな世界と展開をどう捉えていいのかわからなくて、困惑し、時間が経つにつれて、どんどん混乱してしまう。
つまらないとまでは言わないが、どうにもクセが強すぎて、うまく楽しむことができない。


自分の人生を演劇化するという内容自体、ずいぶんシュールだし、それが17年経っても完成しない時点で、かなり異質な作品だ。
だが主人公はそんな自己言及をすることで、自分の中の足りない部分を埋めようとしているのがわかり、興味深いことは事実である。
そんな主人公の心象を一言で言うならば、孤独といったところだろう。
そして時折にじむ、自分の人生に対する、ある種の後悔が少し痛い。その点はいいなとは思う。
しかし個人的には好みでない、という印象だけは最後まで覆らなかった。


というわけで、僕は合わなかったし、監督の狙い通りにいっているとは、思えない部分は多かった。
けれど、個性的かつ野心的な映画であることは確かである。きっとはまる人には、はまる映画なのだろう。

評価:★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・フィリップ・シーモア・ホフマン出演作
 「M:I:III」
 「カポーティ」
 「その土曜日、7時58分」
 「ダウト ~あるカトリック学校で~」
・サマンサ・モートン出演作
 「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
 「リバティーン」
・ミシェル・ウィリアムズ出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「ブロークバック・マウンテン」
 「ランド・オブ・プレンティ」
・キャサリン・キーナー出演作
 「イントゥ・ザ・ワイルド」
 「かいじゅうたちのいるところ」
 「カポーティ」

「2012」

2009-12-09 21:31:08 | 映画(な行)

2009年度作品。アメリカ映画。
2009年。太陽の活動が活発化し、地球の核が熱せられた結果、3年後に世界は終わりを迎える―。この驚愕の事実をいち早く察知した地質学者エイドリアンは、すぐに米大統領 主席補佐官に報告。やがて世界各国の首脳と一握りの富裕層にのみ事実が知らされ、人類を存続させる一大プロジェクトが極秘に開始される。そして2012年。売れない作家のジャクソンは、子供たちとキャンプにやってきたイエローストーン国立公園で、政府の奇妙な動きを目撃。世界に滅亡が迫っていることを、偶然知ってしまう…。
監督は「デイ・アフター・トゥモロー」のローランド・エメリッヒ。
出演はジョン・キューザック、キウェテル・イジョフォー ら。



ローランド・エメリッヒらしい映画である。

演出はハッタリがきいていて、ともかくド派手だし、困難に立ち向かう人間たちのきずなの描き方はいかにもハリウッド映画、悪く言えばチープな感がある。
そういうのを見ていると、また同じことやっているな、と思ってしまう。

だけどローランド・エメリッヒは、そんな方法に一分の迷いもない。
そしてその迷いのなさゆえに、安っぽく見えかねないストーリーなのに、おもしろいとすなおに思えるレベルにまで仕上がっているのだ。


本作は2012年に天変地異が起こるというパニック映画だ。
そういうわけもあり、地球崩壊の映像にはかなり力が入っている。
いくつもの点で、んなアホな、とか、いやいやちょっとおかしくね?と問いかけたくなるような部分はあるのだけど、徹底的に地球や街を壊しまくっていることもあってか、細かいことをつっこんでも仕様がないな、という気分になってしまう。
その思い切りの良い映像は見応え抜群だ。
大画面で見ていることもあり、臨場感と迫力には興奮してしまう。


映像だけでなく、ストーリー展開も楽しめる。
登場人物たちに次々と苦難や災難が襲い掛かる展開に(幾分長くはあるけれど)、ドキドキしながら映画を見ることができる。

わかりやすいエンタテイメントであり、娯楽としては充分に及第点の作品。そんなところだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ジョン・キューザック出演作
 「さよなら。いつかわかること」
・キウェテル・イジョフォー出演作
 「アメリカン・ギャングスター」
 「インサイド・マン」
 「トゥモロー・ワールド」
・アマンダ・ピート出演作
 「シリアナ」

「南極料理人」

2009-08-26 20:48:46 | 映画(な行)

2009年度作品。日本映画。
西村は、ドームふじ基地へ南極観測隊の料理人としてやってきた。限られた生活の中で、食事は別格の楽しみ。手間ひまかけて作った料理を食べて、みんなの顔がほころぶのを見る瞬間はたまらない。しかし、日本は妻と8歳の娘と生まれたばかりの息子が待っている。これから約1年半、14,000Km彼方の家族を思う日々がはじまる……。
監督は、これが商業長編デビュー作となる沖田修一。
出演は堺雅人、生瀬勝久 ら。



「南極料理人」と銘打っているだけあり、料理の映像が本当に美しく、おいしそうに見える。
肉の丸焼きとか、白身魚のバルサミコ酢ソースのやつや、魚の煮付け風の料理が個人的にツボで本当に食べたくなったし、ラーメンも見ているだけで食欲をそそられる。実際、この映画を見た後、すぐにラーメン屋に行ったほどだし。
それに役者が本当にうまそうに食事をとるのである。それを見ているだけで、こちらのおなかがすいてくるほどだ。


料理に限らず、映画自体も優れた仕上がりになっている。特にコメディ部分がいい。
個人的にはイセエビのシーンが良かった。そのアホっぽさはむちゃくちゃおかしいし、本音をかくしたような微笑みを浮かべる堺雅人にもちょっと笑ってしまう。
ほかにも南極という閉鎖された極寒の地でくりひろげられる人間模様は見ていてもおもしろく、いくつも笑えるシーンがあり、すなおに楽しめる。

しかし南極で仕事をするのも大変だよな、とこの映画を見ていると思ってしまう。
職場が南極である以上、単身赴任にならざるをえず、家族と離れ離れになってさみしい思いを味わうし、独身者は恋人と別れる羽目になる。ときどき引きこもりたくなるし、帰りたいな、とつぶやくこともある。

だが基本、基地の人間は楽しんで、そこでの生活を過ごしているようだ。
男はやはり集団になるとバカなのか、くだらないことを話したり、したりして、それなりに楽しさを見出している。
その和気藹々とした雰囲気は愉快で、見ているこっちまで楽しい気分になることができる。


全体的に見てバランスの悪い面もあるのだけど、所々で笑うことができ、楽しい気分にもなり、おなかもすいてくる。何ともすてきな一品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・堺雅人出演作
 「アフタースクール」
 「ハチミツとクローバー」
・生瀬勝久出演作
 「THE 有頂天ホテル」

「20世紀少年」

2008-09-12 21:18:20 | 映画(な行)

2008年度作品。日本映画。
1969年夏、小学生のケンヂは同級生のオッチョらといった仲間たちと空き地の原っぱに秘密基地を作り、秘密の遊びのひとつ「よげんの書」に空想の数々を描いた。1997年、ケンヂはコンビニ経営をしながら、失踪した姉の娘の面倒を見ていた。そんな日常が同級生ドンキーの死などをきっかけに騒がしくなる。そして巷で「ともだち」と呼ばれる謎の教団と、いくつかの事件が、かつて作った「よげんの書」とそっくりなことに気づいていく。
浦沢直樹のベストセラーコミックを実写映画化。
監督は「TRICK」の堤幸彦。
出演は「みんなのいえ」の唐沢寿明。「八つ墓村」の豊川悦司 ら。


最近は小説以上に、マンガを原作にした映画が増えてきた。テレビドラマもその傾向が強くなっている。
そういった場合、よく聞かれるのが原作と映画の比較だ。比較したり、されるのはある程度仕方ないけれど、原作と映画は必ずしも同一と見なすことはできない。原作の表現手法はマンガである以上どうしても静的なものになってしまう。映画はそれを動的に移し変えていくものであり、それを行なう時点で、原作と映画がまったくの別物になるのはある種の必然であるからだ。それに映像に置き換える際、映画監督という他者の視点がそこに介在しまうことも大きいだろう。

本作「20世紀少年」は最近増えてきたマンガ原作の映画だ。
原作のほうは「スピリッツ」で毎週かかさず読んでいたし、「21世紀少年」が終わった後には、復習のためにマンガ喫茶で再読した程度には親しんできた。
そういう自分から見ると、なるほど原作を忠実に再現していると感じる面は多かった。コンチやカツマタくんに関するセリフにはにやりとしてしまう。
それは脚本に原作者の浦沢直樹が絡んでいるということも大きいのだろう。そういう意味、映画にすることで入りがちな他者の視点を抑えていると言えるのかもしれない。

しかし、にもかかわらずこの作品は、僕の目から見れば、典型的な失敗作と映った。
なぜならこの映画のストーリーラインがまったくの荒唐無稽であったからだ。

この映画では、少年時代に考えた空想を元に、世界を滅ぼそうとする集団が出てくる。その根本的な設定をマンガで読んでいるとき、多少つっこみつつも、何だかんだで気にせずに読み進むことができた。

しかしそれが映像化に移し変えたことで、途端バカバカしく、安っぽい物語に変質してしまう。ガキの空想を細菌兵器も含め現実化って、そこには説得力のかけらもない。
多分そのストーリーはマンガだから許されているものなのだろう(あるいは浦沢の演出力とセンスゆえか)。実際に人間を動かして、それを表現してしまうと、人間の動きがリアルな分、そこにある展開の嘘っぽさがやたらに目立ってしまう。
大体「ともだち」がコリンズの立場だったとしても、そこまでやります? つうか、やろうと思ったとしても現実問題、できます? 友民党が本気で政権取れると思います? 

根本的な設定以外にも、ご都合主義的な展開がいくつか見られ、そこも気に入らない。演技の過剰さも鼻についてならない。

僕は「20世紀少年」というマンガは好きだ。しかしこのマンガはそもそも映像化には向かない作品だったのだ(同じ理由で「MONSTER」や「PLUTO」を仮に実写映画化したら失敗するだろう)。
僕はこの映画作品は大嫌いだ。多分続編は見ないだろう。
原作さえ知っていればそれで充分。本作はそういう作品である。

評価:★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・唐沢寿明出演作
 「THE 有頂天ホテル」
 「ザ・マジックアワー」
・豊川悦司出演作
 「接吻」
 「椿三十郎」(2007)
 「日本沈没」
 「フラガール」
・常盤貴子出演作
 「アフタースクール」
 「ブレイブ ストーリー」
 「間宮兄弟」
・香川照之出演作
 「キサラギ」
 「嫌われ松子の一生」
 「ゲド戦記」
 「ザ・マジックアワー」
 「14歳」
 「憑神」
 「バッシング」
 「花よりもなほ」
 「HERO」
 「ゆれる」

「ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛」

2008-05-30 20:59:13 | 映画(な行)

2008年度作品。イギリス=アメリカ映画。
前作から1300年後のナルニアは人間の王国に侵略されていた。その王国の王子カスピアンは王座を狙う伯父ミラースに命を狙われ、ナルニアの民が身をかくす森に逃亡する。その頃ロンドンで暮らすペベンシー4兄妹は、不思議な風につつまれ、再びナルニアにやって来る。
監督は「シュレック」のアンドリュー・アダムソン。
出演はベン・バーンズ、ジョージー・ヘンリー ら。


基本的におもしろい映画ではある。
起承転結ははっきりしていて、プロットにうねりはあるし、見せ場のアクションもCGを駆使して盛り上がるようにできている。4兄弟がナルニアにやって来た理由が、カスピアン王子の角笛が原因であると明らかになる流れは個人的にはおもしろいと思ったし、全体的に見ても退屈する部分はなかった。

しかし物語の盛り上がりはあるにもかかわらず、映画自体はうすっぺらいという印象を感じたこともまた事実である。
そう感じた理由は物語の説明不足などいろいろあるが、最大の理由はキャラクターの設定にあるだろう、と僕は思う。一言で言えば、キャラクターがすべて地味なのである。

たとえば今回の目玉のカスピアン王子。これがまったく魅力がない。
王子としての威厳に欠け、頼りなく、見せ場でも特別かっこよく描かれるわけでもなくで、華がない。描き込みが足りないせいもあるだろうが、取り柄らしい取り柄すら見出すことができなかった。

また前回から引継いで登場する4兄弟も地味である。
長男には決断力がなく、次男の活躍も目立ったものではない。女性二人はまだましだが、それでも長女のロマンスの描き方も取ってつけたようで、賢い末妹はさして強い印象を残すほどでもない。

だが一番問題があるのは、ライオンのアスランであろう。
はっきり言って、彼の行動理由が僕にはまったく理解できなかった。もちろんその理由は映画中で説明されるのだが、アスランがもっと早く動いていたら、物語の世界があそこまでこじれることはなかったのではないかと思うだけに、説得力としてはどうしても弱く見えてしまう。
しかもアスラン、遅れてやって来たくせに、最後の態度はあまりに偉そうではないだろうか。もちろんその理由は知っているけれど、そういう態度取るなら、もっと早く動けよ、と強く思ってしまう。

何か散々いろいろけなしているが、映画そのものは基本的にはおもしろいのである。
しかしそのおもしろさはプロットをテンポよく運んでいるという点に依存しているだけでしかない。プロットの流れを優先するあまりに、キャラが完全にプロットに支配されすぎてしまっている、という風に僕には見えたし、いくつかの部分で描きこみ不足が生じてしまった。
そこが惜しいし、勿体ない作品だと強く思わずにはいられなかった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


前作の感想
 「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」

「ノーカントリー」

2008-05-09 17:45:58 | 映画(な行)

2007年度作品。アメリカ映画。
1980年代テキサス、ハンター・モスは偶然死体に囲まれたトラックを発見する。その荷台には大量のヘロインと現金200万ドル。彼は人生を大きく変えることを知りながらも、その金に手を出す。消えた金を取り戻すために雇われた、異様な風貌の殺し屋シガーは邪魔者を躊躇なく殺しながら、モスの後を追う。
監督は「ファーゴ」のジョエル&イーサン・コーエン。
出演は「メン・イン・ブラック」のトミー・リー・ジョーンズ。「海を飛ぶ夢」のハビエル・バルデム ら。


この映画でもっとも際立っているのはハビエル・バルデム演じる暗殺者の存在だろう。
彼の偏執狂的で冷徹で、人の生死をコイントスで決めるという異常な人物像には空恐ろしいものがある。登場人物の一人が言っているが、麻薬や金を超えたところにいるその暗殺者の造詣は、世間の人間には理解できないような独自の価値基準で動いているだけに不気味さが漂う。
淡々と人を殺していくシーンが多いだけにそのインパクトは強烈だ。

そしてそんな暗殺者があるからこそ、彼が忍び寄ってくるというサスペンスタッチの展開に緊張感が生まれる。
特に前半から中盤にかけての緊張感は力強く、なかなか忘れがたい。中盤の銃撃シーンなどはまさに手に汗握るという使い古された言葉が似合うほど切羽詰った空気が流れている。そのような張り詰めた空気の描写は見事というほかない。

だがこの映画は後半にかけて失速してしまう。
後半に向けて映画は「No Country For Old Men」という原題を意識した展開になっていっている。つまり昔と違い、現代の異常性が前面に出た犯罪が繰り広げられる時代では老人の出番などない、といったところだろう。
そのテーマ性の意識は明確でポストモダンの声が聞かれた1980年を舞台にしているのも意味深い。
だがそういったテーマを訴えるには、トミー・リー・ジョーンズ演じる警官のパートの描写がどうしても弱く、力不足に映ってしまう。そのためラストのセリフは浮いているように感じられた。

僕は思うのだが、コーエン兄弟が本当に描きたかったのは、上記の老人の感慨などではなく、暗殺者の異常性だったのではないだろうか、という気がしなくはない。
それならば下手に理を語らず、異常は異常のままで放り出せばよかったのではないだろうか。そうすれば、物語に神話的な要素すら誕生していたように素人目には映るのだがどうだろう。

ともかくもラストのために傑作になりそこねたのは残念としか言いようがない。優レベルの作品であることは確かだが、それより上に行けただけに本当に勿体無い限りである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想:
・トミー・リー・ジョーンズ出演作
 「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」
・ジョシュ・ブローリン出演作
 「アメリカン・ギャングスター」
 「プラネット・テラー in グラインドハウス」

「長い散歩」

2007-01-06 20:31:31 | 映画(な行)


2006年度作品。日本映画。
一人娘から憎まれる初老の男が、引越し先のアパートで母親から虐待を受ける少女と出会う。彼は少女を救いだし、逃避行を開始する。
モントリオール映画祭でグランプリをはじめ三冠獲得。
監督は「るにん」の奥田瑛二。
出演はこれまで数々の賞を受賞してきた名優、緒方拳。高岡早紀 ら。


むちゃくちゃおもしろいというわけではなく、かと言ってひどい作品というわけでもない。中途半端な作品だったというのが素直な感想である。

前半はとにかくすばらしい。特に虐待のシーンの恐ろしさは見事だ。そのシーンの時には身を硬くして見てしまうほど迫力があった。
その虐待の影響により、子供が社会性のかけらもなく、ひたすらに反抗する姿にはなんとも言えず胸に迫るものがある。それだけに男が子供を連れて行くシーンは説得性があったし、共感を生んでいた気がする。

しかしそういった良さがあったにもかかわらず後半で物語はだれていく。
多分、それは松田翔平が早々に退場してしまったのが大きいのではないだろうか。松田翔平の登場は物語に違ったトーンを生み出しており、それが極めておもしろかったのだけど、結果的には彼の扱いが中途半端な形になってしまったように思える。それが実に惜しい。
そして、その中途半端さが作品の味とテンポを損ねていたように僕には思えた。

ラスト自体も明確な救いめいたものは感じられない。もちろん飛ぶ少女を救うなどの意図はわかるけれど、扱いとしては描ききれている感じはしない。そのためどうも食い足りない印象が残った。
素材が良かったのだが、うまく料理し切れなかった。本作を総括するとそんな感じになる。残念な限りだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・奥田瑛二監督作
 「るにん」
・緒方拳出演作
 「武士の一分」
・高岡早紀出演作
 「寝ずの番」

「虹の女神 Rainbow Song」

2006-10-31 20:09:21 | 映画(な行)


2006年度作品。日本映画。
大学時代、ふとしたきっかけで知り合った智也とあおいは自主映画をつくりながら、様々なことを打ち明ける仲になっていた。大学卒業後、智也はあおいの死をきっかけにあおいがどんな存在だったか気付くこととなる。
岩井俊二がプロデュースを担当。
監督は「ニライカナイからの手紙」の熊澤尚人。
出演は「天使の卵」の市原隼人。「スウィングガールズ」の上野樹里 ら。


ベタな映画である。
ヒロインは気の強い女性で、仲のいい男のことが好きなのだが、思いを隠している。そして男は鈍感でそんな女の気持ちに気付くことはない。物語というジャンルにおいては、実にありがちな設定だ。加えて女が死ぬと来るとあってはベタの境地である。

しかし本作はありがちな設定だけど、個人的には印象深い作品であった。
その理由の大半はまちがいなく上野樹里の存在感によるところが大きい。この映画に僕は満点をつけるが、そのうち、★4つくらいは上野樹里のおかげである。
気の強い女性が見せるぞんざいとも言えるしゃべり方、雰囲気、すべてが印象的で、彼女が出てくることで画面がいきいきとする。そしてそれでいてキスのシーンに見せる表情の変化などは絶妙ではないだろうか。
気の強さと、伝えきれないもどかしさ、そういったものが画面から実によく伝わってくる。彼女が出てくるシーンと出てこないシーンでは、主観だけど、映画のおもしろさは違っていた。
「のだめカンタービレ」の舌足らずなしゃべり方とは打って変わったこの演技。よくもまあタイプの違うキャラをここまで上手に演じられるものだ。
改めて言うのもなんだけど、上野樹里は存在感のある、本当にいい女優である。

上野樹里以外に触れよう。
物語はベタだが、オーソドックスであるため、安定したつくりである。いくつか余分な(それを入れる理由はわかるけれども)エピソードはあるものの、つまらないと思うことはなかったし、実際それなりの感動も得られる。
エピソード単品では及第点レベルという以上の印象を持たないが、見て損はない作品だと個人的には思う。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「日本沈没」

2006-07-24 22:03:49 | 映画(な行)


2006年作品。日本映画。
小松左京のベストセラー小説を原作にした1973年作品「日本沈没」をリメイク。海底プレートの沈降のため沈没する日本を舞台にしたパニック映画。
監督は「ローレライ」の樋口真嗣。
出演はSMAPの草剛。「メゾン・ド・ヒミコ」の柴咲コウ ら。


まったく期待していなかったのだが、思った以上におもしろくて得をした気分だ。とにかくエンターテイメントに徹した作品だと思う。
この作品は日本で、ハリウッド式の映画を作ってみたといったところだろうか。そういうスタンスならば、細かいことを気にするのが野暮というものだ。

例えば襲い来るように次々と現われる危機の数々や、うねりのあるプロット。どう見てもちゃっちいけれど、それはそれで笑えるCG。火山の噴火や洪水、街の壊れる様の幼稚っぽいがなかなかに楽しませてくれる映像の数々など。見ていて楽しい面は無数にある。
そういったものを僕は受け入れ、どんどん楽しむことができた。

もちろん欠点をつければキリがない。
ありがちなストーリーはオーソドックスで、ある意味想像の範囲内だし、演出も安直だ。恋愛シーンは、ハリウッドアクション映画のように見ているこちらが気恥ずかしくなるようなレベルでしかない。そして何より主人公がまったくもって切れがないというのはこの手の映画としては致命的なものであろう。

しかしそんなこと言っても仕様もない。むしろそれを笑って受け入れ、存分に映像の楽しさを味わった方が正しい鑑賞方法であろう。
そういう風にして鑑賞した僕にとって、本作は大満足の作品であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)